第5話 過去の世界
神の使いだという人に転生させると言われ、次に気付いた時はどこかの部屋の中で寝かされてた。
（どこだろう、ここは？）そう思いながら周りを見渡した。
部屋の中には自分が寝かされている何か以外は特に何もなく、その何かには転落防止用のような柵がいくつか立てられていた。
そして少しだけ見えた窓の外には、どこかの村の中だと分かるいくつかの建物が見えた。どこかの村の中みたいだけど、何か懐かしい雰囲気だなぁ。
とにかく誰かを呼んでみようと思い声を出したら、「ホギャー！ ホギャー！」（ホ、ホギャー！？）まるで赤ん坊が泣き叫ぶような声だったことに自分が驚いていた。
するとその声を聞いて近くのドアが開く音が聞こえ、そして「マリーおばちゃーん、レックスくんがおきたみたーい」という声が聞こえた。
（マリーおばちゃんだって？ しかも今の声って？）声が聞こえた方を見ようと必死に身体を動かし、ようやく声の主が見えるようになった。
その主はまだ1歳位の男の子だったが、雰囲気が記憶にある銀髪で活発そうでいてどこか頼りがいのあるあのアッシュ兄ちゃんそっくりだった。
まさか、アッシュ兄ちゃん？ そう思っていたら別の誰かの足音が聞こえてきた。
「ありがとうアッシュちゃん。あーらレックス、起きちゃったの？」そう言って部屋に入ってきたのは、長い黒髪をなびかせ穏やかで優しい笑顔の先ほどマリーおばちゃんと呼ばれていた女性ーー母親のマリーア・アーノルドーーその人だった。そして男の子の方はやはりアッシュ兄ちゃんで間違いなかった。
前世の記憶でそれぞれ断片的に残っている母さんと小さい時のアッシュ兄ちゃん。改めて2人だと認識したことで懐かしさと嬉しさのあまり再び泣き出した。
「どうしたのレックス？ そんなに泣き出して？」
「ヨシヨーシ」
母さんに抱き上げられ、母さんとアッシュ兄ちゃんの2人で泣き止ませようとしていたら、「ただいま。マリー、帰ったぞー！」と遠くから男の人の声が聞こえた。
（今の声！）そう思い泣き止んで部屋の外に目を向けると、先ほどの声の主である父親ーーゴーシュ・アーノルドーーがやってきた。
（と、父さん！？）「あぁ、あなたおかえりなさい」「おじさんおじゃましてまーす」「おぉアッシュ君、今日も来てたのか」「ウン！ もちろん！」父さんと母さん、そしてアッシュ兄ちゃんがそれぞれ短い会話のやり取りをした。
「おおレックス、今日も元気そうだなぁ。外にまで泣き声が聞こえてきたぞ」そう言って僕の顔を指で撫でてきた。
「そんなにも大声でした？」「あぁ。だが男の子何だからそれぐらい元気でなきゃなぁ」
母さんと父さんがそう言い合った後アッシュ兄ちゃんが、「そうだよねぇ。それにくらべてアリスちゃんはやっぱりおんなのこだけあってなくのもおとなしいよね」
ア、アリスだって？ アリスももう生まれて、······そうだった。僕とアリスは誕生日が1日違い（僕が1日早く生まれた）だから当然か。
それにしても、すぐ近くに父さんと母さんと小さい頃のアッシュ兄ちゃん。そして話の中にアリスの名前。ホントに、ホントに赤ん坊の頃の僕に転生出来たんだ。
さっき以上に今の状況が嬉しくなってしまい、先ほど以上に激しく泣き出してしまった。突然泣き出されて3人は必死に泣き止ませようとあやしたが、中々僕は泣き止まなかった。
恐らくこの時が人生の中で1番泣いただろう。
ーー転生した後は全てそなた次第ーー
神の使いに言われた通り、これからの人生は僕次第で変えることが出来るんだ！ なら······。
この時点で僕はある決意を固めた。
ファンタジック歴1086年10月、運命の魔王軍との決戦の日まで後14年。
