第198話 避難拠点づくり7~材料集め・その他~
輝石を団長に提出した翌日、僕達は避難拠点建設予定地へ向かった。そして現場に着いた途端、「「······」」僕達は言葉を失った。そこには······大量に山積みされた木材やワラなどの草木系の材料が置かれていたのだ。
「こ、これって一体······」僕らがウッディらから降りて改めて呆然と材料を見ていると、「おう、来たか! 2人とも」ヒューズ隊長が声を掛けてきた。
「「ヒューズ隊長!」」「こ、この草木の材料の山は?」「ああこれか。お前達が海人族のお城に向かった後にあちこちの町や村へ声を掛けて提供してもらったんだよ」
「こ、この数日の間だけでですか?」「ああ。そこはある人達の尽力のお陰なんだがな」「ある人達、って?」僕が尋ねたら、「俺達の事だよ、レックス」後ろから懐かしい声が聞こえた。
そう思って後ろを振り向いたらそこにはやはり、「レ、レオおじさん!?」レオおじさんとウッド村の人達がいたのだった。
「ど、どうしてレオおじさんや村の皆が?」「森で伐採した木材や草類をここまで運搬するためにだよ」「じゃあ、ウッド村周辺の森からも草木の提供を?」「ああ。村の方ではゴッシュが主導して伐採作業を行い、俺が運搬作業を主導して村近くの町や村の分も運搬してるんだよ」
「と、父さんが!? もう怪我は治ったの?」「ああ、少し前にな。それからヒューズさんに今回の話を聞いて積極的にあいつが主導して動き出したんだよ」「そ、そうなんだ」(良かった、父さん)
父さんの怪我が回復したと聞いて僕は心の底から安堵したのだった。
「だけど、本当によくこれだけの量を集めて運搬出来ましたよね?」「ハハッ。それは最も活躍してくれた奴がいたからね」「最も活躍してくれた奴?」
「あいつだよ」とレオおじさんはある方向を見るよう促した。その先には······え?「べ、ベアー!?」何とベアーが荷車を引くための紐を付けられた姿で佇んでいたのだった。
「俺達が最初に村を出ようとしたら森からひょっこり現れて、荷車を押そうとしてくれたからああいう形にして運搬を手伝ってもらうようにしたんだ」「そ、そうなんだ」そりゃあ沢山運搬出来るはずだよなぁ。ハハッ。
「それ以外にもこれだけ集められた理由があるんだけどな」「え、それ以外にもって?」「お前だよ、レックス」「ぼ、僕!?」突然そうヒューズ隊長から言われて驚いた。
「多くの町や村で今回の提案者がお前だと聞くと、積極的に協力してくれるようになったんだよ。『彼には色々お世話になった』とか、『以前助けられたから、今度はこっちが助ける番だ』とか言ってね」
(ハッ!)まさか、僕が変貌していた頃も含めて特別任務で見回った際に行ってた事が、ここにきて自分達に返ってきたなんて······。そう思ったら心が気持ちよくなった。
「さて、取り敢えずこれで主だった材料を調達する目処はたてれたが、まだまだ集めなきゃならない材料は沢山あるからな。これからもどんどん働いてもらうぞ、お前達!」と隊長に言われ、僕達は顔を合わせた後しょうがないかというような態度をとった後「「はい!!」」と力強く返事したのだった。
しかしそれからは本当に大変だった。確かに残りの必要な材料はそれほど探し出したり集めるのは難しくなかった。
とはいえ中には希少な素材や他種族の領土にしかない素材であったり、また鉱石類なんかは大量に必要となったりでいくら団長らが協力してくれると仰ってくれてたけど、それでも僕達だけでは集めきるのは出来なかった。
そのため、その時その時他の騎士団員 (兄ちゃんやジャックら武闘部隊にアリス達諜報支援部隊はもちろん、魔法部隊にも)の手を借りたり、他の種族の領土にある物 (主にエルフ族やドワーフ族)についてはそれぞれの国王様にその都度説明して採取させてもらったり、分けてもらいながら集めていった。
また一度だけ砂漠でしか採取できない物もあったため、ヨートス様の里に赴きロースらにも手伝ってもらいながら集めたのだった。そうした周りの皆の協力のお陰で大分必要な材料が揃ってきた。
そんなある日、「レックスー! 隊長がお呼びだ!」マーシュにヒューズ隊長が呼んでいると声を掛けられ隊長の元に向かった。
隊長の下を訪れ「今度は何を取ってくるんですか?」と少々疲れ気味に尋ねた。
「まぁそう言うなって。お前達以前に北西部の洞窟へ一緒に火薬を取りに行った事があっただろ?」「あ、はい」確かに、第1小隊が編成されてから3番目に受けた任務でマーシュ達の隊と火薬を取りに行った事があった。
「その洞窟に生息しているスライムを倒した時、稀に奴らが落とす粘液を20体分集めてきて欲しいんだ。大工の親方が建物を建設する際に使いたいって言ってきたもんだから、頼むよ」「分かり、ました」「助かるよ。それほど急ぎではないが、恐らくもうじき建設を始めるだろうからそれまでには頼むよ」「「はい」」と返事して隊長室を出た。
「と言われたけど、どうしたものか」「何でだ?」「あの時洞窟に向かう前にオリバー隊長に教えてもらったんだけど、スライムには普通の武器はほとんど効かず、炎系の攻撃が有効なんだ、けど」「あぁそうか。お前の"あれ"は風系の技だもんな」
「うん。それに魔法部隊の人達も最近はまた忙しそうにしているから」「確かに、頼めるかどうか分からないか」
そう、また最近魔物達の行動が活発になってきたため、武闘部隊と魔法部隊の隊員達は頻繁に出動しているのであった。「取り敢えず団長に相談してみよう」「だな」という事で僕達は団長室に向かった。
「そうか、スライムの粘液を」「はい。それで以前オリバー隊長からスライムには炎系の攻撃が有効だと教えてもらいましたが、今魔法部隊の隊員達は······」
「そうだな。いつ出動する事になるか分からないだろうから連れて行くわけにもいかないか」「はい」「確かにどうしたものか」と団長も考え出した。
その時僕はふとある人物を想像し、団長に進言した。「あ、あの、団長。ひ、1人だけ心当たりがいるのですが?」「本当かい! レックス君」「早く言えよ、そう言う事は」
「ただその人、騎士団の団員ではないんですが?」「一体誰何だい?」と聞かれたので恥ずかしがりながら「ジェ、ジェシー、です」と答えた。
「へ?」「ジェシー王女様? 確かに彼女なら」「いやでも、王女様は流石に」とマーシュが言ったが、「······」団長は何かを考え続けていた。
そして、「レックス君、念のためジェシー王女様に意向を伺ってきて、もし彼女が同意すれば彼女に頼んでみてくれないか?」と仰られた。
「い、良いんですか?」「グレン王子も仰っていただろ、『協力は惜しまないから必要な事は何でも言い付けてきてくれ』と」「はぁ。確かに」以前そう言ってましたけど。
「今の状況は城の方でも把握しているだろうから、大丈夫だと思うよ。それに君と一緒なら余計に、ね」と団長は僕の方を見た。
(ハハハハッ)「と、取り敢えず彼女に聞いてきてみます」「頼んだよ!」と団長室を出た。