第180話 VSハイオーガキング
「なっ!?」目の前にいた魔物の正体を聞いて全員が驚いた。
(ハ、ハイオーガ"キング"だって!? いや、それ以上に······)「「ま、魔王の配下!?」」そう、奴は自分の名前を名乗る前に確かに魔王配下の1人だと言った。
「ソノ通リダ」「そ、その魔王の配下のお前がどうしてこんな所に!」「今後行ウ我々ノ作戦ノ上デ、先ノダークエルフ共ノ時ノヨウニ貴様ラ"ヒト族"ト"エルフ族"ガ協力サレルノハ不味イノデナ。領土ノ境目ニ魔物共ヲ送リ込ンデ分断ヲ図ッテヤロウトシタマデダ!」「ま、まさか」「あの魔物共は貴様が連れて来たのか!」
「ソウダ。魔王様ノゴ命令デナ!」な、何て奴なんだ。あれだけの魔物を従えるなんて······と驚いていた。
「サァーテ、存在ガバレタトナレバ、貴様ラヲ生カシテオクワケニハイカンナァッ!」と突然ハイオーガキングは持っていた斧を振り上げ僕達に向かって来た。
突然の展開であったがハリー隊長がすかさず「嵐!」を放った。そのお陰でハイオーガキングの勢いを一旦抑えられた。
その隙に全員が戦闘態勢を整えた。そしてオリバー隊長が「レックス! 今のうちに奴の弱点を探し出せ!」「了解!」と言ってすぐに聖なる短剣を持って集中スキルの覚醒を発動させた。
すると弱点がハイオーガキングの頭の角の中央だと分かり、「奴の弱点は頭の中央の角です!」と皆に知らせた。
「分かった!(しかし、あそこへどう攻撃を仕掛けるか)」とパーシバル団長は考え出した。そのうちに先ほどの嵐が止み出し、ハイオーガキングが自由に動けるようになろうとしていたところで(奴メ、ナゼ我ノ弱点ガ分カ······ッ!)そこでハイオーガキングは僕の持っている聖なる短剣を見据えた。
そして(アノ剣ハ、確カ······!)何かを理解し、「ソウカ、貴様カ?」「えっ?」「貴様ガフレイムリザードヲ殺ッタ奴カー!」と叫びながら再び斧を振り上げて僕に向かって来た。
その時、ヒュッ! ヒュッ! ヒュッ! どこかからか複数の矢がハイオーガキング目掛けて飛んできた。
「ッ! チィッ!」その矢をハイオーガキングは振り上げていた斧で防いだ。
その間に先ほどの矢を放った1人であるロースが僕に近付いた。
「レックス! 大丈夫?」「ロ、ロース!? どうして?」「君達がこっちの方に行くのが見えたから後を追って来たんだよ。それより、あいつは?」
「奴が今回魔物達を引き連れてきた張本人、ハイオーガキング何だ」「何だって!? あいつが?」「あぁ」と言ってロースと共にハイオーガキングを見据えた。
「フッ! エルフ共モ来タカ。ダガ、何人来ヨウガ関係無イッ!」と斧を構え直した。
「レックス、奴の弱点はもう分かってるの?」「あぁ。頭の中央の角だよ」「あそこか······分かった」と答えてロースはパーシバル団長に向かって「僕達エルフ族は遠方からの援護に回ります!」と伝えた。
「分かった! ハリー! 君達もそちらに回ってくれ!」「「了解!」」「我々は奴に接近して攻撃を仕掛ける!」「「了解!」」とパーシバル団長は各々に指示を出した。
その直後オリバー隊長が「レックス! お前はエアーブロウの準備に入れ!」「了解!」とそれぞれの行動が決まったところで各自が動き出した。
まずロースらエルフやダークエルフが分散して矢を放ち、ハリー隊長ら魔法部隊も氷針や土球などを放ってダメージを与えつつハイオーガキングの気をそらせた。
その攻撃の合間にハイオーガキングの隙を付いてパーシバル団長やオリバー隊長、ジャックらがハイオーガキングの特に足を狙って攻撃を与えていった。
そうした行動を繰り返していたら、「オノレ、チョコマカト······ナラバ、コレデモ食ラエーーッ!」とハイオーガキングが斧を前につき出すように持って突然体を回転させたのだった。
「「なっ!?」」「くっ!」流石に団長らは近付く事が出来なくなり、ハイオーガキングから離れた上でハリー隊長らが土壁を作った。(さらに)ハリー隊長は別の魔法もかけた。
「ハハハハハッ! ソンナ土壁作ッタトコロデ、無駄ダァー!」ハイオーガキングは体を回転させたままその土壁に突っ込んだが、カチン!「何ィ!?」土壁に弾かれて回転が止まった。
「残念だったな。こちらから土壁に氷壁を重ね掛けしておいたんだ!」何とハリー隊長側の壁は一面氷の壁になっていた。
「クッ、クッソォーーッ! ナラバ、ウォリャーーー!」と叫びながらハイオーガキングは目の前の土壁と氷壁に斧を振り下ろし続けた。
(そう簡単には破壊出来まい)そう思っていたらハリー隊長は不意に後ろを振り向いた。そしてある光景を見て(どうやら、もう十分のようだな)と認識して氷壁から離れた。
その直後「火炎!」を放って何と自ら氷壁を破壊したのだった。氷壁を破壊した火炎はそのままハイオーガキングに向かった。
「ナッ!?」ハイオーガキングは驚きながらも斧を前に構えて火炎を受け止め、ほとんどダメージを受けなかったのだった。
「クッ、クックックッ。アーハッハッハ。馬鹿メ! 自ラ作ッタ壁ヲ自ラノ手デ壊シテオルワ!」とハリー隊長の行為をバカにしていた。
「フンッ。こうでもしないと奴があれを撃てないのでな」「何ッ!?」
そう言ってハリー隊長はその場を離れた。そしてハイオーガキングの視界に入ってきたのは······巨大な風の渦を作り上げていたレックスの姿だった。
「ナッ!?」流石にその光景を見たハイオーガキングはとても驚いていた。
直後、「食らえーーっ! エアーブロウ!」僕はエアーブロウをハイオーガキング目掛けて放った。
流石にこれは受け止めきれず、「ヌッ、ヌォーーーッ!!」ハイオーガキングはエアーブロウによって後方に吹き飛ばされ、バキッ! バキッ! バキッ! といくつかの木を突き破ってバコン! ようやくある木に体がぶつかってそのままその場に倒れたのだった。
それを見届けたオリバー隊長が「今だ、ライアン! 奴の角を切るんだ!」「了解!」そう言ってライアンはハイオーガキングに近付き、斧を振り上げ「おりゃあーーーっ!」と叫んで3本の真ん中の角をズバッ! と切り落とした。
すると突然「グッ、グォーーーッ!」と叫びながらハイオーガキングは立ち上がったのだ。それを見た僕達は急いでライアンの下に駆け付けた。
僕達が着いたところでハイオーガキングは「オ、オノレ······ダ、ダガ、我ヲ倒シタトコデモウ遅イ。貴様ラノ国ハ、ジキ滅ブ、ダ、ロウ······」「何っ!?」
バタン! そう言い残してハイオーガキングは微動だにしなくなった。パーシバル団長の部隊員らが確認して死亡している事が判明した。
ハイオーガキングとの戦いは僕達の勝利で終わったけれど、奴が最後に言った言葉が全員気になっていたのだった······。
一方、魔物達と戦っているアッシュ達は······。ある時から急に魔物達が怯え出したり、その場から逃げ出そうとする奴らが現れ出した。
その様子を見て(さっきまでと雰囲気が変わった! 今ならっ!)そう判断して「魔物達が怯え出した! 今こそ攻勢をかけて一気に倒すぞー!」「おぉーーーっ!!」
アッシュの掛け声に多くの者が同調して一気に畳み掛けた。それによって今まで以上に魔物達を討伐するスピードが早くなり、そして······「てやぁーーーっ!」ズバッ! アッシュが最後の1体であろう魔物を倒した。
その直後「生き残っている奴がいないか徹底的に確かめろっ!」アッシュは皆に指示を出した。
そして所々から「こっちは大丈夫です!」「こっちもおりません!」「こちらもです!」と次々報告が上がり、生き残っている奴がいない事が分かって「良し······俺達の、勝利だーーー!」「「おぉーーーっ!」」
兄ちゃんの勝利宣言に騎士団とエルフ双方の軍勢が勝利の雄叫びを上げたのだった。
その勝利の雄叫びはハイオーガキングを倒して取り敢えず前線基地に戻ろうとしていた僕達の耳にも届き、戦いが終わった事を認識した。
その後は両方とも戦いの後処理や基地の後始末などを行いだした。僕らも自分達の身の回りの整理をした後それらを手伝って一通りの片付けに目処がたった。
そして「皆、今回は良く戦った! こちら側には負傷者は多く出たが1人も死亡者が出なかった事は喜ばしい事だ! 今後もここまでの大規模な遠征などは無いかもしれないが、似たような状況や同じ事が起こってもこの調子で取り組んでもらい、他の任務などにも各隊あたってもらいたい」「「はい!」」パーシバル団長からの労いの言葉をかけられた後解散となり、少ししてから本部へ帰還すると伝えられた。
その後僕は兄ちゃんやアリスと会い、「やったな、レックス。団長から聞いたがとんでもない奴を倒したんだってな」「凄いじゃない! レックス」「まぁ、皆の協力のお陰だよ。それに兄ちゃんも皆を引っ張って戦ったって聞いてるから、そっちも凄いよ」「ありがとな」などと喋っていたらロースが近寄って来た。
「レックス、アリス、アッシュさん」「「ロース!」」「今回はお疲れ。君達の援護のお陰でハイオーガキングを倒せたんだから」「それを言うならレックスのあの技の方が凄いよ! よくあれだけの技を出せたよね?」
「アハハ。ある事を思いながら溜めてたら、今では結構早くあれだけの威力を出せるようになっちゃって」「へぇー」
「ある事って、俺との事かぁ?」と兄ちゃんが僕を睨んできたが「いや、兄ちゃんとの事じゃないよ」「じゃあ何の事だよ?」と聞いてきたがすぐには答えず、少し口籠って3人に耳打ちして「(養成学校時代のオリバーとの事)」と答えた。
それを聞いた3人は「「あぁー、なるほど」」と大いに賛同してくれて、その直後誰からともなく笑い出したのだった。
そうしてロースや兄ちゃんらとも別れ、少しして本部への帰路に就いた。
その道中、僕はずっと改めてハイオーガキングの言った言葉を気にしだした。そんな僕の様子を見たジャックが、「どうした? レックス。考え事して」と聞いてきた。
「うん。あのハイオーガキングが最後に言った言葉が気になって」「あぁ。あれか?」「うん······」
ハイオーガキングは倒れる直前にーー我ヲ倒シタトコデモウ遅イ。貴様ラノ国ハ、ジキ滅ブ、ダ、ロウーーと言った。
「あの言葉がどうしても気になるし、それに······」「それに?」「戦う前にアイツは『今後行ウ我々ノ作戦ノ上』で僕達とエルフ族が協力されるのが不味いと言っていた。つまり······」
「魔王軍がこれから何かをしようとしているって事か?」「うん。きっと······」それが何なのかは分からないが、何か大きな事が動き出そうとしている事は間違いないだろう。そう思いながら僕は歩いていたのだった。
こうして僕らが正式な騎士団の団員になってからというもの、多くの任務に当たり、その上で多くの人との出会いや再会を果たし、そして様々な人の心の変化などを味わいながら1ヶ月が過ぎていったのだった······。
運命の魔王軍との決戦の日まで、あと約4ヶ月。