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第160話 休日~ジェシーのお仕事~

 騎士団に入団し宿舎に移って向かえた最初の朝。結構早く起きてしまい同室の兄ちゃんはまだ寝ていた。


 起こさないよう静かに動いて取り敢えず窓から外を眺めた。気持ちの良い天気でたまたま王都の街並みがそこそこ見える部屋を当てられたので、(暫くはこの景色を眺める事になるのかぁ)と思っていたら兄ちゃんも起き出したようだ。


「兄ちゃん、おはよう」「んー? あー、おはようレックス。相変わらず朝は早ぇなお前」「ハハハッ。初日だからね」などと会話をしてお互い身支度を整えた後に朝ご飯を食べに行った。


 そして一旦部屋に戻って来たところで僕はジェシーの所に行く事にしていたため、「じゃあね、兄ちゃん」「おう!」と言って部屋を出た。


 

 そのまま宿舎も出てお城に向かったのだが、向かいながらふと(行くのは良いけど、どうやってジェシーの部屋まで行けば良いんだ?)と疑問に思った。


 今まではまだ養成学校の生徒という事で同級生という軽い関係だったけど、今は騎士団の一員なんだから王族と簡単に会うのも不味いようなと思っていた。


 お城に近付いたところでふと前を見たら、ベアーズがちょこんと座っていた。


 そのベアーズに近付いて「お前、ここで何してんだ?」と声を掛けたら、僕の方をずっと見続けた。


 その様子を暫く見ていて、(······あぁ)ようやく僕も理解し、そして······。



「ジェシー王女様へ()()()をお届けに参りました」とお城の王族居住区への扉前に立っていた衛兵らにそう伝えた。衛兵らも僕の事は既に知っており、また僕"ら"の意図もすぐ理解したのであっさり通してくれた。


 そのままジェシーの部屋まで向かい、部屋の前に着いたところで、コンッ! コンッ!「ジェシー、······アレを届けに来たよー」とドアをノックした後そう伝えた。


 それを聞いてベアーズは流石に僕を睨んできたが僕からはその表情は見えなかった。またジェシーも「······い、良いわよ。は、入って」と笑いを堪えるような感じで返答した。


 ドアを開けて中に入ったら、やっぱり口に手を当てて笑いを堪えていた。「そんなに可笑しかったかい?」「だ、だって。と、届けにって······物じゃ無いんだからベアーズは」と返答してきた。


「まぁね。それはともかく、久しぶりだね」「ホントに、久しぶりね」と平常心に戻って返してきた。


 そして「それで、手紙に書いてあった相談したい事って?」と聞くと、「実は、卒業式の日の夜にお父様から『これからは公務の一部を担うように』って言われたの」と答えた。


「ホント!? 凄いじゃない! それで、どんなお仕事なの?」とこれまた聞いてみたら、「うん。この王都内の業務、とりわけ生活困窮者への支援対応なのよ」


「それって······」「そう。孤児院やあの辺りに住んでいる人達への支援を考える事よ」「そうなんだ! でも、どうして?」「お兄様が外交関係、お姉様が領土内の内政業務の補佐をそれぞれ行っているから、後はこの王都内の業務しか残ってなくて、その中で私が孤児院に良く訪れていた事を把握していらっしゃったから、『孤児院を中心に生活に困っている人々の窓口になってやるように』って仰られたの」と話してくれた。


「そうだったんだ」「うん。それで任されたのは良いけれど、まず何をすれば良いのだろうと思って、取り敢えず私より孤児院とお付き合いの長いレックスに相談しようと思って来てもらったの」「そういう事ね。だけど、僕より相談するのに相応しい人がいるじゃない」「え、誰?」「神父様だよ」「あっ!」ジェシーもそうだと言わんばかりの反応を見せた。


「うん。孤児院を運営していらっしゃるし、多分近所の人達の相談相手にもなってるだろうから」「そうね。すっかり忘れてたわ」「ハハハッ。だからまず神父様に会って挨拶代わりに困ってる事を聞けば良いだろうけど······」そこまで言ったところで僕は暗い表情になった。


「レックス?」「そうなると、子供達とは今までのようには付き合えなくなるね」「どうして?」「だって公務で孤児院を訪れるとなると、何人かの衛兵を連れて行く事になるんじゃあ?」「ううん。少なくとも孤児院へ行く時には私1人で行くつもりよ」「えっ!? 流石にそれは······」「もちろん、()()()と一緒にだけどねっ!」とベアーズを見下ろした。


「あー、納得」「ねっ。これ以上ないボディーガードでしょ? ただし他の所に赴く時には流石に何人か衛兵の方々に付いて来てもらう事となるし、もしその時子供達と運悪く会ったらその時はしょうがないわよ」「そうだね」


「それじゃあ早速神父様に会いに行って、挨拶と話を聞きに行きましょ!」「うん!」こうして僕達はお城を出て孤児院へと向かった。



 孤児院に着いた途端子供達に見つかって「あっ! お兄ちゃんにお姉ちゃんだー!」「わー!」などと叫びながら僕達に寄って来て、「久しぶりー!」「何で来てくれなかったの!」「あそぼー! あそぼー!」と騒ぎだした。


 そういえば、皆と最後に堂々と会ったのは3年の冬季休暇の最終日だし、姿を見掛けたのも卒業試験のために王都を旅立った日が最後だもんなぁ······。


 だけど、「ごめんね。その前に神父様と大事な話があるから、そっちを先に済まさせてね」と僕が伝えたら「「えーー!!」」と一斉に叫ばれた。当然だろうけど。


「それが終わったら遊んであげるから」とジェシーが言ったら皆納得して取り敢えずベアーズだけと遊び出した。


 それを見届けているうちに神父様も外に出て来られて挨拶をした後に話があると伝えたら、孤児院内の授業に使っている部屋に案内してもらった。


 ちょうどその部屋には授業の後片付けをしていたメリッサお姉ちゃんがいて、「あぁ、レックス君にジェシーちゃん」と声を掛けてきて、僕達も挨拶をしてお姉ちゃんにも同席してもらったところで、ジェシーが生活困窮者への支援対応の公務を担う事になった挨拶と、困った事が無いかを伺いに来たと伝えた。


 それを聞いて流石に2人とも驚いていたが、すぐに平静さを取り戻した後、今は特に食料の配給品が同じ物や似た物ばかりで栄養が偏る恐れがあるといった内容を話してくれた。


 ジェシーもその事は早速お城に帰り次第お父様にお伝えすると約束し、今後も相談に訪れる旨を伝え、神父様も了承して下さって今日のところはお開きとした。 


 

 そして外に出て約束通りジェシーは子供達と遊びだし、僕とお姉ちゃんは孤児院近くで見届けていた。


 皆の様子を見ながら「ジェシーちゃんも凄いわね。もう公務を任されるなんて」「そうだね。それにしても······」


「ん?」「前世の時は養成学校時代も騎士団時代も、王族の人とも貴族の人とも関わった事が無かったはずなのに、今回はもう4大貴族のうちの2家族の関係者と深く関わってるし、王族の人と恋人になってさらに国王様にも一度お会いしてるんだから、凄い変わり様だよ」と言ったら、「ひょっとしたら、そうした出会いもレックス君の未来には必要なのかもしれないわね?」と答えてくれた。


「僕の、未来に?」「魔王軍との決戦の前なのか後なのかは分からないけど、きっと私やピエール君、ジェシーちゃんと関わった事が意味を持つ時が来るんじゃないかしら?」「かもしれないね」「うん」などと会話をしていたらマザーの掛け声で遊びは終わって僕達は孤児院を離れた。


 そしてお城に近付いたところで「じゃあレックス、今日は本当にありがとうね」「うん。じゃあ」と言ってその場を離れようとしたらジェシーが僕の服を摘まんだ。


「ジェシー?」僕が尋ねたら、「また、会えるよね?」と俯きながらそう呟いた。


「っ!」突然そう言われて僕はすぐには返答してあげられなかったが、少ししてから「きっとまた会いに行くよ」と答えてあげたら、顔を上げて微笑んだ顔で「うん!」と答えて服から手を離してお城に帰って行った。


 

 僕もそのまま宿舎に戻り部屋の前に着いて扉を開け、「ただい、あ」「何よ! 人の顔を見るなりいきなり"あ"って!」アリスがいた。


「やっぱり今回も来たのか」「今回もって、どういう事よ?」「前世の時も俺達の部屋によく来てたんだって」


「覚えてるの!?」「その事はね」「別に最初の休日何だから良いじゃない!」「まぁね」


「ところで、ジェシー王女様からの相談事って何だったんだ?」「うんうん」「あぁ、実は······」お城と孤児院での出来事を話した。


「そうなんだ! もうジェシー公務を担ってるんだ」「みたいだよ」「じゃあお前も明日からの訓練頑張らねぇとな?」「そうだね。ところで、訓練って何をするの?」と兄ちゃんに聞いてみた。


「あぁ。武闘部隊はまず武器選びと乗馬訓練からだと思うぜ。俺達もそうだったから」「そっかぁ」「まぁ明日からの楽しみにしとくんだな」「うん。そうするよ」


「じゃあ私帰るね」「おう。じゃあなアリス」「バイバイ」アリスが部屋を出て、その後はまた兄ちゃんと雑談などをして時間を過ごし、明日からの訓練の事を気にしながら眠った。

 


 その日の夜、僕は再び夢、いや前世の記憶の断片を見た。どうやら馬を走らせていて、その馬は頭に若干緑色の髪の毛を生やしていて、以前兄ちゃんに乗せてもらった馬と比較するとどことなく体格がやや小さな馬のようだ。


 それまでどれだけ乗ったのか分からないが、結構上手く馬を扱っているみたいで、少しした後に「行くぞ、--!」馬の名前を叫んだようだが、そこは聞き取れなかった。そして目の前の森に入る直前で映像は終わり、僕も意識がなくなった······。

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