第151話 2人旅
突然森の奥からアレクさんが現れた事に驚き「ど、どうしてここに?」と尋ねた。
「あるクエストを終わらせた帰りにこの森を抜けようとしたら魔物達を見掛けて退治してたんだ。そうしたらこっちの方からも魔物の叫び声が聞こえてきたから来てみたんだ」そうだったんだ。
「君こそどうしてこんな所に? 何かのクエスト絡みかい?」と聞いてきたので「あ、いえ。実は······」と事情を説明した。
「そうだったんだ。それで今は卒業試験で聖なる火山を目指してたんだ」「はい。それで日が暮れてきたのでこの森で一晩過ごそうかと入り込んだところでした」それを聞いたところでアレクさんから思いがけない提案をされた。
「なら聖なる火山近くの町まで一緒に行こうか?」「えっ? でも先生から他のモノの手を借りるのはダメだと」「確かにそう言われたかもしれないけど、僕ら冒険者も騎士団も何かをしていた途中で他の人と協力する事になるのはよくある事だし、正直今この亜人族領内は少々危険かもしれないから」
「危険って?」「今回のクエストを行っていた時もそうだったんだけど、何か最近魔物達が活発にしかも凶暴になってきている感じがするんだ」「活発で凶暴に?」
「うん。少し前までは自分達の縄張りに入ってこなければ何もしてこなかったはずなんだけど、今はどこだろうと襲ってくる奴らが増えてきたから、それを理由にすれば先生も納得されるんじゃないかな?」「確かに、そうですね」
そう思ったところで「それじゃあアレクさん。よろしくお願いします」「うん!」と話が付いて、聖なる火山近くの町までアレクさんと旅をする事になった。
翌朝アレクさんと共に森を抜け聖なる火山を目指し出したのだが、やはり道中オークやゴブリン、トロルなどお馴染みの魔物達はもちろんだが、それ以外にも一つ目巨人のサイクロプスや牛型のミノタウロスに下半身が馬型のケンタウロスなどと呼ばれている魔物達も普段は大人しいはずなのに姿を見られただけで襲ってきたりした。
また途中休泊しようと立ち寄った洞窟の中でも、インプやグレムリンなどと呼ばれる小さな魔物達が襲ってきたりした。
そういう奴らも粗方倒していって明日には聖なる火山に着けるだろうという距離まで辿り着いた。
その夜、「恐らく明日には聖なる火山に着くだろう」「そうですね。もう火山の姿もハッキリと見えだしましたし」そう言って今でも見えている聖なる火山を見上げた。
「しかし、魔物達の動きが活発になりすぎている」「そうですね」
「レックス君。やはり学校に帰ったらこの事を先生に報告して学校からお城に報告してもらうように話した方が良いだろう。僕も王都に帰ったらアランさんに伝えてお城に報告してもらうように伝えるから」「分かりました」とアレクの提案に同意した。
そこまで話をした後、「ところで、アレクさんは何で冒険者になったんですか?」と尋ねた。
「僕かい? 僕は」と冒険者になった経緯を話してくれた。
アレクさんはお父さんも冒険者をしていて、その後ろ姿を見続けて育ったため、自分も将来は冒険者になろうと思いだした。
しかしある時お父さんが魔物に襲われ帰らぬ人となってしまった。その為一時は冒険者になる事を諦めて母さんを守るために村で働こうと思いだした。
ところがある日村が人の盗賊に襲われてしまい、そいつらが何度も村を襲って来たので村長はギルドに盗賊退治の依頼を出した。
そして暫くしてまた盗賊達が現れた時、冒険者達が盗賊を退治してくれたのを見て、改めて冒険者になろうと思いだしたんだとの事だ。
「そうだったんですか」「うん。それから13歳になった時近くの町のギルドに登録してクエストをし出し、16歳になった時王都のギルドに登録したんだ」「へぇ」
「レックス君の方はどうして騎士団に入りたいんだい?」と聞かれ、子供の時に村がトロルの集団に襲われてそれを自分達で阻止する事が出来たのだが、今後そういう事が起こった時何とか出来るように騎士団へ入団したいと考え出したと、今の人生での騎士団に入りたくなった理由を話した。
「そうなんだ」「はい。それで10歳で養成学校に入学してこれまで色々学習してきたんです」とお互いの事を色々語り合った。
その際去年起こったダークエルフ達との戦争の事も話題に上り、自分はたまたまクエストをしに行っていて参加出来なかったけど、ギルドでも暫くその話で持ちきりだったと話してくれた。
僕もその時ヒト族やエルフ族だけでなく、海人族やヴァンパイアバットにロックサイなどの魔物達、そしてクマといった多くのモノ達の力を借りて勝つ事が出来た事で、"他の種族らとも協力する事が大切なんだ"と改めて実感したと伝えた。
そうした話をし合ってその日は寝る事にした。そして、翌日の早い内に聖なる火山近くの町に到着した。
「それじゃあここでお別れだ。後は1人で頑張って」「はい! 本当にありがとうございました!」「うん」
そうして、僕は改めて1人で聖なる火山に向かった。
程なくして聖なる火山の麓に着いた。
(いよいよ聖なる火山に突入だ! にしても、本当に熱いなぁ)と思いながら聖なる火山の中に足を踏み入れようとした時、「レックス!」と突然後ろから声を掛けられたため、コケそうになったのを踏みとどまって振り返ったらハウル様がいた。
「ハウル様!」「どうやら間に合ったようじゃな」と僕に近付いて来た。
「どうしてここに?」「お主へこれを返すためにじゃよ」とハウル様に預けていたあの黒い短剣を差し出してきた。
「それは」「ようやくこの正体が分かったのじゃ」「正体?」「うむ。今でこそこのように黒くなっておるが、本来のこの短剣は聖なる短剣と呼ばれる白く光輝いた短剣だったのじゃ」「聖なる短剣?」と聞き返した。
「うむ。この紋様を見るのじゃ」と柄の部分に描かれている紋様を見せられた。その紋様はどこかの家系の紋様に見えた。
「この紋様は昔代々サンドリア王国騎士団の騎士団長を輩出しておった家系の紋様なのじゃ」「騎士団の団長を!?」
「そうじゃ。その団長達は代々必ずこの短剣を所有しており、事あるごとにこの短剣を用いて悪しきモノ達を倒しておったのじゃ。ところが、ある代の当主が邪な理由から自分にとって邪魔となり得る者達をこの短剣で次々と暗殺しおったのじゃ」「ええっ!?」騎士団の団長となった人がそんな事をするなんてと驚いた。
「時にはそのような気持ちを持ちだす者もおったというわけじゃ。そして、それを境にこの短剣は徐々に色が黒く変化しだしてしまい、またこの短剣を所有した当主が次々と不慮の死を遂げだしたのじゃ」「何ですって!?」不慮の死を遂げだしたと聞いてさらに驚いた。
「それで、ある代の当主が当時その家系で所有していた高山の坑道内に封印する意味を込めて手放したみたいなのじゃ」「そうだったんですか」ハウル様から短剣を受け取りながら呟いた。
「その短剣を用いていた時にはまさにあらゆるモノを一発で仕留めたりしていたと記述には書かれておった」「一発で?」「うむ。まるでどこを斬れば良いのかが分かっているかの如くにな」と聞いて僕はハッとあの坑道内での出来事を思い出していた。
「とにかく、その短剣が良き物となるか悪しき物となるかはお主次第という事じゃ、レックス」と言われ、ハウル様の方を見て「分かりました」と答えた。
「うむ。では儂はもう帰るとしよう」「ありがとうございました。届けて頂いて」「うむ」と言ってハウル様は戻られた。
(聖なる短剣、かぁ······)と思いながらその短剣を眺めつつ改めて聖なる火山に足を踏み入れ出した······。