第140話 快復
時は1日遡り、診療所を出た僕とベアーズはヨートス様の里に来ていた。
「ああ、レックス君!」「ヨートス様。先程はすいませんでした。何か仰られてたみたいでしたけど、途中でいなくなってしまいまして」「いや、それよりすぐ私とフィンラル様の所に行って欲しいんだ」「あ、はい構いません。元々フィンラル様にもこの後会いに行く予定でしたから」「え? 一体何があったんだい?」「はい、実は······」
フィンラル様の下へ行くまでに、ヨートス様にジェシーが怪我をしてそれを何とかしたくてベアーズが世界樹の葉を取りに走っていた事を伝え、ヨートス様も納得した。
「そういう事だったのか」「はい。僕もコイツの後を追う事が精一杯になってしまいましたので、説明をしたくてもどうしようもなかったんです」「それなら世界樹が葉を落としたのも頷けるな」「えっ、それはどういう事ですか?」
「実は、今の世界樹が成長したのはつい一月前の事なんだが、それからまだ一度も葉を落とした事が無かったんだ」「そうだったんですか!?」
「ああ。何人かが世界樹に頼み込んだんだが、葉を落としてくれなかったそうだよ。まるで最初に落とす人物を決めていたかのように」
そこまで聞いて、前の世界樹の最後の葉っぱを手に入れた時の事を思い出した。あの時も何人かが世界樹に頼み込んだのに葉っぱをなかなか落とさなかったと聞いていた。
そうした話をしながらエルフの王国に着き、お城のフィンラル様の前に辿り着いてヨートス様に説明した内容をフィンラル様にも伝えた。
「そういう事だったのか。本当に君達には驚かされてばかりだな」「どうもすいませんでした」
「いや、誰に葉を与えるのかは世界樹が決める事だからな。それに、君達に与えてからは今までの事がウソのように葉を落とし出したんだよ」「ホントですか!」
「ああ、本当に最初の葉は君達にへと決めていたのかもしれないな。特に、その子にな」とフィンラル様はベアーズを見つめた。
当のベアーズはキョトンとした表情で、フィンラル様が見つめ出したら首を傾げたのだった。
「お前なぁ」と僕が言ったら傾げたまま僕を見上げ、すぐに前を向いて首を元に戻した。
「人をおちょくってんのか」と言ったら首を縦に振ったので「おいっ!」と怒った直後、その場にいた全員が大笑いしたのだった。
その後お城を出て世界樹に寄る事にしたのでヨートス様とお城の前で別れ、再び世界樹の下を訪れた。
僕達が訪れた時には偶然にも他に人はいなくなっていた。僕は世界樹の根元まで近付いて根に手を当て、(本当にさっきはありがとう。まだどうなったか分からないけど、取り敢えずジェシーの傷を治せる望みを与えてくれて)とお礼を伝えた。
そうして世界樹から離れようとした時、世界樹の根のある部分が急に白く光輝きだした。僕がそこへ近付いてみたら地面に白い小さなYの字の形をした枝が落ちていた。
(何だろう、これ?)と思いながら拾い上げ、じっと見ていて(この形、確かどこかで······っ!)そう思った瞬間、すぐに思い出して今後必要となる3つの物を書いた紙を取り出し、真ん中の白い小さな枝と比べたら見事に同じ形だった。
(こ、これだったんだ! やったー! 2つ目ももう手に入っちゃった!)と心の底から喜んだ。(本当にありがとう、世界樹!)と改めて世界樹にお礼を伝えた。直後それに答えるかのように世界樹の葉が揺れたのだった。
こうして僕は白い枝の事は次にフィンラル様に会った時に聞く事にして王都に戻った。
その2日後、僕とベアーズはサンドリア城の正面入口前に立っていた。
その日クエストを探しにギルドを訪れた際レナさんに呼ばれ、僕が来たらサンドリア城へ登城するように伝えてくれとお城の兵士から言われたと伝えられ、早速お城に訪れたのだった。
そして守衛さんにレックスだと伝えると中に案内され、そのまま王の間に案内された。
王の間にはジェシーのお父さんであり、この国の国王サンドリア21世とお母さんである王妃様、大臣らしき人に何人かの衛兵らがいた。
僕が中に入り中央辺りまで進んだら国王様が「君がレックス君にベアーズ、君かね?」と尋ねられたので「はい、そうです」と答えた。
すると国王様が玉座から立ち上がってこちらにいらっしゃったので、取り敢えずベアーズを床に降ろして僕は直立して、ベアーズもじっと座った状態で待機していた。
国王様は僕のすぐ近くに来たところで立ち止まり、そして僕の両手を握って「この度は娘のジェシーのために世界樹の葉を提供してくれて、本当にありがとう!」と仰られたのだった。
「君が提供してくれた世界樹の葉をドクトリー君が塗り薬に調合し、それを娘が使用したら翌日には完全に傷が消えたんだよ」それを聞いて僕もベアーズも安堵した。
「ジェシーの親としてお礼を伝えたくて来てもらったんだよ」「そうでしたか。ですが、正直今回ジェシーを助けようとしたり、世界樹の葉をドクトリー先生の所へ持ち込んだのもコイツが行った事ですから、お礼ならコイツに言ってやって下さい」と僕はベアーズを見下ろした。
「そういえば、ドクトリー君もそう言っていたな」と国王様は腰を低くしてベアーズの頭を撫で「本当にありがとう、ベアーズ君」
撫でられた後ベアーズは初めて律儀にお辞儀をしたのだった。それを見て僕はあ然とし、国王様も笑ってその姿を見られていた。
その後僕達は国王様らのご厚意とジェシーからの強い要望でジェシーの部屋を訪れた。
先導した侍女がジェシーの部屋の前に着きドアをノックして「ジェシー様、レックス様とベアーズ様をお連れ致しました」「すぐに入ってもらって!」と返事が返ってきたので侍女がドアを少し開けた。
するとすぐにベアーズが僕の腕から飛び降りてその隙間から部屋に入った。「あ、おいっ! ベアーズ!」
すると中から「ベアーズ! きゃっ! くすぐったいわ!」という声が聞こえたので侍女がドアを開けて中を見たら、ベッドに寝ているジェシーがベアーズを抱き上げ、そのベアーズがジェシーの顔を舐めていたのだった。
そのジェシーの顔を見てみたら、遠くからでは傷など全く分からない状態だった。
ようやくジェシーが僕の存在に気付き「レックス」と声を掛けてきた。
そこで侍女が部屋のドアを閉め、僕はジェシーに近寄った。
「ジェシー、良かったね。遠くからもそうだったし、近くから見ても傷なんて全く分からなくなってるよ」
「本当にありがとう、レックス。ドクトリー先生から世界樹の葉を取って来てくれたって聞いた時は本当に嬉しかったわ」
「正直取って来たのはコイツなんだけどね。僕はただ付き合わされて走らされただけだから」
「フフッ、ドクトリー先生もそう言ってたわね。でも、レックスがいなかったらベアーズも取って来ることは出来なかったはずでしょ?」
「言われれば、そうかも」「でしょ?」と言ったところで2人で笑い合った。
その後も少しだけ話し、その際ジャックの話題も出てジェシー同様部屋に籠っていると伝えたら、ジャックに会ったら本当に気にしなくて大丈夫だからと伝えてと言われた。
「じゃあもう帰るよ」「うん。レックス、本当に、本当にありがとね!」と涙を流しつつ満面の笑みで言った。
お城を出たところで振り返ってお城を見上げ、先ほどの涙を流しながら満面の笑みでお礼を言われた場面を思い返し、(ジェシー、僕も君にお礼を言わなきゃならないよ)と思いながら先日世界樹の根元で拾った白い小さな枝を取り出して見つめ、(君のお陰で、この枝を手に入れられたんだから)そうして白い枝を仕舞って寄宿舎に帰った。