第137話 相談
ベアーズがジェシーの所へ行ってから数日後、現在ジェシーはベアーズが選んだクエスト”食料庫の防衛 (Aランク)”をライアンやネールと共に実施中だった。
内容は、村の食料庫に度々盗みに訪れるゴブリン共から食料を守り、あわよくばゴブリン達をせん滅して欲しいという依頼だ。
そこでジェシー達は食料庫で暫く見張っていたら、ゴブリンの集団が食料庫を襲撃しに来たのだった。
そのため「おりゃー!!」ライアンが剣で攻撃し、「風刃! 竜巻!」ネールが風属性攻撃魔法を放ち、「火球! 火炎!」ジェシーが火属性攻撃魔法を放ってゴブリン達を退治していった。
そのうち残ったゴブリン達が逃げて行くので、ジェシーとネールとベアーズが後を追い掛けた。
少ししてベアーズの追跡のお陰でゴブリン達のアジトを突き止め、ライアンを呼びに行って全員でアジトにいたゴブリン達をせん滅したのであった。
こうして無事クエストを完了させて王都に戻って来た。
「今回もありがとうね、2人とも」「いえ、とんでもありません」「またいつでもお呼び下さい」「うん。それじゃあ」と挨拶を交わしてジェシーはベアーズとその場を離れた。
ジェシーが去った後、「ライアン、気付いてるか?」「ああ。明らかに今学期に入ってからジェシー様の様子がおかしい」「だな」「やはり休暇中にあの男と何かあったに違いない!」「いや、恐らくそういう事では無いだろう」「じゃあ何だと?」「······何か心に引っ掛かっている事がおありのような感じであった」「心に引っ掛かっている事?」「ああ」と2人で話し合ったのだった······。
一方、2人と別れてからジェシー達は······。「待てー! ベアーズ!」「わー!」タッタッタッ「そっち行ったぞー!」孤児院を訪れ、ベアーズが子供達と追いかけっこをしていた。
あの後ギルドに向かおうとしていたらベアーズが突然腕から飛び降りて走り出し、孤児院の方へ向かったのだった。
慌ててジェシーも追い掛け、孤児院に着いてベアーズが子供達と追いかけっこを始めていて、ジェシーは仕方なくそれを教会前の石段に腰を下ろして見ていた。
そんな時また「······はぁ」とため息をついてしまった。
その時、「どうしたの? ジェシーちゃん。ため息なんかついて」と話し掛けてきた声が聞こえたのでそちらを見たら、メリッサが立っていた。
「メリッサさん」「何か悩みでもあるの?」「いえ、別に······」と口籠もってしまった。
そこでメリッサはジェシーの横に座って「誰かに話した方が気持ちが楽になる事だってあるのよ?」と優しく諭した。
それを聞いてジェシーはようやく「正直、皆の様子を見てて焦りや不安を感じてしまいまして」悩みを語った。
「焦りや不安って?」「アリスやレックスが夏季休暇の終わる前には将来やりたい事を決めて、それに関するクエストを選んで受ける事にしたみたいですし、クラスの何人かも将来の事を考えて今学期からクエストを受けているみたいなんです。けど私は未だに何がやりたいのか、将来どうしたいのか決めきれていなくてクエストを受けているものですから、完了しても達成感が感じられないでいるんです」「そうだったんだ」
「はい。最近はベアーズが選んでくれたクエストを受けるようになって、何となく終わった後にやって良かったと思うようにはなったのですが、それでも将来の事まで考えるには至っていないものですから不安になってしまいまして、さっきもため息をついてしまったんです」
そこまで聞いてメリッサは、「そっか。ところで、どうしてジェシーちゃんは魔法科に入学したの?」と尋ねた。
するとジェシーは「え? それは、お兄様が武力科、お姉様がサポート科に入学していまして、ちょうど私が生まれた時には他の2人に比べて体内に魔力が宿っていると側近がお父様に告げられた事で、その頃から私を魔法科に入学させようとお考えになられていたと伺っています」と答えた。
さらに「お父様の意向だったけど、ジェシーちゃん自身は嫌だとは思っていなかったの?」と聞くと、「はい。子供の頃からそういう理由もあり色々な魔法の特訓を中心に行ってきたのですが、いつも楽しく受けていましたから」と答えた。
そこまで聞いてメリッサも「なら、ジェシーちゃんがそう悩むのも分からない事ではないわ」「えっ?」「私も養成学校に入学する事になったきっかけは、教養を身につけるようにっていう親の意向だったから」
「そうなんですか?」「うん。それにもしかしたら私もジェシーちゃんと同じ悩みを持つ事になっていたかもしれなかったから。アッシュやレックス君、アリスちゃんと出会ってなかったら」「レックス達と?」「うん!」と笑顔で頷いた。
それからメリッサは以前レックスやアリスにも話した入学前の事や、入学してからのアッシュとの出会い。レックス達が入学してからの自身に起こった事と、その事から自分の気持ちや考えが変化して夢を持つようになり、今に至っている事についてジェシーに話した。
「じゃあ本当に」「うん。入学してすぐアッシュと出会ってなかったり、翌年レックス君達が入学してから親交を深めて無かったら今の私はいなかったし、将来の事もジェシーちゃんのように悩んでいたと思うわ」
「羨ましいなぁ。そんなに早くからそういうお人と出会えたなんて」「フフッ、確かに人の出会いも大切かもしれないけど、将来の事を考える事にはあまり関係ないと思うわ」「えっ? どうしてですか?」
「私が今の将来の夢を持つようになったのは、子供達とよく付き合うようになったという私の経験からだし、レックス君も自分の過去の経験を振り返って将来の事を決めたはずだから。どちらも自分自身の経験が大切だという事よ」「自分の、経験······」
「そう。だからジェシーちゃんも今までの自分の経験を振り返ってみる事が大切だと思うわ。それをした上で、あの子が選んだクエストを振り返ってみると良いかもしれないわね」とメリッサは子供達と遊んでいるベアーズを見た。
「ベアーズが選んだクエストを?」「うん。たくさんあるクエストからジェシーちゃんに合った1つを選んでるんだから、どうしてベアーズがそのクエストを選んだのかを考えれば、それがきっとジェシーちゃんが悩んでいる事の答えだと思うから」そこまで聞いてジェシーの表情も明るくなった。
「ねっ。気持ちが楽になったでしょ?」「はい! ありがとうございました。メリッサさん」「うん」と言ったところでベアーズが石段前にやって来た。
ジェシーはベアーズを抱き上げて「行こっか?」と聞いたら、ベアーズも首を縦に振った。
そしてメリッサの方を見て「それじゃあメリッサさん、また」「うん。またね」と言ってジェシーらは孤児院を後にした······。