第109話 終戦
ギガントが倒れ、動かなくなったのはルーチェ達のいる指令部からも分かり、「ま、まさか······ギガントが」ルーチェは落胆の声を上げ、その場にいた他の者達は座り込んでしまった。
その時、カチッ! とルーチェの背中に剣が突き付けられ、「ここまでだな、ルーチェ」フィンラルが言った。
「フィ、フィンラルゥ」「貴様の軍勢はすでに我々が掌握した」と言ってある方向を見るよう促し、ルーチェもその方向を見て驚いた。
自分の仲間達が全員エルフ族と海人族らに囲まれ降伏していたのだった。
「い、いつの間に」「ヒト族がギガントを相手にしている隙に、我々と海人族がお前達に近付いて捕縛する事にしていたんだ」
「くっ!」「ギガントも倒され、これでお前の敗北は決定的だ。観念するんだな!」と言われたところでルーチェも観念してその場に崩れた。
「観念したようじゃな」そこにハウルが現れてそう言った。
「ハ、ハウル」「お主らの敗けじゃ、ルーチェよ」とルーチェに声を掛けた。
するとルーチェは「······1つ聞かせろ、ハウル」「何じゃ?」「前に貴様と様子を見に来ていたヒト族は何者なんだ?」とレックスの事を尋ねた。
「レックスか。あ奴はな、お主も聞いたことのあるタイムリターナーじゃよ」「タ、タイムリターナー!? そうか、だから······」「じゃが、今回の出来事はあ奴も前世では経験はしておらんようじゃがな」「何!?」
「つまり、あ奴にとっても今回の戦いは初めて経験したわけじゃよ」「······だとしても、それが少なからずこの結末に影響を与えたはずだろう」「確かに、そうかもな」「フッ。なら始めから結末は決まっていたのかもな······」そこまで聞いてルーチェも完全に戦意を喪失させたのだった······。
こうしてダークエルフ達との戦いは終結した。
ギガントが倒れたのは僕達のいる所からも確認出来たので、「や、やった。ギ、ギガントを」「うん! ギガントを倒せたんだ!」「やったーー!」2人で喜んでいた。
そこへ、「レックスー! ジャックー!」止めを刺した兄ちゃんが僕達の所に走り寄って来た。
「兄ちゃーん!」僕達も手を降って応じた。「やったぞレックス! ジャック! あの巨大な魔物を倒せたんだ!」「うん! 凄いよ兄ちゃん!」「お前達もだ!」と3人で喜びあった。
そして3人で倒れたギガントを眺めていたら、タッタッタッタッとこちらに向かってくる小さな物体が目に留まった。
すぐにそれがベアーズだと分かったので「おーい! ベアーズゥ!?」僕がベアーズに呼び掛けたら、ベアーズは猛スピードで僕の腹に突進してきたのだ。
その衝撃に耐えきれず僕は後ろに倒れ、そのまま気絶してしまった。
「レ、レックス!?」「ベアーズ! お前なぁ」ジャックが僕に話し掛け、兄ちゃんがベアーズに語り掛けたようだが、全く分からなかった。
当のベアーズはアッシュに語り掛けられた際、アッシュの方を見て首を傾け何事もなかったような顔をしてたのであった······。
気絶した僕は意識がない中で2つの映像を見た。
1つは誰かがベッドに横たわり、その前にアリスが座っててこちらを振り向いた時、泣き顔でそのままこちらへ走り寄って来た映像で、もう1つは森の中の倒れている木の上に僕とお姉ちゃんが座ってて、お姉ちゃんが僕の体を自分の体に抱き寄せた映像だった。
その映像の僕が目を閉じると同時に映像も終わり、僕の意識も戻った。
「う······ん」「気が付いたか? レックス」「に、兄ちゃん。ここは?」「指令部のあった所だよ。ベアーにここまで運んでもらったんだ」「ベアー、に。そっか、べ······ってベアーズは!?」兄ちゃんに状況を説明してもらったところで、ベアーズの行方を問いただした。
「お、落ち着け。ベアーズはとっくにどっかへ行っちまったよ」「あのやろう。いきなり人の腹に思いっきり突進してきやがってぇ」「ハハハ。そんだけ話せりゃもう大丈夫だな」兄ちゃんとそんな会話をしていたら、「気が付いたか、レックスよ」ハウル様が近付いて来た。
「「ハウル様!」」「2人とも、よくギガントを倒したな」「はい。何とか」「うむ。フィンラルらもルーチェを始め、ダークエルフ共や他の奴等を捕らえる事が出来たみたいじゃしな」「そうですか」
そこで「あの、ハウル様。今仰ったルーチェって?」今まで聞いた事の無い名前だったので伺ってみた。
「ん? おお、ルーチェとはな······」「私の双子の弟だよ」ハウル様が説明しようとしたら、フィンラル様が近付いて来てそう答えた。
「フィンラル様」「双子の弟って?」「ああ、ルーチェは私の双子の弟でね、先代の王である父が亡くなった時の王位継承争いで私に敗れた際、国を出て行ったんだよ」
「そうでしたか」「ああ。どうやら奴はそのまま闇に染まり、ダークエルフと化してしまったみたいだ」とフィンラル様が説明をして下さった。
「その頃から奴は我らエルフ族を恨むようになり、前回の里や集落などの襲撃を計画したのだろう」「あっ、去年の······」
「そう。それをヒト族が我々と協力して阻止したと報告を受け、今回の戦いを計画したのであろう」そう聞いて全て納得がいった。
「じゃが、奴もヒト族やエルフ族だけを相手にするつもりでいたのが、よもや海人族やヴァンパイアバットなども相手にしなければならなくなったのは計算外じゃったろうな」「確かにそうだな」「そして······」そこでハウル様は僕を見た。
「全てはレックス、そなたのお陰であるのじゃからのぉ」「ぼ、僕の!?」「そうじゃ」突然のハウル様の発言に驚いた。
「海人族にヴァンパイアバット。さらにはベアー達やロックサイ。全てそなたが関わった者達ばかりじゃろう?」「ええ、そうですが」
(確かに皆僕がこれまで関わってきた人達やモノ達だけど······)などと思っていたら、「お主はこれまで、ただ自分の運命や大切な人に起こる最悪な運命を変えたいと思って行動してきただけかも知れぬ。じゃが、お主が何気に行ってきた事が多くのモノの心を動かすこととなり、今回のように助けが必要となった時に駆け付けてくれたのじゃよ」とハウル様が仰った。
「僕の、行動で······」「確かに、我々エルフ族も彼の情報のお陰で去年の各里の襲撃がダークエルフ共の仕業だと知りましたし、新たな世界樹の苗木を発見出来ましたから」
「俺も、去年のダークエルフとの戦いの時には命を助けられたし、今の俺がいるのは村にいた時のお前の姿を見てたから何だからな」「フィンラル様、兄ちゃん」
2人からそう言われて改めて自分のしてきた事が凄い影響を与えてきた事を実感したのだった······。
その後僕と兄ちゃんはハウル様やフィンラル様と別れ、森の中の救護所が設けられていた場所を目指した。
もちろん、アリスやお姉ちゃんの無事を確認するために······。
「アリスやお姉ちゃん、大丈夫かなぁ?」「バーミリアン先生達がすぐ救援に向かって下さったんだから、きっと無事だろう」と兄ちゃんに言われたけど、無事を確認するまでは不安だった。
ようやく救護所テントが見えたところで、あるテントの前に佇んでいた人物を見て「兄ちゃん! あれ」「っ! メリッサ!」佇んでいたお姉ちゃんに兄ちゃんが呼び掛けた。
お姉ちゃんも僕達を認識して「ア、アッシュ! レックス君!」と言いながら僕らの方に駆けて来て、兄ちゃんに抱き付いた。
「良かった! 2人とも無事だったのね!」「あぁ、何とかな」と話した後、今度は僕を抱きしめ「レックス君も、無事で良かった」と言った。
「うん。お姉ちゃんも」と言ったところで、「それでお姉ちゃん。アリスは?」アリスの事を尋ねた。
するとお姉ちゃんは暗い表情になって「アリスちゃんは······」と言ったので、「まさか、アリスに何か!?」「えっ?」兄ちゃんがそう言って僕も不安になったが、「ううん、アリスちゃんは無事よ。だけど、マーシュ君が······」「「······えっ?」」
お姉ちゃんが話してくれたのは、アリスを庇ってマーシュが敵の攻撃を受け、今も意識が戻らない状態でいるとの事だった······。
次話でこの長編ストーリーは終わります。