第104話 開戦
昼過ぎに出発した僕らは夕方には森へ到着した。
森に到着後各自野営準備に取り掛かり、完了した者から暫く休憩をする事となった。
僕はこの間にアリスの様子を見ておこうと思って探しに出た。少ししてアリスの姿を見掛けたが、向こうが忙しく作業をしているようだったので声を掛けずにその場を離れた。
自分の陣営に戻る際たまたまお姉ちゃんを見掛け、向こうもこちらに気付いたためお互い笑顔で手を振り合った。
そして夜になってヨートス様などエルフ族の集団やギルドからの応援部隊が到着し、彼らと先生、そして兄ちゃん達部隊長の3人で最終会議を行って僕らへも指示が下った。
今回は武力科、魔法科、サポート科とも2年と3年の生徒が全員参加しているということで、僕達武力科はCクラス以上が前線で戦い、Dクラス以下はサポート科の護衛に当たる事になった。
そして前線での他の集団との配置の割り当てを確認し、各自の配置もそれぞれ確認を行った後就寝した。
翌朝、身支度を整え今度はサポート科に見送られる形で僕らは隊列を組んで森を出発した。
暫く歩いたところで僕達を先導していた先生やエルフ族の人が進行を制止させた。
そしてお互い目配せをした後先生が「奴等がもうすぐやってくる! 全員戦闘態勢!」と叫び、僕達の間にも緊張感が走った。
兄ちゃんと魔法科の隊長は念のために盾装備隊と土属性魔法使いを前方に配置させた。
すると前方に人影か何かが見えたかと思った次の瞬間、無数の光がこちらに向かって来るのが分かり、それが矢だと分かった直後「伏せろ!」「防御!」と怒号が飛び交い、盾で防いだり土壁を作って防いだ。
全ての矢を防いだ後に前方を確認したら、こちらへ迫ってくる人影を確認出来たため、「来たぞ! こっちも突撃だー!」兄ちゃんの合図で全員が駆け出し、そのまま戦いの火蓋が切られたのだった······。
僕達武力科の生徒は打ち合わせ通りダークエルフや奴等に混じった魔人族などを相手に各種剣や槍、斧に遠方からエルフ族らと共に矢を放ったりして応戦した。
その際先生から伝えられていた通り兄ちゃんを始めフレッドさんやボブさん、さらにはあのオリバーらが最前線で大活躍していた。
魔法科の生徒らも竜族や魔物などに火球、氷針、風刃などの攻撃魔法を提唱してダメージを与えていった。
しかし敵の反撃も激しく、負傷する者も次々発生して軽傷者はその場で回復魔法で回復したが、重症者などは随時戦線を離脱して救護所に運ばれる者も出てきてしまった。
その都度兄ちゃんや魔法科の隊長は抜けた部分を補うように配置転換の指示を出し合っていた。
「3年SクラスはAクラスをサポート! 3年BCクラスはそのまま押し込め! 2年ABクラス、それ以上敵を進めさせるな!」「了解!!」兄ちゃんからの的確な指示を受け、各生徒は的確に立ち回った。
僕も目の前の敵を次々と倒していったが、隙を突かれて後ろから攻撃されかけた時、その相手をジャックが倒してくれた。
「大丈夫か! レックス!」「ジャック! ありが······っ!」ジャックにお礼を言おうとした瞬間、僕は持っていた短剣の1本をジャックの顔近くに投げ、ジャックを攻撃しようとした敵を倒した。
「お互い油断大敵だね」「だな」と言ってジャックが僕に短剣を返してくれたところで再び別れた。
僕達だけでなく女の子であるアイラやマール、他の女子も同じ武器の人達と一緒になって戦っていたり、Cクラスであるのに僕達以上に使用武器を軽々と扱っている生徒も中にはおり、まさに以前ジルコニー校長の言った通り下級クラスの生徒が上級クラスの生徒に勝っている分野もある事を実感した。
こうして各自が全力をもって戦ってているが、戦況は膠着状態が続いた。
前線の最終防衛ライン地点に設けた指令部にいるフィンラル様やジルコニー校長、ハウル様もこの戦況を見て「拮抗しているように見えるが······」「やはり経験の差か、こちらがやや押されているようだな」「うむ。とにかく今は皆に耐えてもらうしかあるまい」各々が思い思いの意見を述べ合った。
一方、森の中に設けられた救護所ではサポート科の隊長に任命された生徒の「重傷者は赤のテントに! 軽傷者は白のテントに! 補給部隊はテントの各在庫を随時確認しろ! 状態異常者は青のテントに!」という指示の下、各々が出来る作業などをこなしていた。
その中で重傷者が運ばれてくる赤テントの責任者に任命されたメリッサも、「こちらに包帯を! あっちの子には傷薬を! その人はあちらのベッドに寝かせて下さい!」と的確な指示を他の生徒に与え、アリスもその指示に従って自分の出来る事を黙々と行っていた。
(レックスやお兄ちゃんが前線で頑張っているんだから、私も出来る事を頑張らなくちゃ!)と心で思いながら······。
しかしそんな彼女達の近くに敵の魔の手が忍び寄っている事に、まだ誰も気付いていないのだった······。