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8話 友達

 受付嬢から250万ゴールドを受け取った俺は、ラウルの後を追うことにした。


 あのラウルの様子はどう見ても、奴らに同行しているのが不本意にしか見えない。

 だから一刻も早くラウルを発見したい。


 しかし、受け取り終わった頃にはラウルの姿は見えない。

 だけどそう遠くは行っていないはずだ。



「……あれ、なんでだ?」



 ふと、自分がなぜこれだけ人のために行動を起こそうとしているのか気になった。

 前世ではあまり人とコミュニケーションを取ることは無かった。

 今世でも貴族の子息としての付き合いはあったものの、友達と呼べる間柄の人はいなかった。

 先日、通行人を助けたのもそれは自分の思う「良い行い」をしたからに過ぎない。


 ……しかし、今回のラウルの件に至っては不確定要素を多く含んでいるものの、心配で後を追うようなものだ。

 余計なお節介だと捉えることも出来る。


「あ、そっか」


 これだけ自問自答をして、ようやく単純な答えにたどり着いた。




「俺はラウルと友達になりたいのか……」




 俺の思う「幸せ」に友達の存在は欠かせない。

 きっと、友達は誰でもいいって訳でもないのだろう。

 いや、もしくは誰でもいいのかもしれない。


 ただ、一つ確かなことは──ラウルと仲良くなりたい、という思いだ。


 ……まったく、こんな簡単なこともすぐに気付けないとはな。

 人とコミュニケーションはしっかり取るべきだったかもしれない、と痛感している。



「サーチアイ」



 俺は小声で魔法を詠唱した。

 索敵魔法【サーチアイ】は自身から半径1km圏内の視覚情報を瞬時に得ることが出来る魔法だ。

 脳内に流れてくる街の風景。

 その中から欲しい情報を探すのは至難の技だが、俺はもう慣れている。


 ──見つけた。


 ここから200m離れた先の倉庫にいるようだ。

 あの冒険者3人組がラウルを取り囲んでいる。

 ラウルの頬は赤く腫れている。

 身に着けている衣服も汚れており、殴って、蹴っての暴行が行われているようだ。


「ただのいじめじゃないか」


 だがしかし、ここで俺が助けに行ったら、ラウルは嫌がるかもしれない。

 ラウルにもラウルの事情がある。

 ラウルの企みを邪魔してしまう可能性もある。


 つまり極論で言えば、俺がラウルを助けるという行為はただの自己満足に過ぎないのだ。


 でも……俺はラウルを助けに行こうと思う。


 それが俺の中で最もラウルの為を思った行動だと信じて疑わないからだ。


 もし怒られたときは全力で謝ればいい。




 冒険者ギルドから出た俺は早歩きでラウルのいる倉庫に向かった。



 ***



「おい、いつになったら言うこと聞く気になるんだァ? ああ?」


 倉庫の中でラウルを囲む三人の冒険者。

 彼らはCランクの冒険者で商業都市の中ではトップクラスの実力者だ。


「今日の冒険者料金も支払えないみたいだしよぉ、お前冒険者やっていくやる気あるの?」


 冒険者料金とは、冒険者ギルドの依頼を達成したときの報酬3割を彼らに支払わなければいけないというものだ。

 対象となる冒険者は彼らよりも下のランクの冒険者達。

 ラウルがアルマに言っていた『変なカースト制度』とは、このことであった。


 一人が地面に倒れているラウルの前髪を掴み、引っ張り上げた。

 そして痛そうに顔を歪めるラウルを睨みつけた。


「あの小僧は素材の査定で大金を手にしたんだよな?」


 アルマが大金を手に入れたのだと判断したのは、受付嬢の反応だ。

 自分達がどれだけ頑張って魔物を倒したとしても、査定結果に対してあんな反応を示すことは無かった。


「オイオイ、これはもう確定事項だろうがよ。分かってると思うけどよ、お前が俺たちのためにあの小僧から大金を奪ってくる、と約束しない限りこの時間は続くことになるんだぜ?」


 そう言われてもラウルは何も答えない。

 ただ黙って目の前の男に反抗的な視線を向ける。


「……てめぇ、もっと痛い目見てえようだな」


 そう言って、男は拳をラウルの腹に叩き込んだ。


「ごふっ……!」


 ラウルは思わず口から血を吐き出した。


「おー怖い怖い。早く言うこと聞いてくれないと死んじゃうかもなぁ、ハハ」


「だよな、こいつ目がガチだぜ。殺す気満々じゃん」


 それを残った二人は愉快そうに見学している。

 普通ならここでみんな心が折れる。

 三人はもう言うことを聞くしかないだろう、そう思っていたのだが……。


「……へへへ、先輩方には悪いけど、俺はあいつの可能性を潰すようなことはしたくねーんだ。俺みたいな凡人には出来もしないことをあいつはやってのける、そんな気がしたんだ。出会って間もないけど、あいつはとんでもない奴だと確信しちまったんだ」


「……だから?」


 ラウルの話を聞いた男はもう一度腹に拳を叩き込んだ。


「がはっ──」


 ラウルは先ほどよりも多く吐血した。

 痛みで意識が朦朧としてきている。

 それでもラウルは言うことを聞こうとしない。


「……こんな生き方……利口じゃないのは分かってる……でもこんな価値のない一人の人生を優先するよりも……俺はあいつの足を引っ張らないことを選んだ……ただそれだけだ」


「……バカかお前。普通、初対面の奴のためにそこまでするか?」


「偽善者振りやがってよぉ、もうめんどくさいからコイツ殺しちまおうぜ」


「そうするか〜。ここまで来たらもう何言っても無駄だろう。ウザいからやっちまうか」


「──と、いうことらしい。まぁ安心しろ。お前が死んだ後に俺たちがちゃんとあの小僧の将来を潰しておくからさ」


「……てめぇら! ……マジでふざけるんじゃねえぞ!」


「うっせえバーカ。お前はとっとと死んでろ」


 男がラウルを斬るために鞘から剣を抜いた。


(ちくしょう……! こんな奴らに殺されるなんて……! すまねぇ、アルマ)


 ラウルが地面に這いつくばりながら涙を流した……そのときだった。


 ガラガラ、と倉庫の扉が開かれた。



「はじめましてのところ悪いんだが、これ以上俺の()()をいじめるのは止めてもらえるか?」



【お願い】


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― 新着の感想 ―
[一言] ギルドの職員さんいい人達だったけど このカースト制度を実質容認なり見て見ぬ振りしてる状態なんだよなー
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