フランドル領への視察
最近は色々と作業が落ち着いてきたため、朝食は屋敷に住むみんなで食べるようになった。
だが、今日はいつもと様子が違った。
エリックさんが真剣な表情で手紙を読んでいた。
「……王都から宮中伯のエドワード卿がフランドル領へ視察に来るみたいだ」
「エドワード卿? どんな方なんですか?」
ラウルは首を傾げていた。
俺もエドワード卿がどんな人物なのか知らないので、とても気になった。
「宮中伯で国王の側近をしているお方だよ」
「おお……なんか偉そうな人だ……そういえば、エリックさんも貴族なんですよね?」
「うん、一応ね。爵位は男爵で貴族の中でも低い地位さ」
「貴族ってだけで十分凄いですから!」
「はは、ありがとう。それで僕が問題視しているのはエドワード卿自体じゃなくてフランドル領の現状だね」
フランドル領の現状か。
なるほど、どうしてエリックさんが難しい顔をしていたのか、納得した。
「魔物……ですか」
俺がそう言うと、エリックさんは首を縦に振った。
「そうなんだよねぇ……。変な誤解されてしまうと反逆罪とかになっちゃうかもしれない。基本的に魔物は駆除するべき対象だからさ……。でも認められさえすれば、何も問題はないんだけど」
「なんとか認めてもらうしかないですね」
「うん。隠しておくのは現実的じゃないし、逆効果だと思う」
「はい、俺もそう思います」
「大丈夫。あの子達、いい子だから」
ルナは言った。
魔物のことを思い出したのか知らないが、ルナの表情は少し緩んでいた。
それを見たエリックさんは少し落ち着いた様子だった。
「……そうだね。魔物達はみんないい子だ。きっとエドワード卿も分かってくれるに違いない」
「そうですよ! お父さん達は心配しすぎです。それにもしもの時はアルマさんが何とかしてくれますよ。ね? アルマさんっ」
サーニャはとびきりの笑顔で俺を見た。
め、めちゃくちゃ信頼されている……。
信頼されすぎていて、俺に出来ないことはないと誤解されているレベルな気がするが、実際のところは何でも出来るわけじゃない。
俺の人生経験は前世を含め、そこまで良いものじゃない。
思い返せば、魔法の訓練ばかりしている人生だ。
フェローズ家の頃も魔法貴族と呼ばれているだけあって、魔法の訓練ばかりだった。
なので、貴族と上手くコミュニケーションンを取る術を俺は知らない。
もっとも、そういった術があればフェローズ家から追放されることもなかったのかもしれない。
そうなりたかった訳ではないが、ふとそんなことを思った。
「そうだなぁ……。魔法でエドワード卿を帰らせないための結界を張ったりすることは出来るかな……」
サーニャの期待に応えられるような魔法はこれが一番平和的だと思う。
魔法で洗脳したりすることも出来なくはないが、もしバレたとき大問題だ。
「さすがアルマさん! やろうとしていることの次元が違いますね!」
いやぁ、それほどでも。
「結界……。私もそれ出来るようになりたい」
ルナは本当に魔法への興味が尽きないな、と俺は感心した。
「結界か……。本当に凄いなアルマ君は。でも、出来れば使わないように事を進めたいね」
「そうですよね……。結界を張るってもう逃げようとしているみたいですし……」
「みんな難しいことを考えるのは後にしましょう。ご飯が冷めちゃうわ」
エリックさんの奥さんであり、ルナとサーニャの母親であるメイベルさんは優しい笑顔でそう言った。
「あはは、そうだね。難しい顔をしていて気を遣わせちゃったかな? でも、これぐらいのことなら必ずなんとかしてみせるから。よし、じゃあ朝食を食べようか」
エリックさんは言った。
その姿を俺は大変頼もしく思った。
これが領主という存在なのか、と。
俺はエリックさんを心から尊敬した。
ぐぅ〜、とお腹が鳴った。
「ははは……実は俺、結構お腹が空いてたんですよね〜」
ラウルは後頭部に手を添えながら、照れた様子で言った。
「ラウルさんナイスタイミング!」
サーニャはラウルに向けて親指を立てた。
「それじゃあ早速食べようか──いただきます」
「「「「「いただきます!」」」」
◇
エドワード卿のフランドル領視察まで3日。
なにかしらの準備をしておく必要がある。
今回の視察で必要なことは、魔物と共存するフランドル領を認めてもらうことだ。
だから魔物が安全であることを示さなければならない。
ただ、間違いなく護衛がついていることだろう。
もしくはエドワード卿自体が実力者か。
そうでなければエドワード卿の身の安全を保障することが出来ない。
となると、事情を知らないときに魔物が前に現れると、問答無用で倒されてしまう危険性があるということだ。
「……魔物には一旦どこかに隠れていてもらおうか」
それでは魔物達を紹介できないし、何も解決しないな……。
……うーん、安全であることを分かってもらうには、徐々に慣れていってもらうのが一番か。
色々作戦を決め、俺の考えをエリックさんに伝えると、
「そうだね。その方法が一番かもしれないね」
納得した様子を見せてくれたのだった。
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