誰かを頼ること
俺はルナと一緒に領民達のもとへ向かった。
ルナを俺を心配している様子だ。
気を遣って欲しくなかったので、一人でも大丈夫だとルナに伝えるが、
「万が一また倒れたときのために私がついて」
と言って許してくれない。
「私と一緒に行くのは嫌?」
「嫌じゃないよ」
「そう」
「どちらかと言えば嬉しいぐらいだよ」
「……そうなんだ」
「ああ」
畑に向かう。
魔物に二つ名をつける作業が終わったので、野菜の収穫を手伝おう。
「お、アルマさん。もう元気になったのか?」
畑に行く途中、大工のイグナスさんと会った。
「もうすっかり元気ですよ」
「ほんとか……? ま、まぁそれなら別に構わねえんだけどよ、あんまり無理しすぎんなよ」
「はい。お気遣いありがとうございます」
それから畑にたどり着いて、収穫中の方に手伝いますよーと声をかけてみた。
「アルマさんは働きすぎだよ。さっき倒れたんだから今は休んどけばいいから」
「は、はぁ、そうですかね……?」
……なんだかみんな気を遣ってくれている感じがする。
「みんな、アルマのことを心配してる」
「うーん、全然大丈夫なのになぁ……」
「今は大丈夫かもしれないけど、いつかは手が回らなくなると思う」
……一理あるかもしれない、と俺は思ってしまった。
前世の記憶で思い当たる節が一つあったのだ。
それは、身体を酷使しすぎて危うく死にかけた思い出だ。
四六時中寝ずに魔物を狩り続けていたのだ。
戦いにおいて必要なのは、経験と能力だ。
魔物を倒すことでその二つを効率よく高めることが出来た。
ドロップアイテムとかも豪華だったので、良い遺産になると思って【アイテムボックス】に入れまくっていた。
そのおかげで今、かなり助かっているのだが、流石に休憩せずに戦い続けるのは無理があった。
肉体的疲労は魔法で治せたが、精神的疲労まではなんとか出来なかった。
そのせいで魔物に隙を突かれ、死にかけたのだ。
休養に時間をかけてしまったので、それ以降は限界を超えないように調整していた記憶がある。
だから、ルナの一言は昔の俺がどうなったのか、を言い当てたことになる。
「……確かにそうかもしれない」
「うん。だからアルマはもう少し誰かを頼って」
俺はルナにハッ、と気づかされた。
「誰かを頼る……」
今まで俺は一人で生きてきた。
一人で世界最強にまで辿り着いたし、今世も記憶を取り戻すまでどこか孤独感を覚えながら生活をしていた。
「アルマは一人じゃないんだから」
「一人じゃない……。うん、そうだな」
「だからみんなを頼って。一人で頑張りすぎないで」
「……ああ、分かったよ」
誰かを頼って、か。
思い返せば、確かに一人で頑張ろうとしていた。
実家を見返そうと躍起になっていたのかもしれない。
「みんな、今もアルマのために頑張ってくれているから」
「俺のためか……」
俺のために頑張ってくれているのは正直とても嬉しい。
しかし同時にどこか申し訳ない気持ちになった。
……果たして俺はみんなのために頑張っていたのだろうか。
もしかすると、自分のために頑張っていたかもしれない。
自分のために、この領地を利用しようとしていた。
目的を見失っているな。
俺はなんのために実家を見返そうとしているんだ?
幸せになりたいからだろう?
実家を見返すためだけに頑張って、偉くなったとしよう。
それで実家を見返せたとしても幸せなのか?
……違うような気がした。
「アルマがみんなのために頑張ってくれたように、みんなもアルマのために頑張るのは当たり前のこと」
「でも俺はそんなつもりはないんだ」
「アルマが自分のためだと思っていても、アルマ以外の人はそう思っていないわ。だからそれでいいの」
「……はは、そっか。みんなのためかぁ」
漠然とだけど、幸せってものがどんなものなのかちょっと分かった気がする。
幸せって、一人じゃ手に入れることは出来ない。
だから一人で頑張っているだけではダメなんだと思う。
「だから今度はみんなが頑張る番だよ。アルマは休んでいて」
「ああ、分かった。でも一人じゃ暇だからルナが付き合ってよ」
「うん。じゃあついでに魔法を教えてほしい」
「……あれ? 休んでって言ってなかった?」
「休みながら魔法を教えれば一石二鳥」
「……それって休めてる?」
「休めてるに違いない」
良いことを言っていると思ったけれど、結局魔法に行きついてしまった。
ルナらしいなと思いながら俺は笑った。
◇
そして、一週間が過ぎた。
この一週間で領地は大きく変わった。
まず、食糧が充実したことだ。
魔物が人を全く襲わないことをみんな理解したので、積極的に魔物達を働かせている。
ただ、俺が使役していない魔物だと襲われてしまうので、それを区別するための目印が必要だった。
そこで俺は魔物全員に首輪を作った。
赤い首輪で、これをつけている魔物は安全だという証拠になる。
首輪をつけた魔物達は基本的に森で暮らしてもらっている。
お腹が空いたらこの村に来てもらうことにしたのだ。
この村で収穫した野菜を提供する代わりに、その分はちゃんと働いてもらうというわけだ。
そのため建てる施設は牧場ではなく、厩舎となった。
村にも何人か大工さんがいるので、エリックさんはその人達にお願いしてみようと頼んだら、喜んで引き受けてくれたらしい。
「アルマくんの頑張りに報いたいんだよ」
と、エリックさんは言っていた。
そんなに頑張ってはいなんだけど、そう思ってくれているなら俺としても喜ばしいことだった。
それから、この一週間はよくルナに魔法を教えていた。
ルナに魔法を教えている時間は俺の中で楽しいひとときだった。
物覚えが良く、魔法への興味が尽きないルナに自分の持つ知識を教えるのはとても面白い。
【アイテムボックス】も既にルナは取得している。
センスが良いからすぐに覚えるとは思っていたけど、それにしても驚異的な成長速度だ。
他にも魔法を色々教えているが、ルナはすぐに吸収してしまう。
上達が速い分、色々な疑問が生まれるようで俺は一つ一つ丁寧に答えた。
そうしていると、なんだか弟子が出来たみたいだった。
師匠というのは柄じゃないけど、ルナが理解しやすいように教えるのは楽しい。
それで俺は一度目の人生も悪くなかったなと思うようになった。
前世ではギフト《転生者》を活かすために強くなることだけしか考えていなかった。
でも、強くなるための手段として魔法を選んだわけだし、俺もルナと同じように魔法に興味を抱いていたのだと思う。
そのことを気付かせてくれたルナには感謝しないとな。
……と、そんなことを振り返りながら俺はベッドから起き上がった。
今日も1日頑張ろう。
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