32話 新しい仲間
しかし、育てるとなると色々と問題が浮かんでくる。
まずは領民達に受け入れてもらわなければいけない。
なにせドラゴンの子供だ。
大きくなれば領地の脅威となるかもしれない存在である。
受け入れにくいものがあるだろう……。
領民達はロックドラゴンを興味深そうに見ていた。
「かわいいなぁ〜!」
「ドラゴンってのは岩の中に卵を生むのかー。すごいな!」
「白い子だなぁ。まるで雪みたいだ」
「冬になったとき外に出てると、どこにいるか見つけられないかもしれないな!」
領民達はロックドラゴンの子供を見ながらハッハッハ、と笑っている。
「キュイっ!キュイっ!」
ロックドラゴンの子供も同じように喜んでいる様子だ。
……あれ?
思っていた以上にもう馴染んじゃってる?
「キュウン……?」
ロックドラゴンの子供は俺の方を振り向き、てくてくとこちらに歩いてきた。
「キュイっ」
パタパタと翼をはばたかせて、俺に向かって飛んだ。
生まれたばかりで飛行時のバランスはとても危ない。
「キュッ!?」
バランスを崩してロックドラゴンの子供は落下しそうになる。
「わわっ!?」
ほら、やっぱり!
俺は慌ててロックドラゴンの子供を両手で受け止めた。
「「「おお〜!!!」」」
パチパチと領民達から拍手があがる。
「ふぅ……流石アルマだぜ!」
ラウルも安堵の表情を浮かべて言った。
「キュッ! キュッ!」
ロックドラゴンの子供は楽しそうに笑っていた。
「まったく呑気なものだよ……」
「ほっほっほっ、それが子供というものですぞ」
オスカルさんは愉快そうだった。
「ははは、そうかもしれませんね」
「しかし、そのロックドラゴンの子供はどうされますか? 見たところ既にアルマさんに懐いている……いや、親だと思われているのかもしれませんな」
「はい。なので僕が育ててあげようかなーって思ってます」
「そうですな。それが一番いいかもしれません」
オスカルさんは満面の笑みを浮かべた。
「やっぱりアルマならそう言うと思ったぜ! しかし次はドラゴンの子供かぁ〜」
「ラウルはドラゴンが苦手?」
「得意、苦手の前に見たことがなかったな」
「フェンリルに怯えてたからドラゴンも苦手かなって」
「アルマ……あれは誰でも怯える。それに目の前にいるのは子供だ。流石の俺も怯えたりしないさ」
「確かにそうだね。ごめんごめん」
「なに、気にするなよ」
そんな会話をしていると、オスカルさんの笑みが段々と引きつっていった。
「……フェンリルってもしかして近くの森に住んでいると言い伝えられている……あのフェンリルですかな?」
「そんな言い伝えがあったんですね……。まあ多分そうですよ。森の主みたいだったので」
「ひぇ〜〜っ! あのフェンリルにお会いしたんですか!? よくぞご無事で……!」
「いい奴でしたよ。なにやら手助けもしてくれるみたいなので」
「手助け!? ……ははは、またまたご冗談を」
オスカルさんの様子を見たラウルが俺の肩に手を回して、後ろを向かせた。
「冗談ってことにしておいた方がいいんじゃないか? 話がややこしくなりそうだぜ」
ラウルはヒソヒソ声で話した。
「確かに……そうかもしれないね」
俺も同じようにヒソヒソ声で話した。
ラウルの言うことはもっともだった。
振り返って、俺は笑みを浮かべた。
いかにも冗談を言ったように意識する。
「ハハハ、もちろん冗談ですよ……」
……意識しすぎてもしかすると笑顔が不自然になっているかもしれない。
「……まさか本当ですか?」
「いえ、冗談です」
今度は真顔で答えた。
「ほほほっ、流石に冗談でしょうな。アルマさんも冗談はほどほどに願いますぞ」
「あはは……気をつけます」
そんな感じで俺はこの場を乗り切った。
◇
1日目の開拓作業が終了した。
結果だけ伝えると、ルナはほぼ全ての雑草を刈り尽くした。
明日からはルナとサーニャと一緒に作業をすることになる。
やはりルナは魔法の扱いが上手い。
これでギフトをもらったばかりだと言うのだから驚きだ。
ロックドラゴンの子供はめちゃくちゃ人懐っこくて、すぐに領民達から受け入れられた。
育てるのは俺の役目になった。
そして育てるなら、とロックドラゴンの子供の名前をみんなで話し合った。
話し合いの結果、ルナがボソッと言った「ロック」という名前に決定した。
岩から卵が出てきたという事実と名前の響きの良さが決定理由だ。
ロックも自分の名前を気に入っている様子だった。
何を言っているのか理解しているのかな?
……流石に無いか。
もう少し大きくなったら二つ名をつけてあげたいな。
あと地味に嬉しいことがもう一つあった。
「アルマさん! 明日もドラゴンと遊ばせてー!」
と、小さな子供達からお願いされたのだ。
愛くるしい見た目で子供達からの人気も高い。
俺も結構子供達から慕われているみたいでとても嬉しい。
ロックドラゴンの子供の育て役を引き受けたおかげでより一層、領地に馴染みつつあるかもしれない。
「……人と関わるっていうのは楽しいな」
俺は自室のベッドにバタン、と寝転んで呟いた。
思えば、実家を追い出されてから色々なことがあった。
今まで実家での生活はこんなに明るい雰囲気のものではなかった。
改めて振り返ると、実力をかなり重視して英才教育が施されていたことが分かる。
ギフトがない無能と判断された俺が実家から追い出されたのも当然だったのかもしれない。
なんだか胸のモヤモヤが晴れたような気分だ。
「さて寝よう。明日も早起きしないといけないからな」




