どういうことだろう。そういうことだよ。
センテンス。魔法の文律筆致は、このまま役目を終えて暫しの眠りに着くのか。
人々の住む星は良くなった。一つだった星見台も五つに増え分かれて、それぞれの方面へと見える範囲が伸びていった。
やることは終わったのだろうか。星見台は役目を果たした。後はこの場所を閉めて、星守りは普通の生活に戻るのだろうか。もう、センテンスを使わない暮らしがやってくるのだろうか。本当に、そうなのか。
実感はない。センテンスを書くことが、私達の生活の一部であり、仕事であり、誇りであり、生き甲斐だった。星を直さなくていいなら、センテンスは要らない筈で。大誓約に基づく我等が魔法は、この時代にはそぐわないか。ならーーどうすれば。
「センテンスは終わらないけど、使わないようになるかもしれないなら、廃れるのも仕方ないね。私達も….…これで、良かったのかな。ここで、終わりで……」
「私は嫌だな。センテンスが無くなるなんて考えられないよ。私……ずっとこの仕事をして、暮らしていきたいよう。今更止めるなんてできないよう……そんなの、駄目だよう……!」
インクを司る二人。分かってる。分かってはいるが、どうしようもない。大老も黙し思案を巡らすままで、答えはまだ出されない。
明確な答えは出ていない。先の見えない未来に、不安になる人々。このまま、私達は終わるのか。一人前になったこの十年の月日の研鑽は、ここで終わるのか。
その時だった。大老が、眉を押し上げた。
「何かが、もたらされる…?」
緑の星見台の要職達は、その言葉に集まった大老の元から研究室へと足早に戻った。慌て気味に望遠鏡を星に向けるとーーそこには、光がーー。
私は望遠鏡ロ号から、最近距離を映し出すイ号に変えて、レンズを覗き込む。
「これはーー!」
星が、光っている。太陽に照らされる訳ではなく、それぞれの星が、蒼く、確かにーー。
「全部、私がセンテンスを書いた星だ。思いが、届いて……そうか、これが、私を成していたんだな。なんて、美しい」
星の光は皆同じに見えるものではなかった。少ないが、誰よりも力強く光を放つように見える者もいれば、数多の星を直した誇りを見た者も居た。
皆、己が直した星。私達の努力や苦節を祝い労うかのように、私達の証を光を以って指し示すこの現象に、胸に熱く込み上げるものが、体を満たしていく。そして、その時は来た。
ーー♪
この音はーー。そう思ったのも束の間、自分の中の魔力が、変容するのを感じた。そして、大誓約を記した書ーー我々の魔力の元を束ねる律文に、新たな誓約が加わるのを魔力の繋がりから感じた。
大老は、ほころんで眉根を下げる。
「我等の新たな仕事が決まったようだ。魔力はその出先を細分鋭覚し、星から人に付くことになった、か。これは忙しくなるわい。おや、儂の呪いも解けるーー」
大老の姿が年老いたものから、健強な若者に変わる。報告に来た要職達が驚く中、大老ーー大星魔導士アルスウェンス殿は、にやりと不敵な笑みを浮かべて。
「ようし。これよりこの星は、人見守りの星として、人の良悪を見守り直すことを生業とする! さあ、皆、行くぞ!」
我等見星の時代の潮流はこれにて変遷を迎えた。人に焦点を当てて、我等の思いで人の世に添い、安寧を繋ぎ結ぶ職務が、新しき日々が、これから待っている。
アルスウェンス殿ーー本当の父さんと一緒ならーーいや、この星の皆と一緒なら、きっとやっていける。ずっともっと、仕事が、センテンスが書けるんだ。見ていてください、祖よ。私達は、この場所で、あなたの居る星を見ています。あなたのことを、これからも、見続けます。