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「いいよ、そこまでは! 私は大丈夫だから! 大島さんも失恋で、かわいそうだし」
北条さんのキレイな眼が、ギラッと光った。
「そんな甘い…私はそういうのは嫌いです」
え!?
嫌いって言われても…。
北条さんが私をにらんでる。
「本当にそんな大事じゃないんだよ。お尻を触られたとかじゃないし」
「お尻!?」
北条さんの声が高くなる。
「そんなの論外です! 即アウトですよ!!」
「う、うん。だから、そこまでじゃないから! 大丈夫なんだよ」
「ひょっとして、大島さんが好きなんですか?」
私の口がポカンと開いた。
「な、な、何でそうなるの!?」
「だって、おかしいじゃないですか、こんなのを許すなんて!」
「ええ!? ちょ、ちょっと北条さん!?」
北条さんが私に、そっぽを向いた。
「だいたい、坂本さんは私を嫌ってますよね」
ボソッと呟く。
私は余計に混乱してきた。
何の話?
「中野さんのことは純ちゃんって呼んで、私は北条さんのままだし」
うー!?
私は首を傾げた。
「とにかく、こういう問題には毅然と対応するべきです! 坂本さんの考え方は、私は嫌いです」
そう言うと北条さんは座敷に戻ってしまった。
私は呆然とした。
こんなに北条さんと話したのは初めてだった。
それが、こんな激しい言い合いになるなんて…。
正直、ショック。
前にも言った通り、彼女のことは、けして嫌いじゃない。
むしろ好きだ。
だって、私が憧れていたキラキラ女子、ううん、北条さんはそれよりもさらにすごいスーパーキラキラ女子なんだもの。
北条さんが報せたのか、アルバイトの男の子たちが数人、やって来た。
「あーあ、本当だ! 大島さんが倒れちゃってる!」
男の子の1人が呆れる。
足元の大島さんが「加奈子ー!」と、わめいた。
その日から、北条さんとは以前よりも、なおさらギクシャクした。
お互いに避けるようになったと思う。
私はあの日の北条さんの怒りが怖くて、彼女に声をかけられなくなった。
「坂本さんの考え方は嫌いです」
あの言葉が、ずっと胸に刺さっていた。
それはイコール「坂本さんが嫌いです」だよね。
私が上っ面だけの関係改善を図っても、彼女に嫌な思いをさせるだけじゃないだろうか?
そう考えると恐ろしくて、とてもとても自分から話しかけられない。
彼女と眼が合いそうになると、慌てて逸らした。
もう二度と、あの時みたいに、にらまれたくない。
「あれ? 坂本さん、最近、何だか元気ないですね?」
純ちゃんに心配されるぐらい、私は落ち込んでしまっているみたいだ。
元々、神経質で人付き合いが苦手、そのくせ人に嫌われるのが怖くて怖くて仕方ない。
北条さんみたいなスーパーキラキラ女子に好かれたいって、どこかで強く思ってたんだなー、私。
だからこんなに、めちゃくちゃ落ち込んでるんだ。
でも、もうどうしようもない。
覆水、盆に帰らず。
すっかり、北条さんに嫌われてしまった。
諦めよう…。
「坂本さん、元気だして!!」
そう。
まだ、こうして純ちゃんになつかれているだけ、ましじゃないか。
贅沢は言うまい!!
キラキラ女子の孫が居るだけでも、私は幸せですじゃ!!