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その日は店長が別の店舗に異動になるので、送別会だった。
夕方の接客ピークを越えて、閉店した後のレジ会計合わせを終えると、社員とアルバイトは各々、店の近くにあるチェーン店の居酒屋に向かった。
私の横には純ちゃんが居る。
今日は白のブラウスに、あずき色のかわいい膝丈スカート。
「ウフフ」「ウフフ」と何度も笑っている。
「ど、どしたの?」と私が訊くと「坂本さんと飲み会は初めてなので」と瞳をくりくりさせて答えた。
そ、そんな楽しそうに言われても困ります。
私の右腕に抱きついて密着してくる純ちゃん。
私たちの前には小林さんと数人のアルバイトさんたちが、お喋りしながら歩いている。
その中に北条さんも居た。
黒のシャツと、スラッとしたパンツルック。
キレイだし、カッコいい。
小林さんたちと話す北条さんは、私には見せたことのない自然な笑顔をこぼす。
へー。
あんな顔で笑うんだ、北条さん。
店に着いた私たちは座敷席に収まった。
参加者は12人。
私のテーブルには隣に純ちゃん、正面に男性社員の大島さん、その隣に小林さんのグループから奇数人数で余ってしまった北条さん。
4人で、ひとつのモツ鍋を食べる。
大島さんはそこそこのイケメンで、年齢は私より2つ上。
いつもは物静かな草食系男子なのに、今日は随分、様子が違った。
どうやら、1週間前に溺愛していた彼女から別れを告げられたらしく、送別会の最初からあまり食べず、やたらとお酒ばかりを煽っていた。
そして眼に涙を浮かべながら「僕はどうすれば良かったんですか?」と、私たちに訊いてくる。
これには正直、閉口した。
純ちゃんが何とか、上手く相づちを打ってくれているけれど、北条さんは眉間にしわを寄せて、明らかに不機嫌だ。
こ、これはとてもよろしくない。
私は直接、大島さんとは関わらず、孤軍奮闘の純ちゃんに話を合わせて、この時間をやり過ごそうとした。
だいたい今まで、1回しか男性と付き合ったことがない私に「どうすれば良かったのか?」と訊かれても、たったの半年間で自然消滅した交際経験で的確なアドバイスが出来るわけがない。
私の恋愛偏差値は高くないのだ。
半泣きで元彼女との想い出を語る大島さんは、純ちゃんの頑張りも虚しく、ますます悲しみと負のエネルギーを増幅させていく。
お酒のペースも上がって、どんどん絡みモードになってきた。
状況は悪化している…。
私は愛想笑いを浮かべつつ、モツ鍋を他の3人に取り分ける作業に没頭した。
時間よ、早く過ぎてーー!!