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「ども」
ドアを開けて入ってきた女子が、短く挨拶した。
「沙耶ちゃん、こんちわ!」
純ちゃんが元気よく答える。
彼女は北条沙耶さん。
純ちゃんと同じ年齢、同じ大学に通っている。
長身でモデル体型。
少しカールさせた、肩までの黒髪。
皆がハッとするようなクール美人だ。
まつ毛が長くて、整った鼻は高い。
私は彼女がアルバイト入社して1年の間に、3回もお客さんの男性に告白されているのを見かけている。
そのときは自分が告白されたわけでもないのに、すごくドキドキしてしまい、逃げるようにその場を離れた。
だから、男性たちの恋の結末がどうなったのかを私は知らない。
純ちゃんがキラキラ女子なら、北条さんはスーパーキラキラ女子だ。
私は彼女に近寄ると、あまりの神々しさに、自分が溶けて消えてしまうのではないかと思っている。
もはや、天上の女神!!
それが北条さん。
「ねえ、見て見て、沙耶ちゃん!」
テーブルに座って、自分の担当棚の発注具合のデータをパソコンでチェックし始めた北条さんに、純ちゃんが話しかける。
私の書いたポップを指した。
「坂本さん、上手いよね!?」
北条さんのクールな視線が一瞬、私を見る。
眼力の強さに、私はすぐに眼を逸らした。
「ね、上手だよね?」
純ちゃんが繰り返す。
純ちゃーん!!
私は慌てた。
このままだと北条さんに、うざがられてしまう。
「じゅ、純ちゃん、恥ずかしいよ。北条さん、ごめんね」
私は北条さんに軽く頭を下げた。
北条さんの右眉が、少しだけ吊り上がる。
「北条さん…」と北条さんが呟く。
何だか変な雰囲気。
私は純ちゃんに向き直った。
「純ちゃん、棚チェックしてきて」
「はーい」
全然、悪びれない様子で、純ちゃんが部屋を出ていく。
純ちゃんと入れ代わりにベテラン女子社員の小林さんが入ってきた。
小林さんは30代後半。
少しぽっちゃり体型。
私がアルバイトの時から、何となく馬が合わなくて、お互いに避けている感じ。
まあ、険悪とまではいかないけれど。
私が純ちゃんと気安くて、北条さんと若干、距離があるのは、もちろんスーパーキラキラ女子問題が大きいとはいえ、彼女の最初の指導係が小林さんだったという部分も否めない。
何となく「小林さん派」というイメージがある。
こちらから積極的に話しかけるのを躊躇してしまう。
私の元々の人見知りが、さらに拍車をかけて、小林さんと同じように北条さんにも妙な苦手意識を持つ状況になっていた。
別に小林さんは小林さん、北条さんは北条さんなのだから、普通に接すれば良いのだけれど。
はあ、何だか自分の器の小ささが恨めしい。
小林さんは北条さんに挨拶して、今日の段取りを伝え始めた。
私は気を取り直して、ポップの作業を再開した。