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夕方の接客ピークまでに、担当出版社の売れ筋書籍のポップを書いておこうかな。
大型書店のバックヤードに置かれた大きなテーブルで背中を丸めていると、アルバイトの純ちゃんが隣に座ってきた。
純ちゃんは20歳の大学生。
茶髪のショートヘアー、くりくりっとした瞳の、かわいらしい娘だ。
「坂本さん、ポップ書くの上手いですよね」
純ちゃんが言った。
褒められている。
私は恥ずかしくなった。
顔が熱くなる。
「そ、そうかな?」
「そうですよー」
純ちゃんがポップを覗き込む。
「字がキレイだし、難しい言葉がいっぱい!」
「ええ!? そこ!?」
「あはは!」
純ちゃんが笑う。
その屈託のない、かわいらしい笑顔を見ていると、私の学生時代と随分違うなーって思ってしまう。
26歳、女性、痩せ型、黒髪ポニーテール、丸レンズ眼鏡、猫背、地味な服装。
それが私。
中学、高校、大学と振り返ってみると私は、びっくりするぐらい変化が無い。
大学から始めた、書店員のバイトをコツコツ続け、そのまま就職してからも。
私はキャラ変とは無縁なのだ。
不器用だし、人付き合いも得意ではない。
ただただ、愚直に毎日を過ごしている。
純ちゃんのように明るく愛嬌があって、男子たちからもモテそうな女子とは、全ての時間軸でグループが別なのだ。
そう、私は教室の隅で独りきりで好きな本を読んでいるか、同じように地味な人たちと固まって好きな書籍について熱い議論を交わしているかのどちらか。
私が思うところの「キラキラ女子」たちとは、まるで別世界の住人のような隔たりを感じていた。
キラキラ女子たちが集まり、そしてまた異邦人であるキラキラ男子たちが楽しそうに会話しているのを離れた所から見つめ、自分とは程遠い恋愛キュンキュンワールドに思いを馳せた、あの日々。
そう、キラキラ人たちは私にとっては、芸能人のような存在。
学生時代は全く接触する機会がなかった彼らと、指導係の正社員と後輩アルバイトとしての接点が生まれようなどとは思いもしなかった。
眼前の純ちゃんの無垢なる眩しさよ!
あっぱれなり、キラキラ女子!
「私もこんなの書きたい! 坂本さんが羨ましい!」
純ちゃんが頬を膨らませる。
ああ、かわいい!!
お婆ちゃんが何でも買ってあげますよ!!