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星座たちへ

作者: 夏川安

  

 星座が降ってきた。しかも皆じゃない。僕だけに降ってくるのだ。小さい頃からそうだった。

友達と追いかけっこをしたり、喧嘩をしたり、あるいは、いじめを目撃した時にふと降りてくるのだ。


 

 運動会の徒競走の時なんかは、わし座が降ってきて、まるで風を切るように走ることができた。好きな子にアタックして玉砕した時は、乙女座が慰めてくれた。星座は、いつも僕の力になってくれる特別で不思議な存在だった。

 


 ところが最近、星座たちを見かけない。全くといっていいほど降ってこないのだ。違和感に気付いたのは、高校二年生の冬頃。周りの友達が進路を考えだす時期だ。僕は就職するか進学するか、かなり悩んでいた。どうするのが正解なのか全く分からなかったのだ。こんな時、いつもなら牡牛座あたりが智慧をくれるのだろうが、いつまでたっても牡牛座は降りてこなかった。この時初めて、僕はおかしいなと思った。



 結局、卒業するまで牡牛座は僕に降ってこず、進路も、地元の大学に進むことになった。大学一年生の春、僕は見かけなくなった星座たちを探すことにした。

 


 最初は天文部に入って、夜空を眺めていたが、どうにもしっくりこない。天文部は諦めて、次に僕は四六時中、本を読むことにした。本は知識の宝庫だと誰かが言っていた。もしかしたら、どこかにヒントが隠されているかもしれない。そう思って僕は、ずいぶんと色々な書物に身を投じてみた。しかし、これも上手くはいかなかった。残ったのは、速読の技術と何時間でも読める体力だけであった。この時すでに大学三年生である。もう半ば諦めかけていた。星座たちは二度と降ってこないのだと、僕は星座に愛想をつかされたのだと、そう思って、僕は自ら星座に心を閉ざした。

 


 今年の夏に二十八になる。入社した会社にも慣れてきて、日々の仕事に追われるだけの毎日だ。

ああ、あの頃降っていた星座たちは元気であろうか。力になってほしくないわけではないが、もう一度だけその姿を見てみたいものだ。


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