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序章ーまさかの勘違いー

「25、26、27人目の召喚に成功しました。」

 不穏な声が空間に響く。大きなフード付きのローブを被った大人たちが数十人円状に並んでいる。そのローブ集団に囲まれた中央には、3人の若者がいた。

 一人は茶髪のサラサラヘアーをした、いかにもモテそうな壮絶イケメン。

 一人は黒髪ロングヘアの大和撫子美少女。

 そしてもう一人は、ぼさっとした白髪で目が隠れてしまっている少年。ちらりと覗く目を見るとイケメンなのであろうが、その髪色と髪型でかなり台無しになっている。

 3人は同じ年代なのだろう。なぜなら学校の制服を着用しているからだ。

「な、なんなんだここ……」

 金髪のイケメンが少しおびえたように声を発する。するとそれにつられたように大和撫子の美少女もどこですかここといった質問を投げかけていた。

 白髪の少年だけは未だに状況を呑み込めていないのか、黙ったままでいる。

「……」

 イケメンと美少女の声に周りの大人は反応しなかった。これだけ人数がいるのだから、誰かが反応してもいいと思うのだが、しきりに黙ったまま立っている。そんな異常な状況にイケメンと美少女はヒッと息をのみ恐怖を感じているようだった。

 黙って立っているローブ集団。おびえ始めるイケメンと美少女。ずっと黙っている白髪の少年。そんないやーな空気が数秒続いたと思ったら、空気を割るように老人の声が聞こえた。

「このたびは我が国、ウィンストンにご召喚されて下さりありがとうございます。これより御三方には我が国の剣となり盾となってもらう所存です。無論、それを拒否することはできませぬ」

 ゆっくりとした口調で、だけどもいやおうなしにうなずかせる圧倒的な圧力で声を発する老人の言葉に、3人は思考が追い付いていないようだった。ぼーっと老人を見上げ、5秒は停止していた。そして慌てたようにイケメンが発言する。

「盾!? 剣!? 意味が解らない! そもそもここはどこなんだ!? 召喚とはなんだ!? そんなことよりもまず帰してくれ!!!!!」

 イケメンは怒涛のマシンガントークで老人に詰め寄る。それを見た美少女も同じように老人に詰め寄った。

「そうよ! 早くお家に帰して!! 私は剣道の稽古があるの! おふざけに付き合っている時間はないのよ!!」

 2人に詰め寄られされるがままの老人。その顔には一切の感情が無かった。ただただ無表情にまっすぐ前を見ている。異常なほどに、無表情で無感情だった。

「……御二人とも落ち着いてくだされ。説明させていただきますゆえ」

 黙っていた老人がふいに言葉を発する。その言葉でハッとなり、老人の胸倉をつかんでいた手を放すイケメン。少しは冷静になったのだろう、老人を睨みつけると一歩二歩と距離を開けた。

 美少女のほうはまだ少し混乱しているのだろうが、老人の異常な眼光に恐怖を感じ、老人と距離をとる。


 そんな状況をずっと見ていた少年は、召喚されてから今まで黙って考えていた。なんでこんなことになったんだろうかと……


 夕弥観レイ《ゆうやみれい》は現在高校2年生の17歳である。全国の、いや、全世界の高校生のおおよそは平凡でありふれた甘酸っぱい青春ストーリーを送ってそれを楽しんでいるのだろうが、レイの場合一般的な平凡は当てはまらない。

 教室の隅でおとなしくただただぼーっと一日を過ごす毎日。誰とも目を合わせず、誰とも会話しない。いや、正確には、誰も目を合わさず、誰もレイに声をかけれないのだ。

「……」

 陰口をたたかれることもなく、チラッともレイを気にするものはいない。無視というにはあまりにも徹底された状況に陥っている理由はある。それはレイが人殺しであるからだ。

 少年少女の殺しの犯罪は時々ニュースで目にすることがある。大体が過度ないじめが原因だったりする。不注意で相手を死に至らしめてしまったなどの内容がほとんどだ。ただ、レイの場合は違った。明確な殺意と意思により故意的に人を殺した過去がある。更に適当に伸ばされたボサボサな髪型と、異様なほど目立つ白髪が余計に他者を遠ざけていた。


 -夕弥観レイを怒らせると殺される—


 そんな噂があるからこそこうしてレイは孤独に学園生活を送っている。


「はぁ、ごはん食べるのだけでも一苦労だよ……」

 ボソッと屋上につながる階段の端でレイが呟く。心底疲れた表情でパンをもそもそと頬張っていた。

「確かに俺が悪いし怖いのはわかるけどさ、教室で食べようとすると俺以外が外に出るって何事よ……。これいじめだよね? 先生に報告案件だよね?」

 そう言って深いため息をつき、また一口パンを頬張った。この二年間変わらない空気と生活習慣に慣れたとはいえ、やはり堪えるものがあるのだろう更に深いため息をつくレイ。

 そして天井に向かって、またボソッと呟いた。

「もういっそのこと俺の過去知らない奴しかいない所に行って、尚且つ目立ちたい」

 そんなありえない願望交じりの言葉を発して、フフッと乾いた笑いを浮かべた瞬間、レイの周辺がまばゆい光に包まれて、言葉を発する時間もない一瞬で、階段からレイが消えた……。


 -あーそうだ。なんか自己嫌悪というか、少しネガティブになってたんだっけ……。いやぁまさかほんとに別のところに行くとはねぇ。というか、異世界は流石に予想外だったよ……-

 階段にいた時と変わらずフフッと乾いた笑いを浮かべるレイ。そしてふと意識を周りに戻すと、ある程度老人の説明が進行していた。

「この世界には色んな種族が住んでおり、種族ごとに国を築いています。そして種族ごとに交流はありませぬ。みな敵として認識しているからです。どの種族も自分たちが一番偉いと言い張り、そして戦争を繰り返しています。一種族が生き残るまでこの戦争が続くでしょうな。そして我々人族もその例に外れませぬ。多種多様の敵と現在も戦っております。無論我々人族が最も至高であることは言うまでもありませぬな。それを示すためにも戦いを続けているのですが、小癪なことに、他の種族もそれなりに抵抗しているのです。決着がつかぬままもう数百年は経っておりまして、我々もそれなりに焦燥しておりまして……そんな時、城の倉庫からとある文献が発見されました。その文献の内容によると、異世界から勇者となる人物を召喚すれば、道は開ける。その勇者とは、ステータスがすべて999と表記された者である。と書かれておりました」

 老人は饒舌に語っていた。イケメンと美少女はその話を訝しげに聞いている。一方レイは話の序盤を聞いていなかったため、ポカーンとしていた。

「そうして召喚の儀を我々聖教会の者たちで執り行っています。が、未だにその勇者にはお目にかかれていませぬ。異世界からの召喚者の方々は、それはもう驚くほどステータスが高い方々ばかりなのですが、それでも999には届いておりませぬ。あなた方の誰かが勇者だと信じています」

 そうして老人の話は締めくくられた。


 話が終わると、イケメンが質問とばかりに手を挙げた。

「話は聞かせてもらった。内容はともかくなぜ俺達が召喚されたのかは解った。で、帰る方法は?」

 今までの話を、だからどうしたと言わんばかりに流して質問をするイケメン。その質問に対し老人は、

「今のところ帰る方法は見つかっておりませぬ。それに、少なくとも戦力になるであろう方々を早々帰すことも考えておりません。なので、このまま我々とともに戦ってもらうほかありませんな」

 と当然のように告げた。

 その発言を聞き、イケメンは流石に堪忍袋の緒が切れたのか、また老人に詰め寄る。

「ふざけるな! こっちにも生活があるんだ! お前たちの勝手な戦いに巻き込むんじゃない!! 残念だが俺には戦う意思がない! さぁ、帰してくれ」

 そうまくしたて胸倉をつかみ老人を睨む。美少女のほうもキッと老人を睨み、私も同意見と目で主張していた。

「……ですから、帰ることは現時点では不可能です。どうか諦めて我々と共に戦ってくだされ。もちろんこの国でなに不自由ない生活を約束しましょう。ですから、どうか静まってくだされ」

 老人は優しい言葉で声をかけるが、その目は有無を言わせない圧力を持っていた。自分たちより二回り以上年配の圧力に、まだ若いイケメンと美少女は黙らさせられてしまった。

 しばしの沈黙の後、諦めてしまったのか項垂れて地面に座り込むイケメン。それを見て悔しそうな顔を見せる美少女。

 ちなみにレイはさも空気であるかのように放置されていた。

 

「……で、僕たちはどうすればいいんだ?」

 かすれた声でイケメンが呟く。その言葉を待っていたとばかりに老人が近づき、

「この水晶に手をかざしてくだされ。さすれば、下にあるステータスプレートにその者の名前、レベル、ステータス、スキル、職業が記載されます。全員の記載が終われば、このまま城へと案内させていただきます」

 老人が取り出したのは、透き通る青のボーリング玉ぐらいの大きさの水晶と、免許証ぐらいのサイズのカードだ。

「さて、誰から始めますかな?」

 老人がそう声をかけると、ここで初めてレイが発言する。

「俺からでいいか? そこのイケメンと美少女はまだ混乱してるようだし、さっさと済ませたい」

 ぶっきらぼうに発した言葉に、その場にいたものがぽかんとしていた。それもそうだろう。なにせ今まで空気みたいな存在だったのだから。それが突然発言したのだから。

「……あ、あぁ構わないですぞ。どうぞこちらへ」

 老人が慌てたように取り繕い、レイを水晶へと案内する。レイは何食わぬ顔で水晶へと近づき、適当に右手を水晶の上へと持って行った。

「そのままじっとしていてくだされ。数秒で済みます」

 老人の言葉と同時に水晶が光り輝き、下から光が伸びて、ステータスプレートに文字を記載していく。


 夕弥観レイ

 レベル  :1

 物理攻撃力:∞

 物理防御力:∞

 魔法攻撃力:∞

 魔法防御力:∞

 敏捷   :∞

 保有魔力 :∞

 体力   :∞

 スキル  :全

 職業   :神王、真祖


「ん? え? なにこれ?」

 レイは記載されたプレートを見て、考え込む。そして考えに考え抜いた結果

「これ明らかにおかしいよね」

 と言葉を発した。ちなみに老人はなぜか呆れた顔をしていた。レイがぱっと老人のほうを向くと、今までのように好待遇の目ではなく、明らかにゴミを見る目に変わっていた。

「全てのステータスがたったの8だなんて前代未聞じゃ。最低でも召喚者様のステータスは500を超えておるというのに、この失敗作が」

 驚くほど冷徹な言葉で呟かれ、へ? と一瞬頭が真っ白になったレイだが、老人の発言におかしな点があることに気が付く。

 -これ俺の見間違いじゃなければ、∞(無限)の記号だよな? あれ? 向き替えて読んじゃったのかな? それともこの世界では向きを変えて読むものなのかな?-

 レイが困惑しているうちにイケメンと美少女の水晶儀式が終わったようだった。すると、ローブを着た老人や大人たちが一斉に大声をあげた。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!! 勇者様のご登場だ! しかも2人もじゃぞ! これで人族に未来が見えた!!! 皆の者! 今すぐ城にご案内し、王に知らせるのじゃ!!!」

 そう言ってイケメンと美少女と共に、その場にいたレイ以外の全員がその場を去った。

「……え? 俺は?」

 取り残されたレイは、ただただポカーンと大広間で一人寂しく残されるのであった……。


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