とにかく彼女はずぶ濡れだ
「あのさあ、先生クンさあ、のんきに菓子パンとか食べてる場合じゃないわけョ」
俺は別にのんきにとかぁ、優雅にとかぁ、パンを食べてるわけじゃない。
俺はすごーく短い時間で、菓子パンで昼食を済ませ、次の授業の準備をしなくてはならないのだ。
話しかけてきたのは澤坂咲乃。俺のが担任をしているクラスではメインヒロイン級にカワイイのだが、彼氏が欲しくて、ついダメな男に手を出してしまうという弱点を持っている。
俺は喉に入ってる菓子パンの切れ端をストロングなコーラで流し込むと、腕時計を見た。さっき職員室に戻って来てから、まだ5分も経っていない。まったくブラック企業なのか?この職場は。
「このままじゃ、蛍っち、泣いちゃうかもって感じでさあ。とにかくすぐ来てくんないと、ヤバーいわけ」
澤坂は俺を教室につれて行こうというのだ。
蛍っちというのは、夏花蛍子。クールな感じで、いつも澤坂を見ている。でも結構遊んでいるタイプだ。
澤坂は俺のジャージの袖をつまんで、立ち上がらせようとする。
気安く俺に触らんでくれ。と言いたい。言わないけど。
「わかったぁ。行くよ。すぐ行くよ」
俺は澤坂に引っ張られるようにして、安っぽい事務用の椅子から立ち上がった。
「蛍っち、ずぶ濡れだからね。バスタオル的な何か持って来てくんない?」
「教室でずぶ濡れ?教室に金魚の水槽なんかあったかな」
俺は言った。
「金魚だって。うけねーっ。あのさあ、先生クンさあ、新米だからって、あたしらのこと全然わかってないんじゃない?」
俺は分かってる。澤坂たちがフツーの女のコとは違うってことを。
「弐里センセ、バスタオルなら、給湯室の横ね」
賀茂弐里。それが俺の名だ。23歳。ここで教師をしている。着任してまだ3日目だ。
バスタオルの場所を教えてくれた木里香先生は、俺の斜め前の席。来里香先生は黒色が多い目で、さらさらした濃い黒色のロングヘア。胸も大きくて、職員室ではひときわ可愛い。俺が彼女のことを気にしていないわけがない。
「お、どうも」
俺はわざと自然体を装って、来里香先生に礼を言った。
「先生クンさあ、来里香っちに話す時に、いちいち緊張してんじゃん。高校生かよ」
澤坂は来里香先生の方を見ながら言った。
とにかく、バスタオルを持って、俺と澤坂は教室へと急いだ。




