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陽の騎士と天の魔女  作者: 風鈴
第三章「薬剤師編」
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第七十五話

あけまして、おめでとうございます。

今年もよろしくお願い致します!

「あ?」

「は?」

 今まで口を閉じていたクオンまでもが、アマネと同時に声を上げる。

「さすがにアマネさん一人では少々荷が重いでしょう。ナギナミのように他の生徒を巻き込むわけにもいきませんから」

「ミラ先生ならいいと?」

「調査した当人なのでより詳しいはずですし、手助け禁止とはどこにも記載されてませんから」

 屁理屈のようだが、正直一人では厳しいだろうと思っていたので実力者に助力してもらえるのならありがたい。ヒイロたちが協力してくれようとしても、試験だからとやんわり断れるし、ミラだったら試験管だと説明すれば不自然ではなくなる。

(それに付き添ってくれるなら、聞きたいこともじっくり聞けるわ)

「分かりました。ミラ先生、よろしくお願いします」

「ええ、よろしく」

 隣に立つミラを見上げるとにこりと笑みを返された。

「ではこちらからの話は以上です。準備もありますでしょうし、不明な点があれば、いつでも私かミラ先生に」

「また明日、十時に昇降口でいいかしら」

「それで大丈夫です。失礼します」

 一礼して理事長室を後にした。パタンと閉じられる音を背に、ふぅと息がこぼれる。

《あーあ、よりによってネズミ狩りかよ。せっかく練習したのになぁ》

 日がほとんど落ち、薄暗くなっている廊下を歩いていく。

《まぁそれは仕方ないわね。問題は、ネズミ……七つの大罪の情報か一味の確保。その為には……》

 修理中の杖が必要不可欠となる。たった二日で、どこまでできているのか。直っていないまま持ち出すのは余計に壊れてしまう可能性があるので、やめておいた方がいいだろう。なによりやりかけで返すことをウタはよしとしないはずだ。

《明日は部屋に残ってる初心者用の杖を持っていきましょう。借りた杖は大きくて目立つからと言えば、明日くらいは大丈夫なはず》

 前世で愛用していた杖は懐には隠せない長さだ。調査中に見られてなにか言われると面倒でもある。そう考慮したことにすればあくまで補佐であるミラはそれ以上追及はしてこないと思われた。

《じゃあアマネは先に寮へ戻って資料読んでろよ。オレっちがちょっくらウタの様子を見てくるぜ。教室で作業してるかもしれないからな》

《ありがとう。お願いするわ》

 クオンはこくりと頷くと、肩から飛び降りた。ちょうど階段に差し掛かったところで別れ、気持ち足早に寮にある自室を目指した。

 外は街灯が点きはじめ、空は紫から濃紺へと変化しつつあった。

 寮内も静かで、特に誰とも会うことなく自室に到着した。

 資料を机上に置き、クローゼットを開ける。片隅に積まれている縦長の箱を手に取ると、軽いものがぶつかり合うような軽い音が微かにした。ふたを開けると、初心者用の杖が五本残っていた。編入する前に買っておいたものだ。しかしすぐウタと知り合い、個人的に魔道具を作ってもらうことが多くなったので全てを使い潰すことはなかった。それでもちょっとした練習でウタの作品を消耗させるのは申し訳ないと思っていて、こっそり使っていたこともあった。おかげで杖のストックは半分以下になっているが、五本もあれば明日はなにかあっても乗り切れるだろう。

 杖の在庫確認をしたところで、ちょうどよくクオンから念話が送られてきた。

《うーん、校舎にはいないな》

《そう、ありがとう。いったん戻ってきて》

《おうよ》

 一拍置いて、段差を飛び降りるかのようにクオンが机上に姿を現した。着地して体を震わせると、杖入りの箱を手に戻りを待っていたアマネを見上げる。

「で、杖は何本あったんだ?」

「五本あったわ。明日の調査ですぐに狩りとはならない……と思うから、とりあえずはこれで大丈夫だと思う」

「んーまぁそうだな。ウタの邪魔をするわけにもいかないしな。いざというときにはオレっちもいるし、なんならミラをこき使っちまえばいい」

 生徒を守るのも教師の仕事だからな、と悪い笑みを浮かべるクオンに苦笑を返し、資料を読み込むべくアマネは椅子に腰かけた。落ち着いたのを見計らってクオンが肩に飛び乗る。

 一ページ目はスルーして、二枚目以降の調査報告書に目を通していく。

 ミラの報告書には主に魔力残渣の感知と客観的に見た港町の様子について、調査区画を細かく分けて書かれていた。

(一軒一軒、しかも別荘や当時船舶していた船にその周辺まで……こんなとんでもない範囲をミラ先生は……)

 残念なことに不審な魔力は感知されなかったようだが、手がかりになるかもしれないものをいくつか回収しているようだった。

(そういえば、拘束しておいたネズミからは情報を得られなかったのかしら)

 殺さず拘束したので、取り調べされているはずだった。一ページ目に戻り確認したアマネは、見逃していた文面を見て肩を落とした。

 ――ネズミの意識がはっきりせず、それぞれに記憶の混乱、精神の飽和を確認。聴取不可。病院にて手当てを受けるも、回復の見込みは薄い。情報漏洩を防ぐためになにかしらされたと予測。

「ちっ、せっかく苦労してとっ捕まえたのによー」

「残念だけれど、相手の方が上手だったようね」

 この書面から読み取れる手がかりを元に、捜索するしかない。

 本日何度目かのため息をつき、ふとひとつのことに思い当たった。

「……調査ってナギナミに行くのかしら」

 当事者だったアマネが事件現場に行けばなにかしら違和感を覚えたりするのかもしれないが、かなりの時間が経っている上に二度も調査されている。真新しい情報が得られるとは思えなかった。

「まぁ、一応準備しておいた方がいいだろうな。確か片道だけで一日かかるよな?」

「そうね……着替えとか多少用意しておかないと」

 資料を読んだら今度は荷造りだ。急に忙しくなったなと席を立ったアマネはクローゼットに歩み寄り、持っていく衣服や小道具を大きめなカバンに詰め込みはじめた。

 準備を済ませた頃には夜になっていたので、早々に眠りにつくことにした。

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