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陽の騎士と天の魔女  作者: 風鈴
第三章「薬剤師編」
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第七十三話

 とりあえず不吉そうな絵柄ではなかったことに安堵し、教科書をめくって意味を確認する。

「えっと、馬に乗って立ち向かう騎士の逆位置だから……」

 文字を指先で追いかけ、綴られている言葉が目に留まると同時に表情が曇る。

「おい、どうした」

「意味は……復讐、苦痛、暴走。ミラ先生のこと、なのかな」

 意味を目にした途端、人殺しというワードが再生されミラの顔が浮かび上がった。

「右から山札を回収していってたから、未来を示す山札から出てきたんだよな」

「ええ、気をつけろってことなのかしら」

 一体どこまで信憑性があるのか。さばいているときに無意識のうちにミラのことを意識していて、そのまま反映されてしまっただけなのかもしれない。

「……時間が惜しいわ。どんどん練習していきましょう」

「ま、そうだな。この占い結果はいったん置いといて……次はにこやかに行こうな! 言葉に詰まるなよ?」

「………………善処するわ」

 今はミラのことよりも本番に向けて支障がないようにしなければならない。

 深呼吸をし、気を取り直して教科書をめくる。二番目に記載されている占い方を確認しながら、再びクオンをお客に見立てて練習を再開した。

 終われば次の占い、そのまた次の占い。時折クオンに指摘してもらったり水を口にしたりしながらも、手と口を動かし続けた。

 もう何周繰り返しただろうか。最初よりはすらすらと言葉が出てくるようになり、カード捌きも手慣れてきたように思えた。

「うげ」

「………………クオン?」

 カードから視線を上げると、眉根を寄せて呻いたクオンは、居心地が悪そうに身じろぎする。

「……あのときの、鳥籠に引っ張られるような嫌な感覚がする」

「え、それって……?!」

 強制的に入学させられたときのように、離れ離れにされてしまうというのか。

「落ち着け。向こうはまた取っ捕まえる気はないみたいだ。多分……呼んでるんじゃないか?」

 悪趣味なと眉間にしわが寄る。手に力が入りかけたが、カードを数枚手にしていることを思い出しなんとか留まった。手早くカードをまとめ、ケースにしまう。

 椅子から立ち上がり、クオンに向かって手を差し出した。

「さっさと行きましょう。クオンに不愉快な思いをさせて……一発殴ってやるわ」

「おー、殴るかはともかく、乗り込んでやろうぜ!」

 クオンがぴょんと腕を伝って肩まで登る。落ち着いたのを確認して踵を返したところで室内が薄暗くなっていることに気づいた。窓の外も空が赤く染まりつつある。

(そういえばお昼食べてなかったわね。まぁ話を聞いてからでいっか)

 部屋を出て足早に廊下を進み、寮の向かい側にある学校へ入っていく。

 クオンを利用して呼び出した理事長は恐らく理事長室にいるのだろう。重要なことを話すときは他者に聞かれないよう必ずと言っていいほど理事長室だ。それにあの部屋以外で理事長が腰を落ち着けている姿を見たことがない。

 夕日が差し込む校舎内を誰とも会うことなく突き進み、最短距離で理事長室の前までやってきた。

 木製の扉は硬く閉じられ、理事長室と刻まれた金のプレートが来訪者に圧をかけてきている。しかし何度も訪れているアマネにとっては関わりたくない、閉じたままでいい扉だ。

 溜息がこぼれそうになるのをこらえ、ノックしようと腕を持ち上げた。

 ガチャリと音がして、触れていないのにゆっくりと扉が開かれる。

 扉の奥にはいつものように理事長が微笑を浮かべ、装飾の豪華な執務机の向こうで頬杖をついていた。

「こんな時間にすまないね。第二次試験の通知が来たんだ」

 理事長室に踏み込みながら、不愉快なのを隠すことなく眉根を寄せてみせる。

「クオンにちょっかい出さずとも、パートナーの使い魔なり誰か寄越すなりしてください」

「おや、適当に使いを頼んでもよかったのかな。関係者を増やすことは君も好まないと思ったのだけれど」

 言葉選びであろうと少しでもヘマをすればこれだ。容赦なくにやにやしながら指摘される。クオンに止められたとしても一発くらい殴るのを実行しようか、と不穏な考えがよぎり一歩踏み出しかけたそのとき、唐突に背後で気配を感じて振り返った。

「……っ、ミラ、先生?」

 夏休み中なのに白衣とハイヒールブーツをはずさない女性教師は、アマネから数歩下がったところで手にしているファイルに目を落としていた。少し間を置いて顔を上げたミラは、いたずらが成功したかのように口の端を僅かに吊り上げてみせる。

 この部屋の扉がタイミングよく開いたのも、アマネがやってきたことを察知したミラが開けたのだろう。そして自動で開いたことに違和感を覚えなかったほどに気配がなかった。

(……わざと、気づかせたのね。理事長といい、なんでこんな人たちが教師なのよ)

「こんばんはアマネさん。私のことは気にせず、試験内容を話してもらって」

《くそっ、オレっちも気づかないなんてよ……!》

 悔しがるクオンをそっと撫でて同意する。

(ミラ先生がいるということは、やっぱり試験内容は占いか、魔力循環治療の実践ってところかしら)

 魔女関連の試験は魔女が審査するものなのだろう。最悪この場でやらされて、あっけなく終わってしまうのかもしれない。とりあえず話を聞かねばと理事長の方へと向き直ると、珍しくどこか困ったような表情を浮かべて手元の紙片を見下ろしていた。

「通知の内容なのですが、時期はずれもいいところの特例に設けた試験だからか、少々面倒なことを要求されています」

「面倒……?」

 あの理事長が面倒と口にする内容。関係者を増やさないよう行動しているらしいのにこの場にミラがいる状況もあり、アマネは練習が無駄に終わったと悟ってしまった。

「第二次試験、内容はネズミ狩り。それも七つの大罪についての情報またはその一味を捕まえてきてほしいと」

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