表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陽の騎士と天の魔女  作者: 風鈴
第三章「薬剤師編」
69/126

第六十七話

 実戦室がある廊下へ出ると、スーツにサングラスをかけた男性が静かに立っていた。その姿は病院でのことを思い起こさせる。

 粛々とした雰囲気をかもし出しているが、国家が派遣した魔女関連の役人としては、衣装がもっと魔法関連っぽくあってもいいような気もする。

「お待たせして申し訳ありませんでした。彼女が受験希望者のアマネくんです」

 理事長が前に出てあいさつする。そして一言二言交わした後、実戦室の扉が開かれた。

 大人の後に続いて室内へ踏み込み、指示されて中央に立つ。ウタは出入り口のすぐ横で、理事長とともに見学していた。彼女が受けるわけではないのに緊張した面持ちをしていて、つい口元が緩んでしまう。

「それでは、学生アマネ殿の国家試験、第一実技部門をはじめます。魔道具を使用し、唯一と自負する魔法を見せてください」

「はい」

 一度深呼吸をして約三百年ぶりの杖を静かに見下ろした。魔力を流し込むと、木が水分を吸い上げるかのごとく抵抗なく染み込んでいった。先端に集約されるにつれ、何重にも丸められた形に添って魔力が渦を巻き、圧縮されていく。

(室内だから呼び込める風はほとんどないけれど、この杖なら必要なさそうね)

 それでも練習試合のような規模にならないよう魔力をコントロールしなければいけない。今は本番で、理事長が見ているのだから失敗などして弱みを見せたくない。

 アマネは杖をゆっくりと掲げながら言葉を紡いだ。

「舞い集い、天の御柱をここへ示せ――リューカン!」

 杖から解き放たれた魔力が空気を巻き込み、アマネの目の前で巨大な渦の柱を形作っていく。そして今度は天井より少し低い高さで安定させることができた。

 目の前で渦巻くリューカンから、微かに懐かしい草木の匂いがした。杖に当時の魔力が残っていたのかもしれない。脳裏に故郷の景色が浮かび上がって一瞬懐かしむも、記憶の奥底へ沈めるべく、ゆっくりと目を閉じる。

(今はない場所を懐かしんでいる場合じゃないわ。それにしても、すんなりとうまくできた、けど……見せるだけでいいのかしら)

 室内にはアマネたち人間と発動させたリューカンのみで、魔法の威力を示せるような的は何もない。ただ室内で竜巻が発生し、吹き荒れているだけになっているのだが。

「唯一と自負する魔法を確認しました。収めていただいてけっこうです」

 風鳴りがうるさい中でも審査員の声がはっきりと届いた。思わず真横を見やるが、審査員は最初に立っていた壁際から一歩も動いていない。

 驚きつつも、とりあえず指示通りにリューカンの発動を止めることにした。

 掲げていた杖の先端をゆっくりと床に向ける。するとリューカンが杖に切り裂かれたかのように縦に割れ、分散して消えていった。

(よし、打ち消す際も暴走させずにできたわ。さすがは相棒といったところかしら)

 ふぅ、と息をついたところでピシリと乾いた音がしたような気がした。杖を握る手に違和感を覚えて見下ろすと、頭の中央に小さな亀裂が走っているではないか。

(まずいわね。もともと私の杖とはいえ、手入れなしでいきなり使ったから……)

「お疲れさまでした。第一実技の合否は第二実技、筆記と合わせて後日、書類で送らせていただきます……どうかしましたか?」

 審査員に声をかけられてはっとしたアマネは、近くまで歩み寄っていた審査員と目が合った。試験に使った魔道具に不具合が生じたと知られたら、不合格にされるかもしれない。

「あ、いえ。よろしくお願いします」

 軽く頭を下げると幸いにもそれ以上追求されることはなく、踵を返して理事長の元へ行ってしまった。

(……審査員の方、女性だったのね。短髪だったから、男性だと思ってたわ)

 接近に気づかず驚いて注視してようやく、胸元が膨らんでいることに気づいたのだった。女性であり国家試験の審査員であれば、リューカンで騒々しくとも魔法で声を届けることは容易だろう。以前、アマネが鍛錬に集中していたヒイロに向かって、声を風に乗せたときのように。

 審査員はまた理事長と一言二言話すと会釈し、実戦室を後にした。

「では私は審査員の方を見送ってくるので、今日のところは解散で。第二実技の内容と筆記の方は後日また連絡しますね。その杖はまぁ、一週間後までに返していただければけっこうですので」

「分かりました」

 試験が終わったらすぐに取り上げられると覚悟していた。しかし思いがけず猶予をもらえたのでヒビをどうにかして、何事もなかったかのようにして博物館に戻さなくてはいけない。

 理事長が足早に出て行くと、入れ替わりにウタが駆け寄ってきた。

「あ、あ、アマネちゃん! すごいよ! さっきの今で魔法を成功させるなんて!」

 今までにないくらいにウタの目が輝いている。

「アマネちゃんにはやっぱり杖の方が相性はいいのかな? それともその杖になにか秘密が……? レプリカだから、きっと本物に近い技術で作られてるって事だよね?!」

 いや全身から輝きが溢れている。飛びつかれかねない勢いに気おされ、気づけば壁際まで追い詰められていた。胸の前で握り締める杖に、ウタの熱い視線が注がれ続けている。

「お、落ち着いてウタ。一週間は借りられるみたいだから、焦らなくてもゆっくり観察できると思うわ」

「お、おおおお! レプリカとはいえ、ソウランの魔女の杖が目の前にぃぃぃ!」

 レプリカだと信じている状況で、両手を震わせながら伸ばしては引っ込めを繰り返している。これで実は本物だと明かしたら倒れてしまいそうな予感がした。

 しかし杖を修復できるとしたら加工技師しかいないだろう。そして知り合いで加工技師の知識を持っているのは、目の前にいる彼女しかいなかった。適当なものに任せると、本物だと見破られたり、盗んだのではと疑われたりと面倒ごとになりかねない。

「……あの、ウタ。実は少し困っているの」

「え、あ、ごめんね。さすがにうざかったよね」

「違うわ。ウタが魔道具に強い関心を持っていることはよく知っているから。それでここ、なんだけど……」

 杖の頭部分を指し示すと、ウタはあっと声を上げた。そしてすぐに背後を振り向いたが、室内にはアマネとウタの二人しかいない。彼女は小さく息をつき、杖を見つめて深刻そうな顔をした。

「ひびが入っちゃってるね。もしかして今の魔法で?」

「ええ……メンテナンスも十分にされてなかったみたいだし、借りてすぐに使ったから負荷がかかりすぎてしまったみたいなの。なんとか修復できないかしら」

「ちょっと手にとって見てもいいかな?」

 杖を受け取ったウタは頭から先端までためつすがめつ眺めると、眉間のしわを深くした。

「難しいかしら。かなり古いものだし……」

 これまで様々な魔道具を作ってきたとはいえ、ウタはまだ加工技師を目指している学生だ。いきなり高難易度のものを渡されては困ってしまうだろう。

(そもそもいきなり渡す理事長が悪いのよ。これ以上壊さないように使って、試験に合格したら突き返せばいいわ。この杖は今の私の杖じゃない。前の私とともに眠っていたいはずだから)

「診てくれてありがとうウタ。レプリカだもの。それ以上壊さないよう使えば、理事長もそんなに怒らないでしょう」

「アマネちゃん、第二実技って理事長が言ってたけど、どんな内容か知ってる?」

「第二実技は確か、実際の魔女の仕事に近いものだったはずよ。占いだったり、魔力循環治療だったり。ネズミ狩り……は、さすがにないとは思うけど」

 以前に理事長から資格のことを聞いた際に、どんな試験内容なのかと調べたことはある。

 そもそもそうしょっちゅうネズミが出られても困るし、いきなり学生が立ち向かっていい相手ではない。資格を取るために命を賭けるなんてことになったら、誰も資格を取らなくなるだろう。

 そういうとウタはうーんと首を傾けた。

「そっかぁ。問題はいつ試験内容を教えてもらえるかだね。それまでに……」

「あの、ウタ? 私から言っておいてなんだけれど、あなたも学業があるのだから無理しないで。これまで十分すぎるくらいに助けられてきてるもの」

 彼女の作ってくれた魔道具がなければ、アマネは今ここにいられなかった。しかしそれは授業や課題の合間に、自由に使えるはずの時間を犠牲にしてくれたからだ。アマネのための魔道具を作らなかったら、同じ夢を持つ仲間と切磋琢磨したり友好を深めたりする時間にできたはずなのに。

 返してもらおうと手を伸ばすと、さっと遠ざけられてしまった。目を丸くすると、目を細めているウタとかち合う。

「無理かどうかはやってみないと分からないかなぁ。でもねアマネちゃん。その分、人はやってやろうじゃないって燃え上がるものよ!」

 ウタは不敵な笑みを浮かべ、杖を掲げた。

「一週間も借りられるってことは、その間に試験内容の発表が来て終わらせられるってことよね。筆記は最大でも一日かかるとして、占いなら一日で済む? でもそれだと一週間も借りる必要は……」

「あ、あのウタ…………いいの? 時間を使わせてしまって」

 申し訳ない気持ちでいっぱいになっているアマネに気づいたウタは苦笑した。

「またそうやって……この燃え盛る目は嫌がっているように見えるのかな?」

 ずいっと詰め寄られ、間近で見つめられる。瞳の奥は確かに、やる気がめらめらと燃え盛っているようだった。

「そ、そうは、見えないです」

「でしょうとも。私、嫌だったり迷惑だったりしたらはっきり言うからね? むしろレベルアップのチャンスだから、喜んでやらせてもらうよ。あ、完璧に直せるかの保障は、できないけど……」

 肩を落とすウタに、緩やかに首を振ってアマネは微笑する。

「そういってもらえるだけでありがたいわ。お願いしてもいいかしら」

「任せてちょうだいな。第二実技試験、教えてもらったら言ってね。それまでにできるかぎりのことやってみる」

 頼もしい言葉に笑みがこぼれる。

(私も負けてられないわね。とりあえずは第二実技の内容がなんだろうと対応できるようにしておかなくちゃ。ミラ先生ともまた接触しないとだし……)

 ウタはさっそく修復を試みてくれるという。お言葉に甘えて杖を預け、二人は実戦室を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ