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陽の騎士と天の魔女  作者: 風鈴
第二章「魔女覚醒編」
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第四十六話

 それぞれがネズミからの攻撃に耐えてくれることを祈りながら、自身に向かってくるネズミの対処をする。威力は弱いものの、魔法具への負担が少ない小さなカザタマを数十個ほど作っていく。それを襲いかかってくるネズミたちの急所に狙いを定め、解き放った。フウバクで身体の一部を拘束していないネズミたちには魔法や剣技で相殺されてしまったが、拘束されているネズミに関しては、フウバクの鎖を上手く利用することでその身体にカザタマを当てることに成功する。しかしそれは決して致命傷となることはない。せいぜい動きを鈍らせる程度の威力しかないからだ。

 動きを鈍らせているネズミから目を離さないようにし、攻撃が当たっていないネズミへの魔法を繰り出していく。

 粗方の魔法や剣での攻撃は、半径一メートルほどの円を描くようにクーヘキを展開しているため防ぐことができるが、クーヘキの防御力を上回る攻撃は自身の判断で避けなければならない。

 じりじりとした攻防が数十分に渡って続く。クオンが眠っているから魔力が半分しかないとはいえ、まだ魔力の残量には余裕がある。しかし体力の方が長くは続かず、息を切らすようになってきていた。どれだけ鍛えようとも、所詮は十歳児と同じ身体。十代後半の若者や、成人した大人と同じ動きをすれば、いずれ身体が重くなっていうことを聞かなくなってくるだろう。

「はぁ、はっ」

 基本的に魔女は魔法具がなくては、魔法を発動させることができない。今のアマネはクオンがいないことで力が半減している上に、魔法の発動回数にも制限がある。体力にも魔法にも制限がある不利な状況での戦闘は、思っていたよりもアマネを苦しめていた。

(……っ、このままじゃ、きりがない)

 当初の予定では弱い魔法を当てつつ、隙をついて威力の強い魔法で倒す予定だった。しかしネズミ同士の連携がうまいこととれているせいで、なかなか予定通りに事を進めることができない。

 不意打ちを取られないように、ヒイロたちを一瞥するものの、アマネと同じく苦戦している姿が視界に入ってきた。

 このままでは近いうちに全員がやられてしまう。

 瞬時にさまざまな戦闘方法を思案するが、どれも名案とまではいかない。

 しかしこのままクーヘキで自身を守って、カザタマを打ってばかりいても戦況はなにも変わらない。

(どうすれば、どうすればいい!?)

 焦らず、自身に何度も問いかける。

 そうしていると、ふと脳裏にトウカが言っていた言葉が浮かんできた。

――目覚めのヒントは、ヒーちゃんと手を繋ぐこと、よ。

(そうだ、トウカさんはそう言っていた。クオンが目覚めてさえくれれば、戦況は一気に変わる!!)

 ヒイロと手を繋ぐこと。

 それは物理的な意味ではなかったのだとしたら。

 以前にラキと試合したあと、ヒイロは言っていたではないか。

 助けたいと手を差し伸ばす人がいることを忘れないほしい。その手をどうか取ってほしい、と。そう言っていたではないか。

(だとしたら、手を繋ぐという意味は……私がヒイロを信用して、その手を取るということなの?)

 アマネは今でも十分にヒイロを頼っていると思っていた。

 けれどそれは本当にそうなのか。自身の心に問いかける。

(いや、違う。私はヒイロを心から頼りにしていなかった)

 そうして出てきた答えは、これだった。

 頼りにしていたら、ネズミを殺す覚悟はアマネだけで十分だ、なんて思わない。二人で背負っていこう、となるはずだ。それに現在の戦況だって、アマネが作り出したものに過ぎない。もしアマネが皆を頼って戦っていたとしたら、違う戦況になっていただろう。少なくとも元騎士三人、元魔女五人の合計八人のネズミの相手をする事態にはならなかったはずだ。

 ヒイロは頼ってほしいと言っている。ラキやウタだってそうだ。アマネに手を差し伸ばしてくれたのに、肝心のアマネは壁を作ってその手を頑なに取ろうとはしなかったではないか。

 屋上での一件以来、アマネはヒイロたちを頼っていると思い込んでいた。

(今頃気づくだなんて……)

 自嘲したい気持ちに駆られるが、あいにく今はそれどころではない。

 大きな魔法は使っていないものの、魔法を何十発も連発したせいで、二つ目の指輪は一つ目の指輪と同じように砕け散った。

 その音がアマネの耳に届き、次の行動へと移させるきっかけとなった。

「ヒイロ!!」

 これほど大きな声を出したのは、久しぶりだった。喉が若干やられたが、こうでもしないと、魔法や金属がぶつかり合う音でかき消されてしまうからだ。

「なんだ、よっ!」

 ヒイロは向かってくる刃をどうにか防ぎ、アマネに応えてくれた。

 アマネもクーヘキを維持しながら、ヒイロに言葉を投げかける。今までのアマネだったら、決して口にしない言葉だった。

「私とどこまでも一緒にきてくれる?」

 まるでプロポーズのような言葉だと、ピンチな状況にも関わらず笑えてくる。同じようにヒイロも思ったのかクスリと笑いを滲ませたあと、この場にいる全員に聞こえるような声で叫んだ。

「アマネがそう望むのなら! アマネの騎士として、ずっと隣にいさせてくれ!!」

 ネズミやアイカのことが片付いても、アマネが歩く道は決して優しいものではない。その証拠にこの事件が片付いたら、次は理事長と向き合わなくてはならない。

 でも隣にヒイロがいてくれるのなら。

 辛くとも乗り越えられる、自然とそう思えた。

 無意識に作っていた分厚い壁を取り払って、伸ばしてくれたヒイロの手に自身の手を伸ばした。その手をヒイロは嬉しそうに握ってくれたから、アマネも同じように握り返したいと自ずと力を込めた。

「お願いします!!」

 そんな時のことだった。

 懐かしく、愛おしい声が聞こえてきたのは。

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