番外編1「らぶ&うぃっち」
二話連続投稿しております。ご注意ください。
「はあ、なんでアイのパートナーは見つからないのかしら……」
魔女と騎士だった二人が結婚して生まれたアイカは、自身も両親のようになりたいと、騎士や魔女の卵が通うランシン専門学校に期待に胸を膨らませて入学した。
入学式で、理事長や担任となる先生の話などを拝聴しながら、視線を色んなところに向けて一人一人の顔を一瞥していった。しかしどの生徒もパっとするような雰囲気を感じられず、肩を落とすしかなかった。その証拠に瞳の色は赤茶ばかり。アイカ自身の瞳が朱色ということもあって、最低でも赤の瞳であることがパートナーに求める条件だ。
入学式のためにと、綺麗に巻いた金色の髪をいじりながら、頬杖をついてため息をつく。
魔女・騎士科へ入学するには、ある程度の魔力がなければならない。そのため、他の専攻のクラスと違って人数は少ない。三十人ほどの魔女と騎士の混合クラスが二つあるだけだった。
再度ため息をつきながら、教壇に担任に視線を向ける。
「はじめまして、皆さん。今日からこのクラスの担任になりましたキシナです。よろしくお願いします」
黄色がかった薄茶色の短髪に、アイカの最低条件である赤の瞳。しかしランシン専門学校の教師をする以上、パートナーの魔女がいるはずだ。本来魔女・騎士科は二つのクラスしかないため、必然的にパートナー同士の魔女と騎士が一学年を担当する。今年はキシナのパートナーが病気で入院中ということから、パートナーではない魔女と騎士が担任をすることになったらしい。
キシナの自己紹介が終わると、次はクラスメイトが順に自己紹介をしていく番となった。窓側の最前列に座っている子から順に回ってくりるらしい。アイカの番までまだ時間はありそうだ。どうせアイカのパートナーにならない騎士やライバルになる魔女だ。しっかりと聞く必要もないと判断して、自身の自己紹介を考えた。
「さて、次はアイカくんですね。よろしくお願いします」
「わかりましたわ」
誰よりも綺麗な姿勢で立ち上がり、自己紹介を口にしようとしたその時だった。アイカの声を遮るように、教室前方の扉が音を立てて開く。
「なっ……、一体誰ですの! アイの自己紹介を邪魔、する……のは」
邪魔されたことに憤り、声を荒げるが、そこにいたのは燃える炎のように赤い髪と瞳を持つ同じ薄灰色の制服を身にまとった一人の男子生徒だった。アイカの最低条件をクリアしている上に、顔もアイカの好みドストライクである。
(アイの求めてた人は、まさにこの人ですわ!)
声は勢いを失い、次第に小さくなっていく。男子生徒はアイカの方を振り向くと、悪かったなと赤の髪を片手で掻きながら謝ってきた。普段そんな謝り方をされたら怒るところだが、あいにくそれどころではない。鼓動を早く打つ心臓を落ち着けながら、笑顔を顔に貼り付けた。
「べ、別に気にしてませんわ」
「ならいいんだけど。あ、俺はヒイロっていうんだけど、あんたは名前なんていうの?」
さらっとした流れで尋ねてくるヒイロに、頬を赤らめながら名乗った。
「アイカですわ」
「そっか、よろしくなアイカ」
(よ、呼び捨てにされましたわ! もうアイのパートナーはこの人しかいませんわ!)
キシナによって自己紹介の再開を促されるものの、今はそんなことをしている場合ではない。アイカが知りたいものはヒイロの情報なのだ。
「アイの自己紹介はあとで大丈夫ですわ。ヒイロくんはアイより先に自己紹介するはずだったのでしょう? お先にどうぞ」
アイカが指さす先には一つの空席があった。おそらくそこがヒイロの席なのだろう。だとしたら、アイカの意見は正論のはずだ。
キシナはどうしたものかと迷った末、アイカの案を通してくれた。
「ではヒイロくん、席についたら自己紹介、お願いできますか?」
「いいけどさ、兄貴のその口調と呼び方気持ち悪い」
「今日からは教師と生徒なので、これでいいんです。ヒイロくん、ちゃんと先生と呼んでください」
「えーー」
「えー、じゃありません。ほら」
その会話は仲のいい兄弟そのものだ。ヒイロの新たな一面を見ることができたり、キシナといとこだという情報を得ることができて、緩む頬を止めることができない。
「はいはい。キーちゃん先生。これでいいだろ?」
「もう。仕方ありませんね。それでいいですから、自己紹介してください」
キシナの言葉に従いつつも、きちんと先生と呼ばない辺りが格好よく見えて仕方がない。アイカはヒイロの言葉を一言一句聞き逃さないよう、耳を傾けた。
「俺の名前はヒイロ。得意な武器は大剣だ。ここに入学するからには、魔女の支えになる頼れる騎士になりたいと思っている。よろしくな」
(魔女の支えになる頼れる騎士になりたい、だなんて……。もう彼しか私のパートナーはありえませんわ!!)
自己紹介後恒例の拍手は誰よりも大きく叩いた。
「ではアイカさん、お願いします」
「ええ、わかりましたわ」
先程自己紹介をするときとは打って変わった気持ちで口を開いた。
「アイカと申します。瞳の色はこの通り朱色。将来は父のような素敵な騎士とパートナーを組んで、母のように立派な魔女になりたいと思ってますわ」
もちろん、ここでヒイロの名前を口にするようなことはしない。初日からそんなことをすれば、最悪引かれてしまう。だから視線を合わせるだけに留めておくのがベストだ。これらの知識は全て母からもらったものだから、間違いないはずだ。現にヒイロはアイカと視線が合うと、歯を見せて笑ってくれた。
アイカはそれに微笑みを返して、印象をなるべく良く植え付ける。
(こういうのは最初が肝心とよく言いますわ)
獲物を狙う瞳を微笑みの中に隠しながら、今後の学生生活に思いを馳せた。




