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陽の騎士と天の魔女  作者: 風鈴
第一章「学校転入編」
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第二十七話

 輝きはじめたクオンの体を押し、一歩、また一歩と前に出る。押し返す反発力が進むにつれ強くなるが、負けじと震える膝に気合を入れる。

 クオンを包む光が収縮していき、反対側にいるヒイロの姿が見えてくるようになってきた。クオンを挟んでアマネとヒイロの手が重なれば武器化できるのだが、あと数歩が遠い。

「アマネ、手を貸せ!」

 呼ばれると同時に手を引かれ、アマネはたたらを踏んだ。ヒイロの傍らに来ると肩を抱き寄せられ、驚いて見上げるアマネをヒイロは真剣な顔で見下ろした。

「一気にいくぞ」

「ええ」

 視線を光に戻し、せーので腕に力を込める。

 ヒイロの指先に触れた瞬間、手の中であふれ出しそうな光は縦に長く伸びた。光は途中で十字架の形になり、長い部分は平たくなる。

(長めの柄に、広い剣幅……やっぱり、大剣になるのね)

 宙に浮き徐々に武器の形を取っていく光を見つめていると、ヒイロが手を伸ばした。握った場所から光は消え、大剣が姿を現す。その姿形を目の当たりにして、アマネはどきりとした。

 ヒイロの武器になるのだから大剣なのは分かってはいたが、姿形が前世のときとまったく一緒だとは予想だにしていなかった。前世は前世、今は今で別のヒイロなのだから、武器の種類が同じであってもデザインは異なるはずなのに。

(これは、偶然なの? 私だって、前世と比べて変わったところがあるのに)

「やったな、アマネ」

 振り返ったヒイロが破顔する。デザインなどのことはひとまず置いておいて、武器化できたことをよしとすることにした。喜びを分かち合うために、応えようと微笑したアマネは、ふいに胸に刃物を突き立てられたような激痛に襲われた。その場に立っていることすらままならず、胸を押さえて膝を着いた。

「ゲホッ、ゲホッ、ゴホッ」

 体温が急激に下がるのを感じた。比例するように鮮血が口からこぼれ、目の前に血溜まりを作っていく。

「アマネ大丈、……っく」

 鉄の味が喉を焼き、次々とせり上がってくるため返事ができない。それでも風の動きを感じたアマネは顔を上げ、ヒイロの異変に目を見開いた。

(どうして。武器化は成功して、魔力もありったけ注いだ。自身を癒すための眠りにつくはずなのに)

 ヒイロの手に握られた大剣は風を渦巻かせていた。風はヒイロを拒絶するかのように細かな傷をつけていく。ヒイロは顔をしかめながらも耐えていた。

「くっ、まだ抵抗するのかよ」

 このままではヒイロの手が傷だらけになってしまう。見上げていたアマネは、ふいに体の力が抜けて傾いたことに気づくのが遅れた。

 はっとして両手をつき荒く息をつく。ごく近くに転がる瓦礫がかすんで見える。震える手を伸ばして拾ったアマネは、体を支えている手の甲に瓦礫で殴りつけた。皮膚がこすれて血がにじんだが、痛みのおかげで意識をつなぎとめることに成功した。

(まだ倒れてはダメ。クオンが安定するまでは)

 再び離すまいと耐えているヒイロに視線を戻し、手を差し出す。

(ヒイロを拒んでいるのなら、私が手にすれば落ち着くかもしれない)

「ヒ……ロ、クオンを……たしに」

 ほとんど声が出なかったが、意図は伝わったようだ。ヒイロは渋面になって首を振る。

「血反吐を吐いてる奴に渡せるとでも思ってんのかよ」

「また、武器化す……かも。だから」

「あーもう、分かった。言い出したら聞かないよな、お前は」

 渡すわけじゃないからなと、ヒイロはアマネの傍らに肩膝を着く。

「いいか、痛かったり苦しかったりしたらすぐに手を離せ」

 黙っていると何度も念押しされ、仕方なく頷くとようやく風が渦巻く柄を眼前に出された。アマネは緩慢に手を伸ばし、ヒイロの手を傷つけている風に躊躇なく突っ込んで柄に触れた。

 瞑目すると、暗闇の中で漂う赤い輝きに抗っているクオンの後ろ姿が見えた。そしてあの輝きはヒイロの魔力だと認知すると同時に納得する。知らないうちに、それも別人の魔力が勝手に侵入してきたら驚くし、抵抗もするだろう。

(クオン、もう大丈夫。それは仮契約したヒイロの魔力。敵ではないわ)

 落ち着いて同じ言葉を繰り返し伝える。何度目かで落ち着きを見せはじめた。暴れるのを止め、周囲を見渡すと安心したのかその場で丸くなった。

 もう大丈夫だと目を開けると、大剣を包んでいた風は消えていた。先程までの抵抗は嘘だったかのように沈黙している。

「アマネ……お前、なにしたんだ?」

 呆然と目をしばたたかせるヒイロにアマネは微笑する。

「大丈夫って、伝えた……の。私の、使い魔だもの。伝わらないはず……ない」

 無事に鎮静化させることができた。しかししばらくは大剣のまま、魔力が十分に維持できるまでは目を覚まさないだろう。寂しく思うが致し方ない。

「アマネちゃん! アマネちゃん、アマネちゃん!!」

 振り返ると同時に勢いよく抱きしめられた。体当たりの衝撃にめまいを覚えるも、涙ぐむウタの背を撫でてやる。

「ウタ、ごめん。もう終わったから」

「む、むぢゃじずぎだよぉ。早くおいじゃさんに診てもらわなぎゃ」

 早くと言われても抱きしめられていては身動きが取れない。苦笑していると、密着していたウタの体が浮いた。

「医者にと言いながら、動けなくしていてどうしますの!」

 ウタの後方でアイカが呆れ混じりに杖を振るっていた。離れようとしないウタにフドーをかけたようだ。

「ご、ごめんってば。分かったから下ろしてください!」

 着地したウタは気を取り直してしゃがみこみ、アマネの腕を自身の肩に回した。カシャンという音がして、全員が音源に注目する。

 輪の一部が大きく欠けた腕輪が転がっていた。どこもかしこも亀裂だらけで、とてもじゃないが修復できそうにない。

「また、壊してしちゃった……ウタ」

「嬉しいよ。少しは力になれたってことでしょう? ここまでよくもったなぁ」

 ウタの瞳に後悔や残念に感じている様子はなく、心から感心し喜んでいるようだった。

「そうね。この腕輪がなかったら、もっと苦戦していた。クオンを失っていたかもしれない。ありがとう」

「えへへ、次はもっといいのを考えるから楽しみにしてて。で、アマネちゃん、立って歩けそう?」

「ええ、少しは」

 支えられているおかげで立ち上がることができた。そのまま転倒しないよう小石を避け、慎重に歩を進める。

 武器化したクオンはヒイロが持ち、先を歩いて邪魔な瓦礫をどかしてくれていた。

 特に会話もなく階段室に着き、ヒイロが開け放たれたままの扉から階下の様子を窺った。

「静か、だな」

 不自然なくらいに物音一つしない。

「私が武器を取りに行ったときは、生徒とはすれ違わなかったよ」

「アイが待機しているときも、特に騒いでいる様子はなかったですわね」

 たまたま居残っていた生徒がいなかったのかは分からない。騒ぎを聞きつけたとしても、教師に止められて避難させられているのかもしれない。

 疑問に思いつつ、瓦礫と砂塵で少し荒れた階段室をゆっくり下っていく。

 再び沈黙が訪れた。この騒動は気軽に感想など口にできるものではない。それぞれ騒動の発端となった気まずさ、力不足による悔しさを抱える中、アマネは周囲を警戒していた。

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