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陽の騎士と天の魔女  作者: 風鈴
第一章「学校転入編」
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第二話

 開け放たれた窓からは風が吹き込み、カーテンを躍らせている。

ホームルーム前の時間。生徒たちは等間隔に並べられた自分の席から離れ、仲のいいグループ同士で会話に花を咲かせていた。

「ねぇ、転入生って今日だったわよね?」

「そうそう。どんな子だろう? キーちゃん先生、教えてくれなかったもんね」

「どうせお前らはイケメンにしか興味ないんだろーが」

「そういう男子だって、かわいい女の子がいいって言ってるのと変わらないでしょ」

 室内では来る転入生の話で持ちきりだった。分かっているのは同い年ということだけで、男なのか女なのか、なぜ入学が二ヶ月も遅れてきたのかと疑問と想像で盛り上がっている。

「転入生が赤だったらどうする?」

 そんな中、誰かが口にした一言で、教室内が途端に静まり返った。発言した生徒も気まずそうに黙り込む。

外見や経歴をとやかく言っていても、全員が一番気になっているのは、色。魔女・騎士科の平均的な色は茶色から赤。クラス内での赤は男女一人ずつだけで、持ってさえいればクラスの中心になれる。分かりやすい序列だ。

「なにいってんの。赤だろうが、このクラスのリーダーはヒイロくんとアイカさんでしょ」

 誰かが言った一言に、金色の髪を綺麗に巻いた女性の口が弧を描いた。朱色の瞳はその場にいない転校生を見下すように笑っている。

「そうね。何色でしょうが手厚く歓迎してあげますわ」

「さすがクラスの代表のうちの一人、アイカさんね!」




 これから一緒に過ごしていくクラスメイトがアマネの話で盛り上がっているとは露ほども思わず、キシナの後ろをただ黙ってついていく。キシナはといえば、その道中に部屋の名前などやどのような用途で使われるのか、説明していた。

「さて、クラスにつきました。アマネくん、それでは中に入りましょうか。アマネくんを皆に紹介します」

「え、紹介って、そんなの別にいらな」

「さあついてきてください」

 転入生だから、最初に必ず行わなければならない行事なのだろうが、そんな目立つ行事は遠慮させてもらいたい。この学校にきた理由は魔女になりたいわけでも、友人を作りたいわけでもないのだから。

 しかしキシナは聞く耳を持たず、教室内へ入って行ってしまった。

「お待たせしました。みなさん席についてください」

 生徒が全員席に着いたのを確認し、キシナは白いチョークを手に取り黒板に名前を書きはじめる。

「今日からこのクラスの仲間になる、アマネくんです。みなさん、いろいろと教えてあげてくださいね」

「キーちゃん先生。誰もいないけど」

「ん、あれ、アマネくん? 入って入って。みんなに自己紹介してください」

「いや、あの、私、ちょっと」

 アマネが教室内に一緒に入ってきていないことを男子生徒に指摘され、そこでようやくアマネが廊下にまだいることに気がついた。

「恥ずかしがり屋なのかしら?」

「それで二ヶ月も学校に来れなかったとか? うそでしょ」

 よく入学する気になったものだ、などとひそひそ話が飛び交う。

 どうしてかなかなか入ろうとしない転入生を、キシナが手を引いてなんとか連れ込んだ。

「どうしたのアマネくん。ほら」

 そんなアマネの抵抗も虚しく、クラスメイトとなる生徒の視線が集まる中、強制的に教室内に入れられてしまった。

 そうして教室内へ一歩足を踏み入れた瞬間、空気がざわついた。

 予想していた反応なので、そこは特に気にすることなく無視をする。

「……ちっさくね?」

「あの子、本当に転入生なの?」

 訳あってアマネの外見は十歳ほどにしか見えない。百四十センチしかない身長に、子供特有の丸みを帯びた顔は、どう見ても十五歳には見えないだろう。心の中で深い溜息をつく。ざわつくクラスメイトを一瞥すると、一際目立つ存在に目を奪われた。

(うそ、でしょ……) 

「へぇ、空色の髪か。珍しいな」

その男子生徒はアマネと視線が合うと、にっこりと微笑みながらアマネの髪色について触れてくる。初めて出会った時と全く同じ反応に、赤茶の瞳が潤んだ。

「ヒイロの言う通り珍しいけど、でもめっちゃかわいい! やったぜ」

 名も知らない男子生徒の一言で、髪色が珍しいと口した男子生徒の名前が判明した。

 燃える炎のように赤い髪と瞳。写真では知っていたとしても、やはり驚かずにはいられない。

「はいはい、よかったねー男子」

 喜ぶ男子と呆れる女子。揉め事は起こらなさそうだと誰もが思っていたそのとき、顔を俯かせていたアマネの瞳から光るものが零れ落ちた。

「あ……」

 かすれた声と同時にすぐさま顔を覆い、転入生は廊下に飛び出してどこかへ行ってしまった。驚いた一同は引き止めることも忘れ、走り去る背を見送る。

「えっ、アマネくん?」

「今の、涙?」

「それって、泣いたってこと? なんで?」

 突然のことにわけが分からず、キシナは呆然と立ち尽くし、クラスメイトは互いの顔を見合わせる生徒たち。ガタリと音がして振り向くと、廊下を見つめたままヒイロが立ち上がっていた。

「ヒイロくん? どうかしまして?」

 声をかけたアイカに目もくれず、ヒイロは転入生の後を追って出ていく。

「あいつ走っていったぞ」

「わ、私たちも追いかけますわよ!」

「あ、ちょっとみんな!? ホームルーム中だからここは先生が、って待ちなさい!」

アイカも追いかけていったことに触発され、困惑していた生徒たちも次々と席を立ち教室を飛び出していった。

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