表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陽の騎士と天の魔女  作者: 風鈴
第三章「薬剤師編」
120/126

第百十八話

 背負われたウタはふぅと息をつき、心配して見つめるアマネと目が合うと目を泳がせた。固く口を結んできつく目を閉じる。

「ウ、ウタ? 本当に、まだ治ってないんだから無茶しないで」

「ううん、違うの……あのね……」

 思わず声をかけたアマネに対し、緩慢に首を振ると自身の胸元を探り、恐る恐る目を開けて見つめてきた。その表情は強張っているが、瞳に意を決した強い輝きを湛えている。

「私のせいで壊すことになっちゃって、ごめんなさい」

 一瞬なんのことを言ったのかと思ったが、すぐに前世でも使っていたあの杖のことだと悟った。風圧の棺フウバクカンでミンを拘束したのを最後に細かく砕け、自然に還るかのように風に運ばれていった。 

「大丈夫、壊れてないわ。長い長い務めを果たして眠っただけ……」

(お疲れさま。前世でも、今の私たちを守ってくれてありがとう)

「それで、ね……まだ、魔法……使うんだよね?」

「……そうね、薬を溶かし込んだ雨を降らせて灰を中和しないと」

「待つさね、アマネまた雨を降らせるんさ?!」

 割り込んできたラキの顔は険しく、ウタを背負っていなければ手が出そうなほどに焦りを滲ませていた。

「ラキ、あのときとは違うわ。ミラ……、先生もヒナタもいるから」

 幼いころに起きた孤児院の火災で、アマネは勢いの止まない炎を止めるために雨を呼んだ。そのせいで体の成長がほぼ止まった状態になってしまった。

 それは取り残されたラキを助けるための行動だったため、彼の心に重くのしかかっているのかもしれない。

「だから大丈夫。心配してくれて、ありがとう」

「……分かった、さね。ヒイロ、アマネになんかあったら承知しないさ」

「おう」

「……まったく、ラキのせいで話が逸れちゃったわ。ウタ、お待たせ」

 声をかけると目を丸くしていたウタははっとして、握った手を差し出してきた。

「か、勝手だって、押し付けだって分かってるの……気に食わないかもしれないけど、これ……」

 開かれた手の中にあったのは、一本のペンだった。青緑を基調としていて、先端に向かって金色で螺旋状の渦を巻いている。

 手に取ったアマネは、微かに宿る魔力に気づいた。

「これ、ペンじゃない……? もしかして……」

 アマネの魔力に反応したのか、先端が伸びはじめた。軽く魔力を込めながら先端が上になるよう持ち直し、手首を捻るようにして軽く振ると一瞬で倍の長さに伸びる。

 指揮棒のようになったそれは、アマネの魔力をしなやかに受け止め内包していた。

「あの杖、アマネちゃんには大きすぎる気がして……その……」

 確かにあの杖は前世で、十八歳という年相応の身長に合わせて作られたものだったため、今のアマネが持つには少し大きかった。理事長によって目の前に出されたときは驚きとかつての相棒という頼もしさが勝って、アマネ自身は杖の大きさが合っていないことはしかたないと気にしないようにしていた。

 それをウタは、修理を受け合った際に気にかけてくれたのだろう。修理だけでも手一杯なはずなのに、同時に新しい魔道具を作ってくれていのだ。

「ウタ……ほんとに、貴女って人は……!」

 ここまでしてくれる友人を、アマネは誇りに思った。そしてその想いに十分に応えたいと、胸中に炎が灯る。

「ありがとう。私、ウタの分まで頑張るから」

「……っ、うん」

 ウタは瞳を潤ませながらも頷く。

 一足先に病院へ向かった一同が退室するのを見送ったアマネは、この場に残ったヒイロとミラ、ヒナタを見やった。

「この薬を溶かした雨を、この場で降らせたい。力を貸して」

「ふぅ……まさか天気を操る事態になるとわねぇ」

 少し疲れたようにミラがこぼす。高火力の魔法を使って間もないし、アマネもかなり消耗している。複数の魔法で雨を降らせるためにも呼吸を合わせる必要がある。

 チャンスは一度しかないだろう。

「ミラ、先生……いけそうですか」

「あらあら、さっきまでのように呼び捨てでも構わないのよ? これからすることに関しては、先輩なんだから」

(ちょっ、この場にはヒイロがいるのに……!)

 前世のことをヒイロは知らないことを知らないのか、わざとなのか。とにかくその話はするなという意味を込めて睨みつけると、小さく笑われた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ