第百十七話
「こんなところにいたのね! って、なんなんですのこのありさまは!」
「アマネーやっと、会えたん……さ……」
開け放たれた扉から駆け込んできたのはアイカとラキだった。二人とも異様な光景にぎょっとしている。
(……まぁ、沢山の猫は倒れているし、みんなボロボロだし、ねぇ)
遠目に猫たちの様子を見やるが、少々傷を負っているものの気を失っているようで命に別状はなさそうだ。
振り返ったミラの眉間からしわが消える。
「ちょうどよかったわ。アイカさん、外に暴漢は?」
「あ、あらミラ先生……っと、外では動ける者で手分けして鎮圧しまして、現在異常はありませんわ」
「ご苦労さま。疲れているところ申し訳ないのだけれど、急患が一人いるの。病院まで護衛してもらえないかしら」
見たところ制服がよれよれで披露しているのが窺えるが、特に怪我はしていないようでほっとする。
最初はヒイロに頼もうとしていたが、アイカたちが護衛についてくれるのなら安心だ。おそらくアイカたちよりも、アマネの騎士であるヒイロがこの場にとどまった方がいいと判断したのだろう。
病院につれていくなら一緒にウタも連れて行ってもらった方がいいと判断しミラの言葉に付け足す。
「だったら一緒にウタも……っ」
言い終える前に膝から力が抜け、バランスを崩したアマネは慌てて床に手を着いた。
「ちょっ、大丈夫ですの? 魔力がほとんど感じられませんわよ」
「……うんまぁ…………大丈夫だと思う……」
確かに魔力はほとんど残ってない。手を差し伸べてくれたヒイロの力を借りて立ち上がったアマネは、礼を言いつつ息を整えた。
(気が緩みすぎよ。まだ街全体から灰の影響を取り除いていないのに)
これからほとんどない魔力を振り絞って雨を起こさなければいけない。倒れるのは雨を降らせてからだ。
顔を上げると、いつの間にか目の前まで来ていたアイカのジト目とかち合って思わずのけ反る。
「聞いておいてなんですが、顔色も悪いですし大丈夫じゃありませんわね。使い魔も引っ込めているようですし。また無茶をしたのでしょう?」
「じょ、状況が状況だったから……」
「まったく、仕方がありませんわね。私はこれから病院まで護衛しないといけませんし……ヒナタ」
呼ばれると同時に夕焼けのように赤い毛並みの猫が音もなく降り立った。満身創痍な光景を目の当たりにしても、ヒナタは表情一つ変えることなく枝分かれしている尾を一振りする。
「ヒナタを置いていきますわ。ヒナタ、アマネたちをサポートしてあげてちょうだい」
「はーい」
「えっと、アイカ? どうしてヒナタを置いていくのか、よく分からないのだけれど……」
アイカとラキが護衛していってくれるだけでも十分なのだが、戦闘もないと思われるのでクオンの代わりというわけでもないだろう。
「状況報告のために一度学校へ戻った際に、理事長にお会いしましたの。そのときに私の力が必要になるだろうからと言われまして」
だから暴動がひと段落着いたところでアマネたちを捜していたのだと、アイカは続けた。
「……ったく、あの人は」
ぼそりと聞こえた呟きに思わず見上げると、ミラが呆れているような苦い顔をしているような、なんともいえない表情をしていた。
(ミラと理事長……どこまで親密に関わっているのかしら)
強制的にアマネを自身の学校へ入学させた理事長と、前世のアマネに対して一物抱えるミラ。単なる教師の関係だけでなく、特に前世に関することでなにかしらの協力関係にあるのかもしれない。
(これが片付いたら問いただす必要があるわね。素直に話すとは思えないけれど)
「ウタちゃん、俺の背に乗っかるといいさ」
未だ座り込んでいるウタの前にラキがしゃがみ込み、背を向ける。
「え……でも……」
「遠慮しなくていいんですのよ。もっとラキをこき使ったって問題ありませんわ」
「そうね。無理しないでいいのよ? へとへとだろうがラキは快く運んでくれるわ」
「あんたら……騎士扱いが荒すぎるさね……」
「ふふ……じゃあ、お願いしようかな」
笑みを浮かべたウタは、ゆっくりとラキの首元に腕を回した。




