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陽の騎士と天の魔女  作者: 風鈴
第三章「薬剤師編」
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第百二話

「ウタのことは心配だけれど、気負いすぎないで。きっとすぐに見つかるわ」

「うおぉぉぉーい!」

 耳に障る甲高い声が近づいてきた。ユカリと一緒にいた分身と同じサイズのチウだ。砂煙を上げながら一同の足元で止まった分身は、びしっと図書館を指さした。

「ウタという娘は、ここにいるぞ!」

「えっ、ウタがここに……? 安静にしていないといけないのに、まだ灰の影響を受けていたのかしら」

 灰の効力に対抗できる薬とはいえ、目覚めてからの意思確認を取る暇がなかったため、実際は不十分だったのかもしれない。

「でっ、でも姿を消したのはつい先程ですよ? 走ってきた私よりも先に来られるのでしょうか」

「分からない。でも、チウはここにいるって」

「我は一度記憶した魔力ならば、感知できる限りどこまででも追いかけるぞ。無駄なく確実にな!」

 自信満々に胸を張る様子からして間違いはないのだろう。この事件の原因となるものが灰であることが早々に分かったのも、本職の魔女たちが気づかなかった収集品として持ち帰ってくれたからだ。その探知能力に疑いの余地はない。満身創痍なウタが先に来れた方法は不明だが、安否が心配だった。

「ねぇチウ。ウタが図書館のどの辺りにいるか分かるかしら。先に保護できるのが理想なのだけれど」

「う……すまぬ、どの部屋かまでは追えなんだ」

 一転してチウは肩を落とした。

「落ち込む時間も惜しいわ。潜入できれば位置が特定できるはずだ」

「そう。あとはどうやって中に入るかよね」

 アマネの言葉を受けて足早に正面玄関へ向かったヒイロが、少しして振り返ると小さく首を振った。

「やっぱり施錠されてるぞ」

「ならば我の出番だな」

「え、えっと、チウさんの素早さで裏口でも探すのですか?」

 状況が呑み込めずに戸惑うユカリに、アマネは見ていてとチウを見下ろす。

「お願いしていいかしら」

「うむ、任された!」

 大きく頷いたチウは玄関へ向かうと、きっちり閉じられているガラス製の扉の前に立った。そして扉と扉の境目に全身を押し付けた。

「ぬ、うぬぬぬぬぬ……ふんっ」

 ジャボンッという音を立て、チウの体はほんのわずかな隙間を通り抜けた。形を変えたことにより不安定になった体は、全身を震わせると元のネズミの形に戻る。

 そしてつまみを回すタイプの施錠だったおかげもあり、一分も経たずに玄関が開かれた。

(形を自在に変えられる水だからこそのやり方……私ももっと風を使いこなせたなら)

 隙間から潜入することは風でもできているが、鍵を開けるなど細かいことはできない。なんでもできるようになりたいが不可能なのも知っている。それでもできないことが悔しく思えてしまう。

 前世では細かい作業系の魔法よりも、戦いで役に魔法ばかり練習していた。これが裏目に出てしまったのだろう。今世では作業系の魔法も磨いていこうと決意する。

《悪いなアマネ。オレっちがやれたらよかったんだが》

《ううん、これは私の我がままだから気にしないで。この先一波乱ありそうだから、そのときはよろしく》

 心境を感じ取ってそっと話しかけてきてくれたクオンをひと撫でする。その傍らでは、ユカリが目を輝かせてチウを見つめていた。

「すごい、すごいです……! 使い魔さんっていろんなことができるんですね!!」

「適材適所ってやつだな。今回はチウがいてくれて助かったぜ」

「ふふん、存分に褒めたたえてくれて構わんぞ。事が終わってからな!」

 さっさと行くぞと言わんばかりにチウは踵を返す。慌ててヒイロが追いかけ、その後にアマネたちも続いた。

「封鎖された扉は三階左側にあるわ」

 一同は一気に階段を駆け上がり、三階に辿り着いた。日頃から訓練をしているヒイロやアマネはともかく、ユカリもほとんど息を切らしていなかったので少し驚いた。そして自分の足でやってきて気づいたが、封鎖された扉があるのは星座や天体関連の書籍が置かれたフロアだった。

 フウソウで見つけたときの通り、一ゕ所だけ後で置いたかのように横幅の合っていない本棚があった。

「ここだな。入るにしても、本を出して棚を動かさないと……」

 手分けして棚から書籍を抜き出し、近くの長机に置かせてもらう。半分ほど移動させたところで、ユカリが小さく挙手をした。

「あ、それくらいで充分だと思います」

「え、でもまだ半分も残ってるわ。さすがにまだ重いと思うのだけれど」

「大丈夫ですよ。あ、でも半回転させたときに、念のため本が落ちないかだけ、見張っていてくれますか?」

 まさか一人でと戸惑っている間にユカリは本棚の横に立ち、淵をつかんだ。

「お、おい、いくらなんでも一人じゃ」

「せーのっ」

 小さな掛け声と同時に本棚は斜めに持ち上げられ、反対側の角を軸にして半回転した。隠されていた木製の扉が姿を現す。

「ふぅ…………これくらいで、どうでしょうか」

「あ、ありがとうユカリさん……力持ち、なんですね」

「ええ、薬剤師科で自然と鍛えさせられますから」

 にっこりと笑うユカリに疲れた様子はない。試しにアマネも淵を持って力を入れてみたが、びくともしなかった。

 本棚で封鎖していたからか、屋根裏部屋に続く扉にカギは掛かっていなかった。ドアノブも薄い板状のもので、へこんだ部分に指をかけて手前に引けばすんなりと開いた。

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