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陽の騎士と天の魔女  作者: 風鈴
第一章「学校転入編」
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第一話

 早朝にもかかわらず、にぎやかな商店街。焼きたてのパンや魅力的な呼び込みが行きゆく人を誘う。そんな中を空色の髪をした少女が横切っていった。遅刻しそうな時間でもないのに走るのは目立つ。しかしはやる気持ちが歩調を早くさせた。

 そのうち周囲をゆったりと歩く人は同じ年頃の少年少女ばかりになり、みなよく似た服を着ていた。白を基調としたシャツに、赤いネクタイ。背中側の腰で揺れるリボン。スカートやズボンの色は薄灰色、深緑、紺と三種類あり、分かりやすく学科別になっているという。

 同じ学科同士で固まっているかといえばそうでもないようだ。

一人で歩く者もいれば、何人かと話しながら先を行く。みんな同じ方向へ進んでいた。

 流れに乗って追い越し、追い越されながら進んだ石レンガ造りの通りの先に、青々と茂る生垣が見えてきた。その向こうには三階立ての白亜の建物が生徒たちを迎えていた。

 目的地、ランシン専門学校。国家資格『魔女』を取得するため、またはそのパートナーの騎士となるため、他にもさまざまな夢を持つ若者が己を磨くために門をくぐる。

 門の手前で立ち止まり、少女は軽く上がった息を整えながら校舎を見据える。

(ここで、間違いない。クオンの気配は確かにする)

 この学校のどこかで捕らわれている、クオン。ほんの一時間前に大丈夫だと言っていたけれど。

 今朝、制服と教科書が届けられたときにクオンは連れて行かれた。いや、ついて行かされた。自分自身が学校に通うことを選んだために。

(弱気になるな。もう二度と会えないわけじゃないんだし、決めたんだから)

 いざ門をくぐろうと歩き出した瞬間、目の前に長身の男性がずいっと立ちはだかった。

「君がアマネくんだね?」

「……はい、そうですが」

 見た目は若いが白シャツに淡いピンクのネクタイだから生徒ではないようだ。黄色がかった薄茶色の短髪が風にそよぎ、前髪の隙間から見える瞳は赤い。

(ううん、よく見るとカラーコンタクトしてるから、本当は違う色なのね)

 魔力の保持量と瞳の色は比例する。はじまりは黒、そこから茶、赤、橙と上がっていき金へ近いほど、生まれながらに持っている量が多い。本当の色を隠すのは、多いことを知られたくないからか、少ないがゆえに侮られたくないためか。

(この人、誰かに似ている気がするのだけれど)

 誰かの面影を感じるのだが、明確な答えが出てこない。

 やけに硬い表情で見下ろされているが、アマネは動じず次の言葉を待った。

「よかったぁ! 間違ってたらどうしようかと焦っちゃいましたよ」

 男性は、あははと後頭部に手を置き朗らかに笑う。

「違ったら謝ればいいんじゃないでしょうか」

「そうなんですけどね。あ、よく似合っていますが、制服のサイズは大丈夫ですか? きつかったりしませんか?」

「先生、ですよね? その言い方、セクハラになりかねませんよ」

「あっ、失礼しました。ああもう気をつけないとまた……」

 語尾は呟きに消え、咳払いをする。気を取り直した男性は再び笑顔を向けた。

「えーっと、僕は今日から君が通う魔女・騎士科の担任、キシナです。よろしく。この学科はクラスがふたつあるので、お間違えのないよう。というわけでこの学校、意外と広くて迷いやすいので、教室まで案内しますね」

 キシナの後をついて運動場を横切り、校舎中央にある玄関から校舎内に入る。生徒用のロッカーが立ち並び、登校した生徒たちが必要なもの、今は使わない教材などの出し入れをしていた。

入ってみて分かったが、校舎はコの字型をしているようだ。ロッカーの奥にある廊下の壁はガラス張りで、その向こうは木々が生い茂る中庭になっている。

アマネの視線の先に気が付いたキシナは気になりますか? とアマネに一声かけた。

「あの中庭ではよくお昼時に食べている子を見かけますね。あとは日向ぼっこにもちょうどよくて……じゃなくて」

 脱線しかけたのに気づき、キシナは慌てて端のロッカーを指さした。

「このロッカーを使ってください。カギも渡しておきますね。主に常に持ち歩かないカバンや教科書、道具をしまっておくスペースになります。それと」

 キシナはズボンのポケットから赤い石がついたリングを取り出し、手のひらに乗せる。

「自分の魔法具を持っている生徒は、校内ではこの制御装置をつけなくてはいけません。事故やケンカに使われないように。アマネくんはなにか持っていますか?」

「ええまぁ、一応、杖を」

 カバンから一本の杖を取り出してみせた。指揮棒のように短く、三つに裂けている先端に無色透明の石がはめ込まれた初心者用の杖だ。一般的には魔法の素質を図るために十にも満たない子供が持たされ、安価なので簡単に手に入る。

 それ故に、十五にもなって持っている者は普通いない。十五歳は成人と認められ、魔女志望なら誕生日に両親から自分専用の杖を与えられるからだ。

「ずいぶんと使い込まれていますね。いい杖です」

(……今日おろしたばかりなんですけど)

 使い込まれたとキシナが勘違いしたのは魔法についての授業もあるだろうからと、購入した際、試しに魔力を流してみたからかもしれない。少ししか魔力を流していなかったつもりが、ずっと魔法具に触っていなかったせいもあり、思っていた以上の魔力を流していてしまったらしい。おかげで杖は一気に消耗しぼろくなってしまった杖は、長年愛用しているかのような雰囲気を持ってしまった。おそらく今手にしている杖はあと一、二回魔法を使用したら壊れてしまうだろう。

一般的に販売されている既製品の魔法具とは相性があまりよくないらしく、すぐ壊れてしまうので同じものを一ダース分、まとめて買ってあったりする。

「なぜこの初心者用魔法杖のままなのか聞かないんですか?」

「大切に使われているものに、なぜとぶしつけな問いかけはしませんよ。制御装置は魔法具のどこにつけるか自由なので、好きなところにどうぞ」

 言葉に裏は感じられず、キシナは本心から言っているようだった。馬鹿にされると思っていたので内心驚きつつ、受け取った制御装置を裂け目の下につける。

「では、教室へ行きましょう。一年生は三階です。みんな、アマネくんが来るのを待っていますよ」

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