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謝ると思ったら大間違いですわよ!

作者: 菜々子

 私、オディーリア・フィラルディア公爵令嬢は、幼い頃から決められた道を歩いてきました。

 生まれてすぐに第二王子との婚約を決められ、妃となるべく教育を受けてきたせいで、普通の令嬢の甘やかされた楽しい思い出なぞ無いに等しく、乙女が夢見る恋愛小説も、王子という婚約者がいる中では不謹慎として咎められます。

 家では両親から王子の機嫌を損ねないようにときつく言われ、王子との面会も緊張しきりでした。

 それでも私は、周りから王子妃としてふさわしくないと言われないように、王子に少しでも好かれるよう努力してきました。


 確かに、王子に対する感情は恋愛とは少し違っていたかもしれません。

 ですが私が会うことが許されていた同じ年頃の男の子は王子しかいなかったので、繋がりや情は一般的な令嬢たちの恋愛よりも強いと思っていました。

 王子には優しく魅力的な女性だと思ってもらえるよう、己の中の理想の女性像を追及していましたし、実際王子の感触もそれ程悪くは無かったはずです。


 なのに、なのに!

 どうしてぽっと出てきた男爵令嬢に王子の心を持って行かれなければならないのですか!

 『本当にオディーリアさんを愛しているんですか?』なんて本人の目の前で言うことが、王子の言う清らかでひたむきな優しい女性のやることですか。

 王子も王子です。

 彼女があちらこちらで学園の人気者に色目を使っていることにも気づきもしないで、何他の男どもと取り合いなんか始めているんですか。

 天然なのかわざとなのか知りませんが、どちらにしろ不誠実で問題のある行動ではありませんか。

 なのに、なのに!

 私が彼女に忠告をしただけで翌日には『オディーリア嬢がメルル嬢に宣戦布告をした』と学園の噂になっているし、あの女は涙を浮かべて取り巻きの男たちに訴え私が悪者になっている。

 人の婚約者に色目を使っていることを注意することが、そんなに悪いことですか!

 重ねて咎めても状況は悪くなるばかり。

 私も焦ってついわざと彼女にぶつかったり睨んだり悪口を言ったりしていました。

 取り返しがつかないことになるとは露も思わず。

 それに気づいたのは、メルル嬢が階段から落ちたことが勝手に私のせいになっていたと知ったときでした。

 私、流石にそこまではやっていませんわ。



 ああ、はっきりと認めますわ。

 私は負けたのだと。

 あのとき、忠告した時点で、私は負けていたのです。

 王子の婚約者という私の唯一の価値を失うまいと、私は手を打ち間違えたのです。

 でもだからと言って!

 女の戦いに男を使うのは卑怯ではなくって?

 …いえ、もう。何も言いません。

 だってもう、遅いのですから。


 たった今この場で王子によって婚約破棄が宣言され、私のやってきた悪事が明らかにされてしまったんですもの。

 たとえ今、この笑えない状況が前世でやったことのある『真実の愛を探して』という学園モノ乙女ゲームと全く同じだと思い出したとしても、もうどうにもならないのです。

 王子の影で震えながらにやけているヒロインを睨み付けてやりたいのをぐっと耐えて、私は宣言を受け入れる意を表してその場を後にしました。



 え?言い残すことはないか、ですか?

 そうですね…



 逆ハー狙いのヒロイン絶対許さない。



 でしょうか。ふふふ。






♢♢♢♢♢♢♢♢







 断罪イベントが終わると私は実家に呼び戻されました。

 両親からはそれはもう詰られました。

 王子から婚約破棄されるなんて不名誉中の不名誉。

 私は恐らく一生結婚出来ないでしょうし、父の出世も遠退いたというもの。

 ああ、ですが攻略対象でもある私の兄がまだおりますので、出世の望みはまだ絶たれていませんね。

「二度とこのフィラルディアの家に帰って来るな!!!」

 目を伏せて両親の罵詈雑言や勘当宣言を聞いていた私は、己に出来る最上の礼をして、荷物をまとめ家を出ました。


 はっきり言いましょう。

 こんな家、こっちから捨ててやるわチクショー!ですわ。




 家を出てどこかに宛てがあるのかというと、実はあったりします。

 この世界には魔法という夢のような力が存在します。

 貴族の証とも言い換えられる力ですが、私は魔力が強くまた勉強熱心でしたので、魔法の研究で推薦を頂いていたのです。

 王子に婚約破棄され家も勘当されたような女ですが、王都の研究機関は一種の治外法権と言いますか、能力以外はあまり重視されませんので恐らく心配はいりません。



 どうしてでしょう。

 今までの努力も地位も何もかも失ったというのに、私の心はとても晴れやかです。

 これからはただのオディーリアとして一から積み上げて行けばいいと、そんな気持ちです。

 あんなに執着していた王子の妃という立場も今となってはどうでもいいです。

 自分のために生きることが出来る。それがこんなに嬉しいなんて。

 町を歩く私の目に涙が浮かんでいたとしても、もう誰にも咎められることがないのです。






♢♢♢♢♢♢♢♢






 王都の研究機関に無事に受け入れられて半年。

 寝る間も削って研究に勤しむ私を、同僚たちもようやく認めてくれ始めていました。

 私も憑き物が落ちたように心が穏やかになり、皮肉にも当初目指していた綺麗で優しい理想の女性像に近づいてきているように思います。


「オディーリア。少し来てくれないか」


 室長に呼ばれて別室へと向かうと、中にはどこかで見たことのある男性が。

 黒髪に深い紫の瞳。彫りが深い顔立ちに薄く寡黙そうな唇。

 元婚約者の王子とはタイプの違った、けれど上とも下とも付かない美青年です。

 これほどの美形です。もしかしたら攻略対象かもしれないと記憶を辿りますが、それらしき人は思いつきません。


「こちらは王都騎士団のオルファンさんだ。お前にはオルファンさんと共に召喚された聖女様の一行に加わって欲しい」


 そう、今思い出しました。

 この方、オルファン・ダーデスティア様は、RPGモノ乙女ゲーム『AWESOME~最後の光~』に出てくる隠しキャラではありませんか。


 まさかこの世界、二つの乙女ゲームが重なりあっているのでしょうか。


 背筋を冷たいものが流れていく感覚が。

 ……申し訳ありませんが、室長。そのお話は辞退させて下さい!









前門のRPG乙女ゲーム後門の学園乙女ゲーム、オディーリアの明日はどっちだ!?

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