王I。1 きっかけ。
戦争のきっかけは大したことではなかったと思う。
ただの時候のあいさつのはずの使者が魔王の怒りを買ったのだとの報告だった。
何度も詫びを入れたのだが魔王の怒りはおさまらなかった。
国力も軍事力もさほどの差はないと思っていたのだが
結果としては負け戦に傾いている。
王のいるこの街の近くにまで砦ができてしまった。
最近は砦のまわりにかなりの数の拠点まで築かれていた。
家族は内密のうちに避難させた。
万が一にも王家を潰すわけにはいかないからだ。
私はここから逃げるつもりはない。
兵士も貴族も一般国民も頑張ってくれているのだから。
ベアーズが勇者を召喚したいと言ってきた。
今更そんなことをしても手遅れのようにも思えたが
忠心の厚いベアーズの気持ちを無下にはできなかった。
異世界人の勇者を呼んだ記録は山ほどあるのだが
どれもここまで切羽詰まった状況ではなかったはずだ。
はっきりいってこの状況でもよそ者に頼るというのはプライドがチクチクした。
勇者ひとりに何ができるというのか。
呼び出された勇者は予想の斜め上あるいは斜め下だった。
呼び出された直後に飛竜と魔族を撃破・捕縛。
砦の周囲の拠点を箒で掃き出すかのように一掃。
砦も難なく落してしまった。
しかも攻城兵器は自前で作らせたらしい。
異世界から来て一文無しのはずなのにどんな手品なんだ・・
魔術師からの報告では魔法は使えるらしいがコントロールができないとかで
実戦に使ったら味方が危険かもしれないという。
なんじゃそりゃ!? 。
呪いで余命があと一年だと聞いて解呪のできる呪術師を内密に探すよう手配した。
こちらの勝手で呼び出して余命幾何もない若者を戦場でこき使っている
というのは居心地の悪いものだ。
勇者がいても勝てないかもしれないがただでは負けない戦にしたい。
実戦はもうはるか昔のことだが王なぞ旗とおなじでそこに存在することに
意義があるはずだ。
それこそ旗と同じで倒れるまでだが・・。
王様、覚悟を決めちゃってますね。
それにしても使者さん、どーやって魔王さまを
怒らせたんでしょうねえ。
主戦場は別の場所でそちらはちゃんと
将軍さん達が頑張ってます。
一進一退、多少押され気味。
脅しと動揺を誘うためにお試しで造ってみた
というのがアノ砦だったりします。
動揺という点では成功してたみたいです。




