魔王。2 遊び。
停戦交渉の使者が来た。
宰相だという男は特に変わったところもない。
護衛だという騎士はけっこうデキる雰囲気だ。
勇者は・・・まるで新人の兵士にすら見える。
思わずマジマジと見てしまう。
確かにコイツが勇者だ・・・しかし・・
もっと威圧感とか迫力とかあってもよさそうなものだが。
だが、確かにコイツが勇者だ。
覚えがある・・・と感じる。
なぜだ? 。
どうでもいい質問をいろいろしてみる。
召喚される前にいた世界のこと、兵站基地の占拠の手段、
捕虜にしたという将軍の様子、野営地・・・
話すごとに確信が募っていく。
確かにコイツが勇者だ。
心が浮き立っていくのが分かる。
コイツだコイツだコイツだコイツだコイツだ・・・
勇者が城を見物したいと言う。
側近を案内に付けてやった。
宰相その他もゾロゾロ付いて行ったようだ。
不意に自分が2人いるような感じがした。
勇者を殺したい自分。
勇者で遊びたい自分。
遊びたい・・・? 。
遊びなど王になってから無かった気がする。
父王のような王になるべく日々を過ごしてきたのだ。
側近や大臣たち、貴族である領主たちすべてが父王のような自分を
期待しているのが分かっていた。
王であること以外に心を奪われるなど考えもしなかった。
アノ勇者は強さが見えない。
剣は、魔法は、どうなんだろう?。
騎士は読める。
だが・・アノ勇者は・・読めない。
なんというかニュートラルな状態でそこにポンと置いてあるような印象を受ける。
つついてみたい、転がしてみたい、蹴とばしたら、魔法をかけたら、
剣で切りかかったら、弓で射ってみたら殴りかかったら・・・
・・・・どういう反応をするだろう・・・。
これは殺意だろうか。
それとも遊びたいのだろうか。
だめだ! 。
私は王であることが第一だ。
勇者と遊んでいようなどと考えてはいけない。
なのに・・・
アノ勇者を殺せばこんな堂々巡りなことに囚われなくて済むのだろうか。
側近が戻ってきて勇者の様子を報告する。
なんでお前は上機嫌なんだ? 。
いつでも冷静沈着が売りなのではなかったのか? 。
<勇者と戦うとコワレてしまう>と森の向こうに造った砦の責任者は言ったそうだが
戦ってもいないのにコワレたんじゃあないだろうな?
次の日に停戦は成立した。
慰労のためにお茶を庭に用意させる。
父王が趣味で丹精していた自慢の庭。
使者の一行の一番目立たなかった男が叫んだ。
それはアノ時候の使者が口にした言葉。
目覚めの呪文。
目覚めたのは前世の記憶と人格だった。
違う! 。
これは私ではない! 。
これが私のはずがない! 。
抑えようとしたソイツに抑え込まれ魔力が爆発した! 。
庭は見る影も無くなってしまった。
前世の魔王は自分にも呪術をかけてたんですねえ。
でもソレは発芽しなかったんです。
拘束空間(地獄)での経験のせいかもしれません。
目覚めの呪文も時候の使者では不完全なものでした。
さて完全にめざめちゃった魔王さま。
前世と今現在の自分とのギャップをどうしましょう? 。




