不思議な女性
ギリギリオーバーする投稿になってしまい申し訳ありません!
それと勝手ながら、今週の「弱虫勇者の覚醒」はお休みとさせていただきます
書く時間がありませんでした、すみません!
教室に入り、教壇に立った先生と思しき人物は視線を上げると、ここにはいないはずのフェリスがいることに疑問を感じ、首を傾けていた。
「すみません、先生。 しばらく見ていなかった妹の姿が見えたので、嬉しくて会いに来てしまったのです」
「妹さん? ああ、成程そうでしたか。 ブルーノートさん、確かに妹さんがご入学されたのは喜ばしいことですし、素晴らしいことです。 ですが、あなたに此方でやることがあるでしょう? 学園長が探してましたよ?」
「あ、いっけない忘れちゃってました。 すぐに行きますね」
「はい、そうしてあげて下さい。 それで? 床に倒れている君は……どうしたのかな? 怪我でもしたのかい?」
「いえ、大丈夫です。 ちょっと足を滑らせただけなので」
心配そうに見てくる先生に問題ないことを伝え、立ち上がろうとした所でフェリスが手を差し伸べてきた。
断る理由も無かったので、手を掴み返す。
グッと予想以上の力で引っ張られ、驚きながらもどうにか立ち上がる。
だが、勢いがつきすぎてせいで体が前のめりになる。
アウィンが手をついて踏ん張ろうとしたが、その前にふわりとフェリスが抱き留めた。
アウィンはすぐに離れようとしたが、フェリスがそれを許さない。
そのままフェリスはアウィンの耳元に口を近付けた。
「私がいない間、君がエストちゃんを守ってあげてね。 お姉さんと約束」
「っ!!? ……ああ、分かった。 約束しよう」
耳元で真剣な声音で、フェリスはぼそりと呟いた。
それに驚きながらも、力強く返事をするアウィン。
それを聞いたフェリスは満足げに微笑む。
「うん、宜しい。 じゃあ、これはお姉さんからのご褒美」
「は? 一体何―――」
ちゅっと、フェリスはアウィンの唇にそっと触れるだけに口付けをした。
幸い耳元からの引き際だったお陰で、アウィン以外は気付いていない。
それでも唯一アウィンだけは突然の行動に驚き、固まってしまっていた。
驚きで固まりながら、視線を向けてくるアウィンに笑顔を見せると、フェリスはくるりと反転した。
「じゃね~エストちゃん、それと……アウィン君?」
さり際に二人に手を振りながら、フェリスは教室から出ていった。
しばし教室に静寂が生まれる。
「はいはい、皆さん。 それではこれからの説明をするので、席に着いてください」
パンパンと手を叩き、男性教師が着席を促す。
我に返った者が、次々と席に座っていく。
「……僕たちも座ろっか」
「ああ、そうだな」
それに続くようにエストとアウィンも席に着く。
全員が席に座ったのを確認すると、男性教師は話し始めた。
「はい、それでは改めまして私が皆さんの担任になりました、オット・コゼルです。 宜しく。 では、明日からの予定ですが――――――」
自己紹介を終えたオットが明日の説明を開始するが、約二名には全く聞こえていなかった。
(お姉ちゃんが名前で呼んだ? しかも男の子を? そんな事今まで一度も……)
(結局何だったんだ? 思わず返事しちまったけど、そもそも何で守る必要がある? 仮に守らないといけないとしても、何で俺に頼む? だ~くそっ! 訳わかんねぇ!? でも、それより訳分かんねぇのが……)
「何であいつ……最後にあんな悲しそうな顔してたんだ……」
「ん? 何か質問でも、ゲニウスくん?」
「いえ、すみません何でもないです。 続けてください」
「? そうですか? では、続きを……え~っとそれでですね―――――――」
アウィンの呟きに反応しったオットだったが、首を横に振ったアウィンにそれ以上何かを言うこと無く説明に戻った。
オットが説明を再開したが、やはりアウィンの耳には聞こえていなかった。
結局アウィンはそのままオットの説明が終わるまで、ずっとフェリスのさり際の悲しそうで、寂しそうな、無理矢理笑っているような何処か作り物めいた笑顔について考えていたのだった。
自身の横で、漏らした呟きを聞き取っていた人物が口元を歪めているとも知らずに……
「え~それでは本日の連絡事項は以上となります。 各自午後からは自由にしてくださって結構ですので、では私はこれで」
オットは全ての連絡事項を伝え終わると、一度手を叩き頭を下げ、そそくさと教室から立ち去っていった。
オットがいなくなって少しすると、教室は喧騒に包まれる。
大体皆話しているのは、午後からの予定。
エストやアカツキも例に漏れず話し合いをしていた。
「なあ、どうせだし学食行かね?」
「ああ、いいねそれ! ちょうどいい時間だし、まずはお昼食べてからにしよっか、ねえアウィンも一緒に行かない?」
アカツキとに会話を終え、アウィンにも誘いを掛けるエスト。
二人は丁度アウィンを挟む形で話していたので、会話内容は完全に聞こえていた。
アウィンはしばし熟考すると、首を横に振った。
「いや、悪い。 ちょっと用事あるから、俺もう行くわ。 飯は又今度誘ってくれ」
「そう……? まあ、用事があるならしょうがないか……あ、所でその用事って、」
「それじゃ、又明日!」
「な……に……」
エストが言い終わる前に、アウィンはそそくさと走り去ってしまった。
あまりにも早い動きに、二人共呆然としてしまう。
エストに至っては先程の姉の事で話をしたかったのに、その事すら頭から消え去ってしまっていた。
アウィンに向けて伸ばされたまま空中に固定されている腕が、何処か寂しげだ。
「……学食、行くか」
「……うん……」
この時、釈然としない気持ちを抱えたまま席を立った二人の背中には、不思議と哀愁が漂っているように見えたという。
エストとアカツキの二人が入学早々疲れを感じていた一方その頃、そんな事など露知らずある場所に向かったアウィン。
そのある場所とは、
「お、着いた着いた。 さてと、あの人いるかね? いやまあ、いてくんないと困るけど」
学園長室であった。
通常なら誰も立ち寄らない場所に、今日入ったばかりの新入生が立っているのは違和感があった。
ここに来る途中数々の人間から、訝しげな目を向けられていたのが何よりの証拠だ。
流石のアウィンも緊張しているのか、深呼吸をして自分を落ち着けると、コンコンと控えめにノックした。
「……? まさか誰もいないのか? いやでも……」
何の返事も無いので、誰もいないかと考えるアウィン。
しかしアウィンは確認の為と、先程より少し強めに扉を叩く。
すると、
「は~い、今あけるよ~」
「おい、私の許可無く勝手に開けるな!」
「ちょっとまっててね~」
「人の話を聞け!」
扉越しに間延びした女性の声と、苛立たしげな女性の声が聞こえてきた。
会話を聞く限り、返事をした女性はもう一人の女性の言うことを全く聞く気が無いようだ。
それに対してアウィンは懐かしさと、相変わらずな二人の関係性に思わず笑いが込み上げてくる。
そうこうしている間に、ドアノブが回り、がチャリと音を起てながら扉が開いた。
「はいはい、どちら様~? あれ、君は~」
「どうもお久しぶりです、リベルテさん。 アウィン・ゲニウスです」
扉を開けたのは、緑の髪と薄緑色のくりんとした瞳の不思議な雰囲気を纏った女性。
アウィンはその女性……リベルテに対して恭しく礼をする。
リベルテはきょとんとした顔のまま、瞳をパチパチと瞬きさせると、人差し指を顎に添え、目の前の人物が誰か思い出す為か視線を彷徨わせる。
「え~っと、確か……ああ~」
「思い出しましたか!」
「……誰だっけ、君?」
頭に疑問符を浮かべるリベルテ。
期待を裏切られて項垂れるアウィン。
「何をしてるんだお前たちは……」
そんな二人のやり取りを扉越しに聞いていた女性は、一人呆れて、溜め息をつくのだった。
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