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オーバーラップに応募するために、十万文字書き上げるのが目標です

宜しかったら読んでみてください

 これは全てを守ると誓った少年の悲しい記憶……。


「畜生……! 守れなかった……守るって約束したのに……」


 悲しみ、嘆く少年の眼下に広がるのは、赤々と燃える大地と、崩壊し、瓦礫と化してしまっている何かの建物であった物。

 そして……


「皆……皆……、死んじまったっ……!」


 おびただしい数の死体。

 どの死体も少年と同年代であり、誰もがかつては少年と同じ学び舎に通い、時に笑い、時に悲しみ、時に争い、時に対立し、友情を育んだ大切な、守るべき仲間たち……

 それが今は所々焼け爛れ、地面に打ち捨てられていた。

 中には頭部が無い者、四肢が欠損している者、服だけになってしまい体が消え去ってしまっている者もいた。

 少年が腕に抱えているかつて自身の半身であった妹でさえ、例に漏れず、兄の腕の中で死に絶えていた。

 全身が焼け爛れ、かつての愛らしくも美しかった美貌は見る影もない。

 そこに生きている者はおらず、唯一の生存者は少年のみ。


 少年の体もボロボロであり、漆黒の鎧は砕け、地面に散乱し、白銀の盾は叩き割れていた。

 片腕片足はちぎられ、地面に転がり、血が止めど無く溢れ出し、片目は潰されたのか、血の涙を流していた。

 誰が見ても、満身創痍で動くことすら出来ない。

 ただただ泣き叫び、妹であった者を腕に抱えている。

 妹を、仲間を守れなかった悔しさから涙を流し、歯を食いしばり、拳を固く握り締める。

 かつて誓った約束を守れなかった事を、又しても目の前で誰かが死ぬのを止められなかったことを、誰も生きていない荒野で、一人後悔し続ける。


【悔しいか……? 仲間を殺されたことが、仲間を守れなかったことが、そんなにも悲しいか……?】


 突然誰もいない筈の荒野に誰かの声が空から降り注ぐ。

 泣き叫ぶ少年の目の前に現れたのは、黒いモヤに包まれながら、ノイズのような物が走る『何か』……

 そこにいるはずなのに、どんな姿形をしているのかすら分からない。

 生物なのかすらどうかも分からない不気味な存在。

 少年の耳に聞こえてくる声。

 認識出来ているはずだが、何故かどんな声かも分からない。

 全てが分からない『何か』に、少年は視線を逸らすこと無く、残った腕で地面を這いずりながら、ジリジリとにじみ寄る。


「ああ、悲しいさ、悔しいさ……あいつは……あいつだけは絶対に、許さねぇ……っ」

【そうか……許さないのか……】


 少年の脳裏を過るのは、大切な者たちを、躊躇無く殺し尽くし、一瞬にして大地を滅ぼし、忽然と姿を消した憎っき存在。

 体があるのか、そこにいるのかも分からない『何か』に近寄りながら、少年は憎しみの籠った目で見ながら、怨嗟の声を上げる。

 自身の無力を嘆きながら、友を守れなかった事を後悔しながら、少年は虚空に手を伸ばし、まるで縋る様に『何か』を掴もうとする。

 それを見た『何か』のノイズが左右にブレる。

 少年にはそれが不思議と自分を笑ったようにも、偶々ブレただけにも見えた。

『何か』は少年が伸ばした手に合わせるように、自身も腕のような者を伸ばす。

 少年が近付くたび、手招きをするようにノイズが揺れる。


【やり直したいか……? もう一度初めから……】

「出来るもんなら、やり直したいよ……もう一度皆と友達になって、それで……」


 今度こそ俺が皆を守るんだ……っ!


 少年の声が何も無い荒野に響き渡る。

 風が吹き荒れ、土が舞い上がり、炎が揺らめく。

 涙で顔を汚しながら、必死に叶わぬ願いを望む少年に『何か』は今度こそ笑った。

 姿形が変わった訳ではない。

 変わっていないはずなのに、何故か少年は『何か』が笑ったと確信出来た。


【ならば私の手を取れ。 お前にやり直す機会を与えよう】

「…………」


『何か』の言葉に戸惑い、押し黙っている少年に不自然にノイズが消えた手が差し伸べられる。

 すると、その手の平の上に小さな青いの宝石のようなものが現れた。

 ぼんやりとした輝きを放つそれは、なんとも不思議で、幻想的で、蠱惑的だった。


「綺麗だ……」


 少年は先程迄渦巻いていた感情を消し去り、ただただ淡く輝く宝石に魅了されてしまっていた。


【もし、やり直したいなら、これに触れるがいい。 そうすればお前はやり直せる。 誰も傷つく事のない未来を掴み取る機会を手に入れられる】


 少年は、ごくりと唾液を飲み込んだ。


「本当に……やり直せるのか……? もう一度皆を守れるのか……?」

【ああ、お前が守れるかはお前次第だが、やり直せるのは保証しよう】 


『何か』が、言う。 さそうように。 いざなうように。

 少年は、ゆっくりと手を伸ばし、それに触れた。 ―――――――否、触れて、しまった。


「……っ!!? ぐがあああぁぁっ!!!!?」


 瞬間、少年が触れた宝石が、手の平に溶け入ったかに思うと、全身が火に焼けるように熱くなるのを感じた。

 実際に全身から青色の炎が上がり、残っていた少年の体を燃やしていく。


「……っっ!!? があぁあ……?」


 全身を覆う熱の痛みに顔を歪める。 だが―――――それだけでは終わらない。

 少年から巻き起こる炎は、その場にいる全てを飲み込み、炭となり、空気に溶けていく。

 大地すらも燃やす炎の中で、『何か』は何も起きていないかのように、少年を見下ろす。


【さあ、行くんだ。 もう一度やり直す為に……二度と後悔しない為に……】


『何か』が言うと、少年を燃やす炎は更に勢いを増し、遂に少年の全身を呑み込み、燃やし尽くした。

 そして、『何か』はそれを見た後、空を見上げ、そして


【待って……ぞ…… か……お前……もう……辿り……事……。】 


 途切れ途切れに何事か呟くと、空気に溶け込むように、霧が晴れるように、消え失せた。

『何か』の呟きは誰に聞かれる事も無く、残ったのは焼け爛れた大地と、熱で融けながら、鈍く光る何かの破片だけだった。





「~! 起きろ、~!」

「ん、んん?」


 微睡みの中、何かに体を揺すられているように感じ、少しだが意識を闇の中から引き上げていく。

 微睡んでいた意識が徐々に覚醒していき、暫くしてうっすらとだが目を開ける。


「お! やっと起きたか。 ほら、さっさと準備しろよ。 遅れるぞ?」


 少年はまだ眠りたい欲求を押さえ込み、体を起こす。

 しょぼしょぼする目を擦りながら、大きな欠伸をする。


「ふああ〜……朝か」

「おう、朝だぜ、アウィン。 やっと起きたか、おはよう」

「ああ、アカツキか……おはよう」 


 そしてルームメイトであり、子供の頃から、ずっと一緒に過ごしてきた幼馴染のアカツキと挨拶を交わす。

 元気の良い声を耳にしながら、目を開けたアウィンの目にニヒヒと人懐っこい笑みを浮かべる幼馴染の顔が映る。

 アウィンが起きたことを確認した後、後ろを向いたアカツキの背中を見つめながら、アウィンの心の中を奇妙な感覚が襲う。

 それはまるで今のやり取りが懐かしく感じてしまっているという、不可思議な感覚。

 気付けばアウィンの目からは、大粒の涙が溢れ、数滴が枕に落ち、シーツを濡らす。

 悲しくもないのに涙が溢れたことに戸惑っていると、突然頭に激痛が走り、頭に手をあてる。。


「いつっ!!」

「? おいおい、大丈夫か? どうしたんだよ」

「な、何でも無い。 ちょっと頭痛がしただけだ」

「ホントに大丈夫か? なんなら今日は寝ててもいいんだぞ? どうせすぐ終わるし」

「い、いや、ホントに大丈夫だ。 すぐ準備する」


 頭を押さえながら、心配するアカツキに大丈夫だと言うと、不服そうに自身の準備に戻っていく。

 やり取りを終えると、気付けば痛みは収まり、代わりにある事を思い出す。

 それは焼け爛れ、炎に包まれた大地。

 それは夥しい数の死体の中、自分だけが生き残った光景。

 それは正体不明の『何か』と、持ち掛けられた話の内容。

 そして、己自身に課した誓い。


「今度こそ、俺は皆を守る……!」


 (もう二度と、誰も殺させない、誰も傷付けない、絶対に皆は俺が…………俺が皆を守る盾になるんだ!)

 もう一度心の中で決意を固め、拳を強く握り締める。

 折角手に入れたやり直す機会を、棒にするわけにはいかないと、『何か』に感謝しながら、奮起する。


「ん~? なぁ、何か言ったか?」

「いや? 空耳じゃないか?」

「そっか……気のせいか、ならいいや。 ほら、遅刻するから、さっさとしろよ」

「ちょっと待ってろ、すぐ終わる」


 アウィンの呟きが聞こえたのか、アカツキが首だけを後ろに回しながら尋ねる。

 それに何事も無かったように返すと、何の疑いもなく、首を元に戻し、着替えを再開した

 懐かしい声を背に受けながら、自身も登校するための準備に取り掛かる。

 差し当たって、アウィンが最初にしなければいけないのは、もう一度かつての仲間たちと出会うこと、そして相棒と再会すること。

 もう二度と会えないと思っていた仲間たちに会えることを嬉しく思いながら、ベッドから降りると、アウィンはいそいそと服を脱ぎ、近くに用意していたに着替えるのであった。









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