納涼祭 一日目!
「さて、どうしますかね」
納涼祭本番、俺は悩んでいた。実は3日目に行われるドッジボール大会に参加させられることになったのだ。実際、クラスの展示は人はほとんど居なくてすむし、この文化祭でやろうと思っていたことは特になかった。しかし、別に運動が得意なわけではないし、そこまで好きでもない。夢の世界ではちょっとずつ鍛えているし、しっかりと役に立つレベルまではなってるはずだけど、現実ではそうはいかない。
そう考えながら特に何かするわけでもなく一般客や高校生が騒がしくいる中庭を歩いていると、後ろから声が聞こえた。
「ねえ。楓牙?」
振り替えるとそこにはこの地味な進学校には似合わない金髪の少女が立っていた。
「え? もしかして檜原さんか?」
「ええ。そうよ」
その少女、檜原さんは夢の世界と同じような姿をしていた。ただひとつの違いと言えば、髪の毛が短いと言うところだ。
「あ、ああ、これ? 髪を切ったのよ。最近。共有してからの変化は夢の世界では全く影響ないみたいね」
なるほど、髪の毛を切ったりしても夢の姿は変わらないのか。まあ寝ている間に髪型が変化すると不気味だもんな。
「ところでさ。今お金使いきっちゃったんだよね。何か食べ物おごってくれない?」
「うぉい! おかしいだろ! 呼び止めたと思ったらそんなつまらない用事だったのかよ!」
「なによ! 別にいいじゃない! お腹すいたんだから」
そう言うと檜原さんは右手を俺の前に差し出していた。俺は仕方がないので、クラスの展示の飾りつけをするときに出た折り紙の切れ端がポケットに入っていたので、それを手の上において、そのまま逃げ出した。
正直にいって檜原さんに負ける気はない。それに学校の作りは在校生である僕が一番知っている。振り切るのは簡単だ。
中庭を抜け、そのまま下駄箱抜けて校庭に出ると、いくつかの部活が出し物をしていた。そこでは様々な香ばしい匂いがしていた。いか焼きやたこ焼き、焼きそばなど焼き物類は校庭で出すことが条件だ。教室だとブレーカーが落ちたりするらしい。
実際、芸術棟でテレビをみる教室や、電動ノコギリを使うなんかしていると一度ブレーカーが落ちたことがある。
校庭の様々な出店?みたいなものをみていると、見たことのある後ろ姿が現れた。優しい感じの男の人だ。俺は後ろから話しかけることにした。
「藤田さん。来てたんですか」
その男は驚いたように後ろを振り返ったが納得してこちらに話しかけた。
「ああ、なんだ楓牙くんか。きちゃった」
「まあ、別に来たのはいいんですけど、どうしたんですか? そんなに慌てて」
俺が聞くと藤田さんは俺の手を引っ張りながら、校舎近くの大きな銀杏の木の下につれてきた。
「実はね、あのダリーにそっくりな男がいたような気がしたんだ。それでこっそりあとをつけようと思ったんだけど、途中で見失っちゃってうろうろしていたんだ」
なるほど。ダリーか。ダリーはこの前ウワーヌとの対戦などで一緒に戦った仲間だ。夢の世界の5強の一人らしく、また夢の世界で『暗視』という能力を手にいれている。ただウワーヌが能力を手にいれたのが先月のようだから、もしかしたら今月ウワーヌと順位が入れ替わっているかもしれない。まだ1日だし寝てみないとわからないけど。
「それでどうしてこの文化祭に来ているんですか?」
「あ、ああそれならこの文化祭のことを、山本さんから聞いてね。どうせ休みだったし行こうと思ったんだ。陸人くんは仕事が入っていてこれなかったけどね。すごく悔しそうだったよ。ただ、明日と明後日はくるっていったよ」
「あ、仕事がなかったんですね」
「いや、僕がかわってあげたんだよ……」
何かを哀れむような目でそう言うと、木の下にしゃがみこんだ。
「とりあえず、ダリーを探そうか」
藤田さんの言葉で、ダリーを探す戦い(ただの人探し)が始まった