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今みている夢はデスゲームですか!?  作者: サブローム狼
第1章 迷い込んだ世界はデスゲームですか!?
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最強・最凶・最狂

月明かりに照らされて一人の男がこちらを向いている。木に囲まれているそんな場所でも人だと分かった。その瞳には潤いがなく、乾いているようだった。


「きたか」


その男が口を開く。いつもならば直ぐに何者か聞くところだろう。しかしなぜかそんなきがおこらない。まるで蛇に睨まれた蛙のようだった。


「さて、こんばんは。久保田利通だ。よろしく」


久保田はそう言いながら持っていた剣を鞘にしまう。そして右手をこちらに差し出してきた。何も無さそうな雰囲気ではあったが、こいつにさわる気がしなかった。


「あ、あんた……こいつらに何をした?」


言葉が上手く出てこない。なんとか最後まで言い切って、相手の表情を確認する。


「……。挨拶が先だろうよ……」


そう言うと久保田は剣を抜こうと構える。こちらはそれに応じて構える。次の瞬間、チンっとなにかをしまう音がしたかと思うと、俺のとなりのきが一気に倒れた。見た感じ30本くらいだろうか。


「よろしく」


そういってもう一度手を差し出す。俺は仕方なく、半ば――いや完全な怯えにより手を差し出した。


次の瞬間、一瞬で手が握られたかと思うと、気づくと元の体勢に戻っていた。


「さてと、ここまで来たんだ。ちゃんと目的は果たさないとなあ……」


そう言うと久保田はこちらを見つめてくる。一体何を……。


「うーん。まあ簡単な話、その女を返してくれないかな? それでも一応俺のパーティメンバーなんだ」


久保田はそう言ってウワーヌを指差す。指のさきからビームでも出るんじゃないのかと思ったくらいだ。

俺が言い淀っていると、柊が代わりに口を開いた。


「そんなのはできないかな。殺人者にはそれなりの罰を受けてもらわないと」


「この4人と交換。といったら?」


久保田が言う4人とは外で防衛をしていた人たち、金島、三森、滝、そして檜原のことだ。倒れているが生きているみたいだ。


「どうだ? 悪い取引じゃないだろ? 3位の柊さん」


「……。そう……だね」


柊の様子がおかしい。いつもならば言い返すだろうに、未だほとんどなにも言い返せていない。それどころか、相手の提案に同意しようとしている。


確かにこの取引は悪くない。このままこいつと戦っても勝ち目が薄い気がする。柊の本気がどの程度か把握はしていないが、柊が戦っている間に残りが殺されそうだ。それに傷から直接睡眠のポーションをいれたからダリーはまだ起きてこない。これは取引に応じた方がいいな。


「分かった。その条件、飲んでやろう」


久保田の眉が少し動く。


「ん? ほう。ウワーヌを入れた人の見る目もないパーティだと思っていたが……ちょっと誤解していたようだな」


まあパーティ違いますしね。


「よかろう。ウワーヌさえこちらに渡してもらえばこの4人は解放してやろう」


その言葉に僕は藤田さんと担いできたウワーヌを地面に置く。例えこれが罠だったとしても、最善の手段であるに違いない。


次の瞬間、ウワーヌが消えた。少しだけ土煙をあげて。久保田の方を見るとウワーヌを抱えている。


「ふむ。こいつらは好きにするがいい。去らばだ」


そう言うと久保田は闇の中に消えていった。


「な、なんだったんだあいつは?」


俺の質問に柊が答えてくれる。


「彼は……久保田利通。この世界の5強の一人。というか1位。最強でありながら、人を殺すのがもっとも楽しいと考えている男の人」


いつもの明るい口調とは違う。重々しい雰囲気が漂ってくる。最強……か。


「そして彼とは5月まで親友みたいなものだった。彼の本性は知らなかったし、最強のコンビだと2人で謳っていた。でも、ある日彼は居なくなった。待ち合わせも、なにもなくなった。僕がこっちによく顔を出し始めたのはそう言うこと」


そう言うと柊は向こうを向いて倒れている4人の様子を見に行った。


そんなことが……。いや、でも今は紛れもない殺人グループだろう。なんとも言えない感情が俺を襲った。こんなことあろうとは。


「まずいですね」


俺の思考を遮るように山本さんが声をかける。


「まずいってなにが?」


「人数ですよ。動けるのが5人に対して、気絶しているのも5人。私と岡さんはそれぞれ自分の荷物を持たないといけないので持ててもさっきみたいにダリーがいいところでしょう。つまり運びきれません」


た、確かに……。いやでも俺たちも気絶していたとき運ばれてなかったしそれでもいいんじゃないかな?


「最近は盗賊も増えてますし、このあたりは殺人グループもうろついているようです。置いていくことはできないでしょうね」


この子は心を読む能力でもあるのかな。

その時草木を掻き分ける音がした。まさかモンスターか?敵と遭遇すればめんどくさいことになる。


「お、いたな」


その茂みの中から出てきたのは、イケメン筋肉の水田さんだった。


「陸人くん! 来てくれたんだ」


藤田さんが声をあげる。


「ん? どういう状況だこれ? ソーマ、説明を頼む」


あれ? 確か藤田さんの方が年上だよね。そのお互いの呼び方は違和感があるな。って言うか水田さんが藤田さんを呼ぶのは始めてみた気がする。


「いや、それが――」


藤田さんが大まかな説明をすると、水田さんはなるほどな、といった顔でこちらを見てきた。


「こいつらは任せとけ」


そう言うと水田さんは滝さんと檜原さんを拾い上げるとそれぞれを肩にかついだ。女子2人を選んだのは偶然かな? それとも女子の方が軽いからかな? 詳しいことは聞くまいと思った。


「じゃあ女子たちは二人でダリーをお願い。俺と柊で金島さんを運ぶから、藤田さんは三森さんね」


その言葉に藤田さんが全力で声をかける。


「いや! ちょっと待ってよ! なんで僕一人で?」


「力持ちそうだから」


「まあ、確かにそこそこ鍛えてはあるけど……って違う! 僕はどっちかって言うと機動力を活かした動きなんだよ! こんな重いものを一人で運べるか!」


「え? じゃあどうするんですか?」


「じゃんけんで決めよう」


そう言うと藤田さんが腕を出してくる。


「ふっ。俺とじゃんけんなんて粋な真似するな。やめといた方が身のためだぜ」


俺は何となくそれっぽい台詞をいってみる。


「よし! じゃあいくよ! 最初はグー!じゃんけん」


「え? ちょっ、ちょっと早い!」


「「ぽん!」」





町まであと1kmと言ったところか。なるほど果てしなく長い。


俺の上で寝ている三森さんは気持ち良さそうになにか寝言を言っている。くそ! 起きろよ! いや? 寝ろよ!か? そんなんはどうでもいい。 むちゃくちゃきついんですけど!


「頑張ってね。リーダー」


隣で柊と金島さんを担いでいる藤田さんがいう。く、くそこう言うときだけリーダーって呼びやがって。


そうそう。言い忘れたがなぜか俺は異様にじゃんけんが弱い。漫画とかでよくある、今まで一度と勝ったことがない!とかまではいかないが、20回やって一回勝てるかどうか。そんなレベルだ。


そうこうしているうちに町についた。町は静かだった。そこで俺たちは滝さんに別れを告げると、俺たちの宿に向かった。そこで檜原さんを休ませると、俺は気づくとソファーで寝てしまっていた。





目が覚める。太陽は高々と上がりきっていて、窓からは日が差し込んでこない。何時か確認しようとスマホに手を伸ばす。


すると目に留まったのはおびただしい数の不在着信。100は超えているようだ。


俺はそこに電話を掛けなおす。もう誰かは分かっていた。


プルル……


「もしもし?」


スマホの先の男は、普通に声をかけてきた。


「こんにちは。木下さん」


「ああ。こんにちは。俺が電話した理由は大体わかるな?」


木下さんの声が震えている。


「もちろん」


「そうか。まあ、知っての通り俺の命は多くともあと10時間だ。その前にお前に言っておきたいことがある」


「言っておきたいこと?」


外から小鳥のさえずる音がする。なんだかその音は恐ろしく不快に感じた。


「その前に……お前は生きているんだな」


木下さんが聞いてくる。


「もちろん」


「それならいい。よし。じゃあ明日、寝たら始まりの町の広場から北に行ったところに1つの保管所がある。そこに俺の荷物がある。使いたければ使え。暗号は『0823kino』だ。それさえ教えれば自由に預け入れができる」


「あ、ありがとう……ございます」


「まあ、なんかな。すまなかったな。俺が早とちりしたせいで皆も危ない目に」


「なにいってるんですか! 僕たちがもっと先に気づいていれば!」


目が熱くなる。自分が持っているスマホからはミシミシと音が聞こえた。


「皆もきっと誰も木下さんが悪いなんて思ってない! 悪いのは人を殺すやつらだ!」


「はは! そうかな! そうだったらいいんだけどな」


そう言うと彼は最後に一言つけ加えた。


「頑張れよ」


そう言うと彼は電話を切ってしまった。なぜ……なぜ夢だったものがこの世界に干渉するのか? なぜ夢だからなんでもできた、どんなことも許された空間がデスゲームになったのか。俺は……俺の無力さを悔いた。あの世界を変えなければ!


その晩、木下さんに言われたところに行くと指定されたものは、確かにあった。そこで使えそうなものを引き出した。様々なものがおいてあった。余ったものはまた保管所に保管しておいた。いつかまた、もしかしたら帰ってくるかもしれない木下さんのために。


次の日、俺は木下さんに言われたものを手に入れたことを報告しようとして、電話をかけた。


しばらくの間、プルルっと耳に残る音がしたかと思うと、ピッと音がして


『この電話は電波の届かない場所にあるか――』


この日以来、この電話に誰かが出ると言うことは一度もなかった。












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