~佐伯の過去~
「ほら、早くいくよ」
樋川が僕達をせかしながら、僕達は樋川の家を出た。
それにしても外の気温は暑かった。朝ならまだいいものの、もう正午近い時間なので、どんどん気温が上がってきた。
「ここからお花屋さんまでどのくらいかかるの?」
古井は頭の上にはてなマークをうかべながら樋川に問いかけた。
「たぶん……15分位かな? ね、笠井」
「え! あ、たぶん……」
急に投げかけられ、僕は少しとまどったが……一応樋川の意見に合わせておいた。
この島に住んでるとはいえ、僕と樋川のおじいちゃんの家はかなりはなれている。樋川だって、いつもはここに住んでるわけじゃないので、正直方向感覚が分かってないだろう。
「ね、ねぇ。ちょっと休憩しない?」
「え、だってあともう少しでつくけど」
僕は古井の意見にとまどいながらも反対した。
「だってさ……」
古井はある場所を見ながら呟いた。古井が見ている方を見ると、霜月がふらふらしている光景があった。
あ……こういう事だったのか。僕は納得し、近くにあるベンチに腰を下ろした。
「大丈夫……?」
樋川が霜月に話しかけると、少し体力が戻ってきたのか、沙耶華は少し微笑みながらうなずいた。
その間、僕はまだ不機嫌な佐伯の方を見ていた。
「なぁ、あの時さ、好きで学校辞めたわけじゃないっていってたけど……どうして学校やめたんだよ」
僕は聞いてもいいものか悩んだが、結局佐伯に聞くことにした。
「……さすがにもう隠せないよなー!」
佐伯は伸びをし、「よし!」と言い深呼吸をし話しはじめた。
「俺さ……中学2年になった時さ、母さんが死んだんだよ」
これは俺が中学2年の時だった。
僕が学校から帰ってくると、父さんが出かける準備をしていた。
「何してるんだよ」
僕が父さんに問いかけると、父さんは思いも寄らぬ事を口にした。
母さんがトラックにはねられたらしく、今から病院に行ってくるとの事だった。
父さんが病院に行ってから1時間。家の電話が鳴った。急いで病院に来てくれとの事だった。
病院に向かうと、冷たくなった母さんがいた。もう、目を覚ます事は無かったんだ。
この日からだった……。
「父さん! やめろよ!」
「うるせぇ!!!」
父さんは酒におぼれるようになり、次第に暴力を振るうようになってきた。
高校に入学してからも、暴力はなくなることがなく、父さんも病気になり、結局学校をやめざるを得なくなった。
もう、父さんは変わってしまったんだ_____________。
佐伯の話に、僕は驚きを隠せなかった。
僕達が小学生の時、佐伯の両親はとても評判がいい良心的な人だったんだ。僕らも自分の親と同じようにしたっていた。
「そんなことがあったんだ……」
古井は下を向きながら、なみだ目になっていた。
「なんでだろうな。俺、喧嘩すごく強くて、父さんの暴力なんて簡単に止められてたのにさ、出来なかったんだよ……! 俺っ……」
「もういいよ。これ以上は、辛くなるだけだろ」
感情的になっている佐伯を、僕はそっとなだめた。
「そろそろ行こっか! ほら、いつも言えないような不満とかさ、家に戻ってから発散しなよ! 私達はさ、佐伯のことずっと思ってるからさ」
樋川はニコッと笑いながら、立ち上がった。
僕達は笑顔で頷いて、お花屋さんに向かった。




