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お金の価値と味覚障害

シャクさんが探してきてくれたお店は、ちょっと洒落たカフェみたいだった。

内装は可愛くレースがあしらわれていて女性に人気があるらしく、多くのお客が女性だった。


キョロキョロと伺っていると、小さな耳にクリンと巻いた縞々尻尾のウェイトレスが忙しそうに店の中を行ったり来たりしている。


「どれにする?」


リョクさんの言葉で視線を戻すと、メニューらしき一枚の紙を俺に傾けていた。


「・・・・・・」


まったく読めない。

そっか、喋れるけど文字は読めないのか・・・


「読めないんだけど」


六人がけのテーブル。

席順は俺とリョクさん、目の前には右から幼女、シャクさん、おじさんの順番で並んでいる。


「あっ、字は読めないのか。と言うことは書けないということだな」

「ですね。この文字の意味も分かりません」


一番上のミミズがのったくっているような物を指差す。


「これは、クフィーだな」

「クフィー?」

「豆を乾燥させて煮出したものだ」


コーヒーみたいなものかな?


「じゃぁ、それ」

「おっけー。涼ちゃんは?」

「ココア」

「そんなものないでしょう」

「ココア?」


おじさんの言葉に三人首をかしげています。

コーヒーがないのにココアがあるわけないじゃないですか。

あったらびっくりです。


「甘い飲み物です。カカオという実が原料になっているんですが・・・」

「カカオ?」


やっぱり分からない。だよね~。


「甘い飲み物ならクスクなんてどう?」

「クスク?」


さすが女性。

甘い物はやはり女性が一番詳しい。

偏見かもしれないけど、女子がよく言っていたっけ。

甘いものは別腹だって。


「甘いよ。クスータって実を煎じて煮出した物だよ。私は好き」

「じゃぁ、それ」


どんな物かちょっと気になる。

後でおじさんに一口もらおう。


リスのウェイトレスさんにクスク2つとクフィー三つ頼んだ。


「かしこまりました。以上でよろしいでしょうか?」

「あっ、メニュー表は置いていってもらえますか?」

「はい。では、少々お待ちくださいませ」


ウエイトレスさんが去ると、俺はメニュー表を見つめる。

左に書いてあるミミズが文字で、右に書いてある数字が値段なんだろう。

文字は読めないけど、一番上がクフィーってことだから料金は3500って高いの?安いの?

日本円で言うなら3500は高いんだろうけど、この国の基準はどうなんだ・・・

他の物もそれなりの値段だ。

こんれに載っている中ではクフィーが一番安いな。


「どうしたの?」

「これって・・・」

「あぁ、3500ヘリンだけど」

「ヘリン?ねぇ、お金の価値を教えてよ。その話してたわけだし」

「この国の平均的な収入は、35ロウンだ」

「カリン?」

「お金にはヘリン、ロウン、カリンの三つがある」


百円、千円、万円みたいなものかな。


「ヘリンはこれ。ロウンとカリンはこれ」


シャクさんがそう言いながら机に置いた物を見る。

金貨に近いな。

ヘリンが銅貨で、ロウン銀貨、カリンが金貨というわけか。


「カリンが10000枚でロウン一枚。ロウン10000枚でカリン一枚」


ということはカリンは相当高いものと見ていいだろう。

まぁ、見るからに金貨だからな~。

庶民には到底モテない代物か。

シャクさんが持っているのは王族ということだからかな。


日本で言うと平均月収35万円ってことか。

で、クフィーが3500円。

って高くない?

物凄く高いよね。

コーヒー一杯にこの値段。

どんだけ高いの?

ってかこのお店高級喫茶店?


改めて見回してみると、確かに座っている客の洋服は上等な部類に入るのだろう。

なんだか、布も高そうに光沢を帯びている。


「ねぇ、ここ、高級喫茶店?」

「喫茶店の意味がわからないけど、まぁ、庶民は入れないだろうね~」


参考にならない・・・

シャクさんは腐っても王族ってことなのか?

俺は庶民の基準が知りたいのに。


「街の人がよく行くお店だとクフィーは450ヘリンかな」


助言ありがとうリョクさん。

そういうのが一番知りたいんだ。

思わず尊敬した瞳でリョクさんを見つめる。


「いやいや、街の事ならなんでも聞いて」

「じゃぁ、家賃は?」

「家賃?」

「そう、部屋を借りる代わりに払うお金の事」

「あぁ、宿泊施設のある宿はあるぞ。大体二食ついて1ロウンだな」

「一万円か」

「一万?」

「なんでもない。こっちのこと」


顎に手を当てて考える。

王都だけあって物価高そうだな。

日本のビジネスホテルだって3千~5千くらいじゃないか?

シーズンによっても違うだろうけど。

高すぎる。

やっぱり首都で暮らすのは難しいか。

無一文の若者が無謀にも新宿に出てくようなもんだもんな。

首都で金を稼いで僻地に拠点を置くのが一番なのかもしれない。


そんな時、ちょど注文していた品物が届いた。

香りは仄かに苦味が漂うくらいかな。

見た目は、薄い緑色をしている。

恐る恐る、一口口に含む


「ごふぉっ!!」


噎せた。


まずい。3500円払ってこのまずさはない。

味は、苦味が強くて、ぬるっとしている。

喉越し爽やかどころか、喉に絡まって嚥下するのが難しい。

ちらりと隣を伺うと、顔色を変えずにリョクさんがクフィーを飲んでいる。


「美味しい?」


ポツリと聞くと、リョクさんは肩をすくめた。


「飲めるよ」


味は問わないってことなんだ。

まぁ、これで美味しいって答えたら味覚障害を疑うよ。

要は、美味しさよりも高級店で飲んます自分。

に悦にいっている人間の集まりってことか。


「あっ、うまいな」

「なんだって~~~!!」


思わず机を叩いて立ち上がってしまった。

あまりの衝撃に状況を忘れてしまった。

店の中にいた全員の視線が集まる。


「あっ、すみません。お気になさらずご歓談を続けてください。本当にすみませんね~」


頭を掻きながらそっと自分の席に座る。


「って、おじさん。今の言葉マジ?」

「大マジ」


机に身を乗り出しておじさんの目を見つめながら問うと、おじさんも真剣な目で返してきた。

やばい、味覚障害がここにいた。


「俺たち好み合うね。俺もこれすっごい好きなんだ」


爽やかに笑いながらシャクさんがカップを掲げる。

マジかよ。

こっちの人間はこの味に慣れてるのか?

俺の味覚がやばいのか?

俺が味覚障害なのか?

いや、リョクさんの反応を見るとこれは飲めるけど美味しくはないということだし。

ちらりと幼女に視線を流すと、俺と目があったら肩をすくめた。

よし。

ガッツポーズを決める。

俺の味覚はまともだ。

まともじゃないのはこの二人だ。


案の定、おじさんの頼んだクスクは甘いだけだった。

砂糖の甘さしか感じられない。

っていうか、幼女も好きって言ってたよな。


「なぁ、幼・・・パールスさん」

「なんですか?」

「これはうまいのか?」

「美味しくはないです。でも甘いものが欲しい時はこれに限ります」


良かった。

砂糖水を美味いと言われたら幼女も味覚障害認定しなければいけないところだった。


「甘い素材は高いんだよ。だから、その甘さをたくさん使った飲み物は高価であると共に上流階級の嗜みとも言える」

「そう。だから私好きなの」


リョクさんの説明に幼女が頷いている。

なるほどね。

でも、いくら金持ちしか飲めないと言っても、こんなに不味いものに高い金だす価値あるのかね~。

材料さえあれば、俺のほうが美味いの作れるぞ。

ん?

もしかして、俺が店を出せば繁盛しちゃう?


首都には毎日の行列。

1~2時間待ち当たり前。

あまりの行列に徹夜組まで出ちゃうしまつ。

そして、売上は黒字続き。

いつの間にか首都一番のお店にって・・・


まぁ、材料がないから無理だし。

面倒だもんな。

それに一番なりたいのは商人じゃんくてハンターだしな。

男なら狩りをしてなんぼだろう。

まずは、最初の敵だ!

目の前に鎮座しているカップを睨みつける。

もったいなくて残すことができない俺は、眉間に皺を寄せながらも不味いそれを一気に飲み干した。

まぁ、その後水をがぶ飲みしたのは言うまでもないけどね。

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