焦らしプレイは苦手です。
人生二度目の終了を覚悟して、固く目を閉じてその時を待っていた。
きっと、今まで体験したことのない痛みなのだろう。
痛いのかな?熱いのか?
それすら感じないまま死ねたらいいな。
地獄だけど、神に祈るような気持ちで待つ。
待つ。
待つ。
・・・・待つ。
って長くない?
ガブッときて、ぎゃ~~~!で絶命だろう。
それとも焦らしプレイが好きなの?
俺は好きじゃない。
焦らしていいのは女の子だけだ。
まぁ、リアル女は経験ないけど。
ゲームでは得意だぜ。
焦らして焦らして、最後は・・・って違~~う!
今はそんな時じゃない。
自分の生死がかかってるんだ。
どうなっているんだろう。
恐る恐る、薄く目を開いた。
すると、虎もどきと自分の間に誰かが立っている。
薄暗いけど、暗闇に慣れたおかげで見える。
シルエットだけだけど。
スラリとした体型に、自分より高い身長。
その右手には何か光るものを持っている。
虎もどきの視線が俺ではなく、目の前の人物に注がれている。
空気がピンと張り詰めた。
恐る恐る体を起こそうとしたその時、虎もどきが大きくジャンプした。
殺られる。
スプラッタは勘弁です。
ぐちゃぐちゃもデロデロも見たくありません。
顔を背け再び固く目を閉じると、耳元で何かが落ちる大きな音がした。
反射的に目を開けると、目の前には目をカッと開き大きな口を開ける虎もどき。
あっ、食べられる。
す~と意識が遠のくのを感じた。
短い間に二度死ぬ人間が何人いるだろう。
いや、いない。
普通の人間は、一度死ねば十分だ。
俺は二度も死を味合わなければならない。
恐怖だけなら三度目だ。
もう、この恐怖から開放される。
安堵を胸に、二度目の短い人生を俺は終えた。
はずだった。
痛い。
鋭い痛みが頬に走る。
誰かに殴らてるかのようだ。
くっそ~。
虎もどきめ。
さっさと食えばいいのに、なぶり殺しかよ。
起こして、恐怖に震えている俺をパクリと食べるわけか。
最悪だな。
それにしても、痛い。
あんな太い腕・・・もとい肉きゅうで殴られてるんだ。
きっと顔なんて変形して、頬の骨とか鼻の骨とか折れてるんだろうな。
痛すぎて段々覚醒してきた。
それと同時に、怒りすら湧いてきた。
どうせ死ぬんなら、虎もどきに一言言ってやらないと気がすまない。
「さっきから、痛いんだよ!食うならさっさと食いやがれ!」
ガバリと起き上がり相手の胸ぐらを掴み上げる。
胸ぐら?
虎もどきって毛で覆われていたよな。
胸ぐらなんてあったけ?
「良がっだ。生ぎでだ」
よく見ると、俺が掴んでいたのは虎もどきではなく、人間だった。
きっと先程自分と虎もどきの間に立っていた人物だろう。
それにしても、何故泣いてるんだ。
倒れている俺の側に膝まづき、大粒の涙をその瞳から零している。
鼻水まで垂らしてるから、言葉に全部濁点が付いてよく聞き取れない。
「あのぉ~~」
「全然、・・・ヒック・・・覚ま・・・ヒック・・・死んじゃった・・・ヒック」
要するに目を開けないから死んだと思った。
生きてるか確認するために頬を連打したと。
そういうわけか。
でも、殴る必要なくない?
呼吸を確かめるとか、心音を聞くとか・・・
なにも一番荒っぽい方法取らなくても・・・
文句を言いたいが、自分のために大粒の涙を流してくれる相手に文句など言えるはずがない。
「あ~~~。大丈夫です。生きてます。ありがとうございます」
「うんうん。良かった。本当に良かった」
何度も頷きながら、涙を流す大の男に若干引き気味な自分です。
引いてもおかしくない状況だよね。
誰か、俺に賛同してください。
相手を生暖かい目で見つめていると、違和感に気付いた。
何がおかしいんだろう。
細身の体に長い手足。
うん。モデル体型なんだよね。
理想の体型だ。
違和感を感じるのはそれだけなのかな?
なんか、こう、パーツがおかしい気がする。
顔だって小さい。
正直俺よりもかなり小さい。
ちなみに俺は標準だよ。でかいわけじゃないよ。
唇は、薄くもなく厚くもなくちょうどいい感じ・・って何が?
鼻筋も通っていて、綺麗な鼻の形をしている。
目は大きくはないけど、黒目が大きい。
茶色い髪はパーマがかかってるのかな?肩まであって・・・
耳もある。
頭の横から肩くらいまで耳が伸びてて・・・
えっ?
思わず二度見をしてしまった。
耳がフサフサの毛に覆われて、垂れています。
髪とは質感が違います。
これは!ケモミミってやつですか!?
うわ~~~。俺猫耳派なんだけど、犬耳も嫌いじゃない。
あっ、女の子限定ね。
ニャンとか言われると萌えるよねw
ケモミミがあるってことは・・・
恐る恐る男の後ろを覗き込むと。
ありました。
やったね。想像通り。
長いフサフサのしっぽが左右に揺れています。
犬だ。
垂れ耳のフサフサしっぽの犬です。
犬種で言うなら、ゴールデンレトリバーって感じ!
違和感の正体が分かってちょっと満足です。