この世界で生きていくことになりました
逃げ足の早いしゃくさんを捕まえて、殴ろうかと拳を振り上げたところで思い留まります。
この人王子様じゃん。
なので、こめかみグリグリの梅干の刑で我慢しました。
これは躾です。
なので暴力にならないから大丈夫です。
走り回って喉が渇いたので、一気にカップの中を飲み干す。
ニコニコと微笑んでいるおじさんに目をやります。
というか、おじさんの頭についているものについてです。
「おじさんさ~」
「ん?」
「ねぇさっきからおじさんさんって呼んでるけど、何で綺麗なおねーさんなのにおじさん?」
リョクさんが不思議そうに首を傾げた。
おじさんだからおじさんなんです
教えるのも面倒なので適当にあしらっていると、シャクさんの知りたいオーラが目にはいった。
「おじさんと俺は従兄弟なんですよ。んで、小さい頃俺が従兄弟というのは叔父さんと呼ぶんだよ、と言われて暫くしたらウソだったって分かったんですが、面倒だったのでそのまま治さなかった。と言うわけです」
「バカだな」
リョクさんが哀れな視線で俺を見てきます。
2歳の頃は誰だってバカなんですよ。
シャクさんが悲しそうに眉を潜めて自分声をかけてきました。
「でも、今は若い女の子なんだから、普通に呼んであげなよ」
「それじゃ、つまらないじゃないですか」
「つまらないって!、おじさんは可哀想だよ。こんな可憐で清楚なのに」
可憐!清楚!
誰がですか?
目の前にいるいかにもやる気無さそうにしている人が!?
マジマジとおじさんを眺めます。
「そんな見るなよ〜照れるじゃないか」
あり得ない。
シャクさん一度眼医者行った方がいいよ。
眼科があるのか知らないけど、
「だから、一海くんも直しなさい」
「えー」
「王子命令」
変なところで権力発揮しましたよ。このバカ王子。バカ王子決定です。心の中で密かに呼んでやる。
「じゃあ、おばさん?」
「普通に呼べや」
妥協案はおじさんに却下されました。
おじさんは良くておばさんはダメらしいです。
「えー!じゃぁ、なんて呼べばいいんですか?」
妥協案のおばさんですら却下されてしまったのでいい名前なんて自分に思い浮かぶはずがありません。
シャクさんが顎に手を当てて考えております。
「涼ちゃん・・・とか?」
「却下!気持ち悪い」
「気持ち悪いって」
涼ちゃん・・・背中が痒くなってくるから却下です。
おじさんにちゃん付なんてむず痒くってたまりません。
その時、自分の脳裏にひらめくものがありました。
「じゃあ、GGは?」
「どういう意味?」
「じじぃ」
「なお悪い」
シャクさんに叱られました。
面白い呼び方なんて出てきません。
取り合えず呼び方は後日考える事になりました。
だって、全部却下されちゃったんですもん。
バカ王子のせいで後回しになってしまいましたが。
「おじ…っ」
おじさんと呼ぼうとしたらシャクさんに睨まれました
「えっと、その耳どうしたの?」
頭上に鎮座しているうさ耳をさします。
「可愛いだろう。シャクくんの見ててやりたくなってさ。似合わないか?」
「似合う似合わないでいったら。物凄く似合います」
「だろ。シャクくんも褒めてくれたしな」
「って、本物なんですか?」
「偽物。みぃ~にも作ってやろうか?」
カポっと取り外しましたよこの人。
カチューシャみたいなのにうさ耳を作って取り付けたみたいです。
それを俺の頭の上に乗せてきます。
「おっ、似合うな」
「え~~、一海ちゃんには犬耳にしてよ」
「おっ、お揃いか?いいぞ」
「よくねーよ!」
ソファに肘を付いてこちらを見ているリョクさんが会話に参加してきます。
それを睨みながら、頭からウサ耳を外して投げ捨てる。
「何すんだよ~。やっと成功したんだぞ」
文句を言いながら、拾い上げ再び頭につける。
「俺と一緒にいるときは付けないでください」
「え~~~、みぃ~にも作ってやるよ、犬耳」
「いりません!」
即効で断りました。
「獣耳は自分で付けるものではなくて、相手につ付けさせて愛でるもんなんです!」
ぐっと拳に力をれて説明したら、全員に引かれました。
同意してくれる人がいないのはとても寂しいです。
がっくり肩を落としていても話は前に進まない。
呼び方はともかく、おじさんに関しては一応自分の中で納得しました。
この世界で生きていくにしても、今の自分たちは文無しの宿無し状態。
「ところで、この世界で生きていくにしても、先立つものがありません」
話題を変えるためにコホンと一つ咳払いをして呑気に鼻をほじっているおじさんに詰め寄ります。
「ん~、なんとかなるべ」
「なりませんよ。お金がないと食事も洋服も寝るところもないんですよ」
行き当たりばったりなおじさんを説得する。
俺は石橋を叩いて叩いて、慎重に調べてからやっと渡るタイプなんです。
「ん~、宿か」
おじさんが一瞬考え込み、シャクさんを見上げています。
あれ?
なんでおじさんが俺の前に座ってるんだ?
俺が座ってる場所は、入ってきてから変わっていない。
ということは・・・・
隣でニコニコ微笑みながら座っているリョクさんを睨みつける。
シャクさんを追いかけている間に、席を変わっていたらしい。
おじさんの隣が良かったのに。
「シャクくん。泊めて」
「ん?いいよ」
「だって」
え~~~~。
宿泊施設確保しちゃいましたか?
っていうか、王族の家ですよここ。
「いやいや、ちょっと待ってください」
「ん?どうした?」
「いいですかおじさん。ここは王族が住むよな場所です。一般の人間泊まっていいような場所ではないんですよ」
「そうなのか?」
おじさんの言葉にシャクさんは苦笑いを浮かべてます。
「でも、昨日ここに泊まったぞ」
「それはきっと緊急処置というやつでしょう。長く住むならちゃんと働いてお金貯めて、家を借りなくちゃ」
「いや、そんなに真剣に考えなくても大丈夫だよ。確かに俺たちは王族の一員かもしれないけど所詮継承権なんてないし、ここに住んでるのも俺とリョクだけだし」
「でも・・・」
「一海ちゃんは甘えベタだね」
渋る俺にリョクさんの言葉が突き刺さる。
元の世界でも散々言われてきた言葉です。
「少なくとも、俺とシャクは一海ちゃんより年上なんだし、一海ちゃんは、えっと・・・学生?だっけ、それをやっていて働いた事ないんだよね。いっぺんに就職先も宿泊施設も確保しようとするのは無謀なんじゃないかな?ここは、シャクの言葉に甘えて働く場所を探すのに専念すれば?それにこの世界で生きてくなら、この世界の常識も覚えないと大変だよ」
確かにリョクさんの言うとおりです。
焦りすぎていたのかもしれない。
「俺ももちろん一海ちゃんが泊まるのなら歓迎するよ。だから俺達に甘えなさい」
見渡すとシャクさんもおじさんも皆微笑んで俺を見ている。
キュッと唇を噛んで下を向く。
こんな優しい眼差しをもらったのは初めてだ。
俺が物心ついた時は両親の間はもう冷め切っていた。
優しくしてもらったこともなければ甘えた記憶もない。
一人で頑張っていくしかなかったんだ。
涙を耐えるために唇を噛む。
そんな俺を慰めるようにリョクさんの大きな手が優しく俺の頭を撫ぜた。
「まぁ、俺の部屋に泊まるっていう選「お断わります!」」
頭を撫でていた手を払いのける。
さっきまで本当に格好良かったのに台無しです。
でも、しんみりした雰囲気はリョクさんの一言により吹き飛びました。
「シャク王子」
改めてシャクさんに向かい居住まいを正す。
「暫くお世話になります。よろしくお願いいたします」
「はい、どうぞ。好きなだけいちゃってください」
「良かったな。みぃ~」
「まぁ、おじさんのおかげで宿は確保できました。後は働く場所です」
「まぁまぁ、追々決めればいいんじゃない。一日で決める必要ないってリョクも言ってたでしょう」
「それは・・・まぁ・・・」
「ゆっくり決めればいいよ。焦るといいことないし。ね」
シャクさんの言い分も最もなので、その言葉に頷きました。




