【ドッペルゲンガー】
ピンポンが鳴った。
玄関の扉を開けた。
私はビックリした。
なんと目の前に私が立っていたのだから……。
一瞬訳が分からなかった。
私じゃない方の私は、私に向かって「私が私よ」と言って来た。
なので、私は「なに言ってんのよ!私が私に決まってるじゃな!」と言い返した。
しばらしてからお母さんが帰って来た。お母さんはどっちの私がホンモノの私なのか分からないと言った。生活費もバカにならないと言った。なので、1人は施設に預けられる事となった。それをお母さんとお父さんが夜中にヒッソリと話合っているのをドアの隙間から私と私じゃない方の私は見ていたし、聞いていた。
それからドアをそーっと閉めた。
私と私じゃない方の私は、ジーっと、20秒ほど睨み合った。
互いに顔は腫れてた。
そして眠りに付いた。
私の部屋は隣だった。
一緒にはムリだった。
殺し合うからだった。
初日に私じゃない方の私が突然、私の家に侵入して来た日、つまり、1日目、帰宅したと同時にお母さんは叫んだ。
「どっちがあんたなのよー!」
それから気絶した。
お母さんがわめき散らし、気絶した理由は子供である私が2人になっていたからである、という事だけではなく、まずは部屋がめちゃくちゃに散らかっていたからであった。
テレビはひっくり返っていた。冷蔵庫はブッ倒れていた。電子レンジはリサイクルショップでもお売り出来ないくらいの物となっていた。
そんな部屋を見て、キレイ好きのお母さんは悲鳴をあげた。それからブッ倒れたのだった。
そして、私と私じゃない方の私は殴り合いを続行した。
「私が私だー!」
そう叫びながら私は私を殴る。
「私の方が私よー!」
そう叫び、今度は私じゃない方の私が私に掴み掛かる。
2日目。この日も私は私と殴り合いをした。私も私じゃない方の私も、私以外に私が居るという事が許せなく、納得いっていなかったのである。
「私以外の私なんて死にやがれーー!ひぇえええーー!」
私じゃない方の私は近くにあったキッチンナイフを手に取り、私を刺し殺そうとして来たが、私はそれをよけた。私じゃない方の私は私のアゴを狙いアッパーを放った。私は紙一重でそれを交わす。しかし、私じゃない方の私は、アッパーが交わされたのを見逃す事なく、すかさず私のガラ空きのボディーに左フックを叩き込もうとした瞬間、私は私なので、私の事なんて全てお見通しですよ、といわんばかりに、右肘でガードを決めたとこたろで、私じゃない方の私は、私に向かって右ストレートを放った。
無論……私は、それを読んでいた。読み切ってはいたが、これ以上は霧がないと思い、私は私じゃない方の私に対し「もう、やめない?」と、聞いてみた。
私じゃない方の私は納得してくれた。
話は纏まった。基本、私は私なので、私と対立する事はないのである。
私の意見に対し、私が納得いかない事なんて1つもないのだ。
理由は私は私だからでしかないからであり、私は私の事を誰よりも分かっている、という事さえも互いに分かり合っている、という事さえも理解し合えている者同士、私同士、対立する事は不可能とさえ言えるわけである。
「よし、争いは、やめるか」……と、それからの私達は、私同士、互いに平和を約束した。
上手くやれていた。
一緒に絵を描いたり、ゲームをしたり、実力が五分五分な分だけに、何をやっても楽しいと感じる事が出来たのだ。
3日が経った。
私は私と決着の付かない腕相撲をやっていた。
4日目、私は私と同じくらいの実力を持つ私じゃない方の私と将棋をやった。やはり、勝負はドッコイ、ドッコイだった。
5日目、昼過ぎ、気付くと、私は私じゃない方の私の首を締めていた。
自分と一緒というのはどうも腹立たしい。見ているだけでムカムカしてくる。
私がそう思い始めていたという事は、向こうも同じだけそう思い始めていたという事であり、先に動いたというだけの話でしかない。
私はそう自分に言い聞かせながら私じゃない方の私の首を絞めていた。私じゃない方の私は、私の髪の毛を掴もうとして来たが、私はその手を跳ねのけ、私じゃない方の私の顔面を殴り飛ばす。私はよろける。私もよろける。2人でよろける。よろけた2人で殴り合う。
私が私じゃない方の私の首を締めた事から、私も私じゃない方の私から首を絞められ、6日目の夜が過ぎ、遂に1週間というところで、やっと、それらの全てが終わったのである。―と、つまり、施設が見付かったのである。
「これで、もう、私は私じゃない方の私と顔を合わせる事はない」
私は清々しい気分だった。
やっと離れる事が出来た。
ただ1つ、誤算があった。
それは、私である方の私、つまり、私自信の方が施設に送り込まれてしまったということであった。
まぁ、しょーがない。
私の両親が、私じゃない方の私の方を、私よりも私っぽいと判断したのだから、そりゃー、しょーがない、と言えば、しょーがない。
私の方はそう思った。
[―END―]