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 柘榴さんに初めて出会ってからそれはもう大変な日々だった。

 あの日師範が宮中に呼ばれていたのは最近増えてきていた妖怪の被害のことだったらしい。

 それで師範にも妖怪退治に協力して欲しいのと旨を役人から告げられたのだとか。

 

 これは俺に取っては都合がよかったのかもしれない。

 これは天からの師範じゃなくこれからは柘榴さんに鍛えて貰えという暗示に思えた。

 それで今の鍛練の仕方は朝は父と術の勉強。昼からは柘榴さんのところまで走り込んでそこからひたすら組み手だ。


 術を使った基本的な戦闘をこなせると判断した父は、もう術の組み手も柘榴さんにやって貰えとのことで、朝はひたすら高等術式の勉強。

 そしてそれを実践する昼からの組み手というわけだ。


 最初は1時間半は掛かっていた柘榴さん達の住み家も、今では30分を切る勢いで走り抜けられる。

 さすがに18歳になると体も出来てくるからな。


 もう柘榴さんところに通って2年かぁ。色んな鍛練したなぁ。

 百鬼組み手やら柘榴さんとの術無しタイマン勝負とか、妖怪達の巣に特攻して生き残るとか……。

 まぁ色々やったもんだが、今はもっぱらこの二人の鬼と鍛練をしている。


「貰ったぁぁぁあ!!」


「萃香!突っ込みすぎだっての!!」


 この丘の鬼達の中で柘榴さんの次に強い二人、勇儀と萃香。

 この二人は柘榴さんが前に言ってた能力持ちで、勇儀はパワータイプ。、萃香は少し搦め手を使ってくる鬼だ。


 突っ込んでくる萃香をいなしながら躱す。

 そのまま後ろに倒れたかと思った萃香は能力を使って巨大化するとその大きな拳で俺を叩き潰そうとする。


「あれ?何か壁がある……」


 そんな攻撃まともに受けるなんてことできないし、躱しても衝撃で体勢を崩される。

 だから俺は父から教わった障壁の張り方を必死で練習してきた。

 今ではこんな風に鬼の攻撃ですら防げる強度になったけどな。


「じゃあちょっと本気で殴ってみるぞ!!」


 力任せの拳にさらに妖力が上乗せされる。

 こうなると俺には防ぐ術はない。足に霊力を集めて大きく跳躍すると、俺はすぐ前に迫った勇儀の蹴りを体を反らすことでかわす。


「随分と反応が良くなってきたじゃないさ」


「そりゃ毎日やられてりゃあな!!」


 勇儀には捕縛術式を使って僅かだが時間を稼ぐ。

 正直この捕縛術式は鬼には通用しない。いや、そこらの鬼なら丸一日拘束できるんだが、勇儀や萃香、柘榴さんのクラスになると一瞬足止め出来るぐらいで何の役にも立たない。


 けど俺はその一瞬の足止めを最大限に活用しながら戦うしかないんだ。

 俺が考えたのは一瞬の足止めの間に、結界を張って勇儀をパワーダウンさせるという方法。

 捕縛結界、対魔結界、呪結界を展開して勇儀を包囲、さすがにこれには勇儀も堪えたようで結界の中で片膝をついている。

 最後に最大霊力の術で倒そうとしたところで萃香の邪魔が入った。


「……間に合わなかったかっ」


「驚いたねぇ。まさか三重結界なんて……」


「確かに凄かったけど、それでも勇儀は油断しすぎだよ」


 困ったなぁ……もう霊力が全然残ってない。

 三重結界で捕らえた後に勇儀を倒せなかったらもうこっちの勝機はゼロだ。


 だったら、何時も通りあれしかないか……。


「お?ようやく来た。待ってたよ、それ」


 俺が選んだのは全霊力を鎧のように纏った格闘術だ。

 この時代の格闘術に、俺が現代で見た格闘技の技を見よう見まねで取り入れた武術。

 はっきり言って技は洗練されてもいないし無駄も多い。

 けどそれを可能にするのは霊力の鎧のお陰、無理な動きとかを可能にしてくれるからな。


「うぉらぁぁぁあ!!」


 勇儀に向けて放った拳は勇儀の腕に阻まれる。

 しかしその腕からギシギシという音が鳴ってきた。


「……ホントに人間とは思えない力だね。いいよ、この怪力乱人が相手してやらぁ!!」


 俺の手と勇儀の手を重ね合わせて純粋な力比べが始まる。

 

「っく……おぉぉおおお!!」


 勇儀の能力は『怪力乱人を操る程度の能力』つまり勇儀の腕力に底はない。

 だんだん釣り上がっていく勇儀の腕力が俺の手を握り潰そうとする。


 それに拮抗するように俺も霊力の放出量を増やして対抗するが、体の芯から激痛が走った。

 おそらく霊力放出量の限界を迎えてる。もう、これ以上は保たないか……。


 手を握り潰される前に勇儀に足をかけてそのまま投げ飛ばす。

 一度離れたところで手に治癒を掛けながら俺は全力で勇儀の頭に蹴りを放った。

 

 蹴りは勇儀の腕に阻まれ、そしてそこからは拳の猛攻。

 それを躱し、はじき、受け流しながらも俺は着実に勇儀に攻撃を加えるが、俺も捌ききれなかった数発を体に貰った。


「いい、最高だよ!鬼以外でこんなやり合える奴がいるなんて!」


 あぁそうかい……だけど生憎こっちはもう限界だ。

 骨も何本も逝ってるみたいだし、霊力もそろそろ底を尽きる。


 最後は華々しく散ってやるさ。


 集めた霊力を手刀に集める。

 イメージするのは鋼の刃。鬼の体をも切り捨てる最強の刃。


「最後ってかい?おら、かかってきな!」


 どっしりと構えた勇儀に俺は手刀を振り下ろす。

 手刀はきまった。勇儀の肩口から脇腹までを切り裂いた。


「お疲れさん。楽しかったよ、少し休みな」


 俺の腹に突き刺さった拳。

 俺の手刀は勇儀の体を薄く切ったが、勇儀の拳は俺の体に深く突き刺さっていた。


 まだ、だめだったか…………。

 あぁ、もう意識が……。










 おはようございます。

 もう夕暮れです。


 ていうか最近こんなんばっかりだ……。

 組み手から本気の喧嘩になって俺が気絶して終わり。


 でも今回はまだマシな方だったかな?

 途中で空気を読んだ萃香が身を引いてくれたし、前回あの二人と本気でやった時はお手玉のように俺の体が吹き飛ばされた。

 全身の骨がいかれて本気で死ぬかと思ったけど、そこは柘榴さんの能力で元通り。


 まぁ、こんな無茶な鍛練も柘榴さんのお陰で成り立ってるんだけどね?


「起きたか。調子はどうだい?」


「……体がだるいです」


「そりゃそうさ。私は傷は癒せても疲れは癒せないからね。

 まぁそんなこと言えるんなら大丈夫なようだね。ほら、もう夜が来る。早く帰んな」


 軽くあしらわれた俺は重たい体を引きずって山を下りる。


 途中で萃香に「明日は私の番ね!」と言われた。

 ……まぁいいけどさぁ。明日もこうなることは確実のようですね。









 家に帰り、すぐにご飯が用意される。

 父も母さんも俺が鬼と組み手していることにはもう突っ込まないと決めたようだ。


 最初の内は「大丈夫なの!?」「何かあったら言いなさい」とか言ってはいた。

 けど疲れてはいるようだけど、怪我はないってことからそこまで酷い事をされているんじゃないんだなと判断したようだ。

 本当は毎日殺されかけてるけどな……。


 たまになんで俺こんなに必死になってるんだろうって思うことがある。

 それで少し何も考えずにボーッとしていると、ふと考えてしまう。

 萃香や勇儀、柘榴さんに勝つ方法を。


 最近は少し力量の差が埋まってきた感じがするから、余計に『もしかしたら勝てるんじゃね?』って思ってしまうんだよ。

 でも人間と鬼じゃ地力の差が大きすぎる。

 だから最近は新しい術式作れないかなぁって頑張ってはいるんだが、中々はかどらない。

 何かこう、コツを掴むことが出来ればすぐに進むとは思うんだけど……。


 まぁ、いいさ。今日も地道に術式でも考えてみますかね。


「あら?こんばんは。お邪魔してるわね」


 どうやら部屋を間違えたみたいだ。

 部屋には金髪の美女が座って巻物を読んでいた。

 …………金髪?


 いやいや、この時代の日本に金髪は、いるか。妖怪だけど。

 じゃああの美女さんは妖怪?でもなんで巻物?っていうかあれ俺の巻物……。

 

「入らないのかしら?」


 襖越しにそう言われてしまう。相手が妖怪なのに警戒もせずに襖を開けた俺はもう色々と麻痺してるんだろうな。

 

「フフッ、こんばんは」


「……こんばんは」


 やっぱり俺の巻物を読んでいた。

 って言うか読めるの?現代の日本語で書いてあるはずなんだけど?


「漢字を元にしている文字だし、法則性もある。

 それにこれだけの量の文献があるから法則も見つけやすかったわ」


「……声に出してました?」


「不思議そうな顔でコレを見ているものだから。

 それにしてもこの内容は面白いわねぇ。……まるで未来のことのよう」

 


 そりゃあ1000年以上後の世界から来ましたから。

 とは言えずに無言で金髪美女の方を見る。


「申し遅れたわね。私は八雲 紫。妖怪よ」


「安倍晴明です。陰陽師見習いです」


「見習い……ね。大妖怪と名高いあの鬼達と渡りあっていながら見習いを名乗るなんて、随分と謙虚な子供じゃない」


 この人、俺のことをどこまで知っている?

 悪い人……じゃ、無いと思う。殺そうと思えば俺のことなんて殺せる。それだけの妖力をこの人は持ってる。

 じゃあこの人のメリットはなんだ?なんで俺の前に現れたんだ?

 ……分からない。底が知れない怪しい妖怪。でも悪気はないように見える。

 俺を見る目も敵意とかそんなんじゃなく、面白い物を見つけたような、そんな目をしている。

 

 だったらここはダイレクトに聞いてみた方が得策かな。


「すみません。私は馬鹿なもので……紫さんの目的がよく分かりません。

 あなたは陰陽師としてそこそこ力を持ってる私を殺したいからここにいるのですか?」


「残念ながらそれは違うわ。強いて言うならその逆かしら?」


 逆?生きていて欲しい?

 俺に生きていて欲しいってのは……何か利益があるから?

 でも利益ってなんだよ。

 あー、もうよく分からんこの人。


「とりあえず害意はないってことでいいんですよね?」


「えぇ、私は絶対にあなたを傷つけないわ」


「それであなたは私に何を望むんですか?」


 それを聞いた瞬間、今まで楽しそうにしてた紫さんの眼が怪しく細められた。


「……聡明にて大胆。鬼と対峙する気概もある。本当にこれで18歳なのかしら?

 あなたには陰陽師としての絶対的な地位を得て欲しい。それが私の望み」


「地位……ですか」


「そう。でもお願いするばっかりじゃないわよ?これでも私は長く生きてる妖怪、様々な国の術や魔法を知ってるわ。

 それをあなたに教える。これでどうかしら?」


 やっぱり魔法ってあったんだ……。いや、陰陽術がある時点で少しは分かってたけど。

 でも俺に魔法ってのが使えんの?魔力ってのはあるのか?


「何も魔法をそのまま覚える必要はないでしょう?

 魔法の成り立ちを知って、そこから新たな陰陽術を開発することだって出来るわ」


 確かに、それなら可能かもしれない。

 っていうか俺の心の問答に答えないで下さい。


「そう、ですね。私にも損は無いですし、分かりました。受けましょう」


 それを聞いた紫さんは安心したのか、今までとは違う心からの笑みを浮かべてくれた。


「ありがとう……。それじゃ、また明日の夜に来るわね」


 立ち上がった紫さんは突然現れた変な裂け目に入ってそのまま消えてしまった。

 ……何?あれ?


「気にするな俺。気にしたらキリがない。だって妖怪なんだから」


 うん、そうだ。気にしたら負けだ。

 

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