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彼は昨日大学仲間と共に居酒屋で酒を飲んでいたはずだった。
良い気分になってきたところで今日はお開きとなり、フラフラしながらもアパートへと帰ったはずだった。
なのに
(なんで喋れないし動けないんだよ……!!)
目を開けて初めて見えたのはまるで知らない景色だった。
そして慌てて飛び起きようにも手に力が入らない。そして叫び声を上げようにもその口から出るのは「あぁう~」という間抜けな声だった。
全く状況が理解出来ない彼だったが一つ気付いたのは腕が縛られている訳でも、猿轡をされているわけでもないということ。
なら喋れない原因も動けない原因も自分自身の体にある。
彼は自分の体が病に倒れたのかと思ったが、ここはどう見ても病院という雰囲気じゃない。
せめて腕だけでも動かないのかと彼は必死に目の前に腕を持ち上げると、そこには驚きの光景があった。
(嘘……だろ……?)
目の前にある自分の腕はブヨブヨに丸みを帯びていて、指は短く関節が見えないほどに肉が付いている。
俺はあの一晩でここまで太ったのか?などと考えるが、それもどう考えても不可能だ。
「あら?晴明はもう起き上がりたいのかしら?ふふっ、随分とせっかちな子ね」
(晴明って誰っすか)と彼が言おうとした瞬間に彼の体がふわりと持ち上がる。
どうやらこの女性に持ち上げられているらしい。
そこで彼は気付いた。
この細腕の女性が自分を持ち上げられるはずがない。
一夜にしてこんなに腕がブヨブヨになるはずがない。
(い、いや……まさかな?)
「今お乳をあげますからね。すくすく育ってね。私の赤ちゃん」
あぁ、やっぱり。
彼のそんな呟きを尻目に女性は彼を部屋の外へと連れて行った。