第6話 配信スタート
目が覚めた瞬間から、腹の底に冷たい石が入っているようだった。
身体の芯がバカみたいに重く、そして冷え込んでいる。
懐かしい感覚だ。
前世、大切なプレゼンがある時なんかはこの感覚を覚えていた。
社会人時代に戻ったような気持ちだ。
こういうときは、大きな失敗をするか、予想以上の大成功を納めか。
結果は両極端だった。
今日は、当たりを引きに行く。
わかってんだろ?
ミスったら死ぬ。
敢えて自分にプレッシャーをかけるように、何度も、何度も、何度も何度も――繰り返し念じた。
ミスったら死ぬ。ミスったら死ぬ。ミスったら死ぬ。ミスったら死ぬ。ミスったら死ぬ。ミスったら死ぬ。ミスったら死ぬ。ミスったら死ぬ。ミスったら死ぬ。ミスったら死ぬ。ミスったら死ぬ。ミスったら死ぬ。ミスったら死ぬ。ミスったら死ぬ。ミスったら死ぬ。ミスったら死ぬ。
ミスったら死ね!
それでいい。
甘えはいらない。
そして、私はベッドから這い出た。
◆
今は極東ミネネの初配信直前。
私は配信ツールの使い方をおさらいしていた。
「おうハズレ、好調か?」
矢崎が私に声を掛ける。
いつもより落ち着いた様子だった。
私も落ち着いていた。
「コンディションは良いですよ。毎日飯食ってゴロゴロしてたんで」
矢崎は私の顔を見て目を見張り、一瞬だけ口角を吊り上げた。
「必死に戦略でも練ってくれていたか? 随分と覚悟決まっためをしてるじゃねぇの……」
「そうならなきゃいけない状況にしてくれたのはアンタでしょ?」
「へっ、そうだったな。しっかし、オメェ、俺たちが考えてたプランの大半を没にしやがって」
元の初配信は30分から 1時間の予定だった。
当然、用意されていたプログラムは私が強行する 100時間のスケジュールには不適切だ。
矢崎たちが元々考えていたプランは私が破り捨てた。
「自分の命懸かってるんで、自分が信じるプランで戦いたいんすよ」
「ああ、俺でもそうする。VTuberなんぞやったことは無いが」
自分の組の活動だろうに、矢崎は他人事のようだ。
まあ、実際これに失敗しても私をバラして売るだけだから、他人事なのかもしれないが。
いつだって御上は気楽なもんだぜ。
「見てろよ矢崎、私を捨て駒にできないようにしてやる」
「ハッ、大口叩きが」
私の言葉を聞くと、どこか満足そうな顔をして管制室へ戻る矢崎。
もしかすると、発破を掛けに来たつもりなのだろうか。
相変わらずよく分からない爺だ。
私の居る配信室からガラス窓で隔たれた先には、スタッフの控える管制室がある。
そこには矢崎、葛西、田村に加えてエマが待機していた。
エマは私の見学だろうか。ボーッと椅子に座って私の方を見ている。
私が向こう側のエマに小さく手を振ると、彼女は小さく頷いてくれた。
未だによく分からない子だけど、あれで気を使ってくれているのかもしれない。
この二週間、一緒にVTuberの配信を見たりと会話がないながらも何だかんだ交流をしてきた。
表情は少ないけど、悪い子ではないのは分かっている。
今までは余裕がなくて彼女とちゃんと向き合ってこれなかったけれど、これが終わったらもう少し彼女と仲良くなる努力をしよう。
でも、全てはこれから始まる配信次第。
「ハズレ、時間だ」
テロップで葛西から合図が来る。
「今世初出勤だ。行くぞ、如月ハズレ」
私は自分に言い聞かせるように独り言ちる。
――配信スタート。
地獄の五日間が始まる。




