第29話 顔合わせ③
「オイ、あの配信者マジで大丈夫なのか? だいぶ情緒が不安定だったぞ」
「失礼なことを言うんじゃねぇよハズレ。リリアちゃんは最大手の配信者だぞ」
「あ? リリアちゃん、だぁ⁉」
「ヤベッ……」
坂神リリアとの初ミーティングを終えた直後、私は一緒にミーティングに参加していた田村へ率直な感想を伝えた。
てっきりコイツからも同じような意見が出てくるかと思ったら、田村は私に苦言を呈した。それどころか、リリアをちゃん付けで親しげに呼ぶ田村。
「お前……薄々気づいてたけど只のVTuberオタクだろ?」
「ぐっ……い、良いだろ別に。……んなことよりオメェ! コラボ相手の情報くらい前もって調べろや!」
クソ野郎めが、話をそらしやがったな?
前々からやたらVTuber事情に明るいと思っていたんだ。市場調査を真面目にやってるのかと思ったら、どうやらコイツは趣味で配信を見てるだけだったらしい。
とはいえ、それが悪いことかと聞かれれば、そうとも言えないのは確か。そして悔しいことに、私が事前に相手の情報を確認しそびれていたことも間違ってない。
「あれについては悪かったな……素直に私の確認不足だ」
もともとVTuberに興味がなかった私は、少し前まで坂神リリアのことを知らなかった。
正直今だっていくらかのアーカイブと切り抜き動画を覗いた程度の知識しかない。
「リリアちゃんは今年の3月から4月までの1か月間、一切の活動を休止してたんだよ。公式から発表された理由はメンタルの不調って話だった……」
「やっぱりか……。にしても、あの様子だと未だにメンタルには問題有りって感じだな」
「まあ……ちょっと心配になる雰囲気ではあったとは俺も思う」
私がうっかり地雷を踏み抜いたあと、唐突に誰かに対しての猛烈な拒否反応とスピリチュアルな発言を繰り返したリリア。
あんな状態の彼女を見て、メンタルの不調は完全に治ったと思う奴はいないだろう。
間違いなく、あれはメンヘラと言われる類の人だ。
「にしても、どーして私なんかをあそこまで推してくれてるのかね……」
彼女が本気で極東ミネネを好きでいてくれているらしいことは確信できる。大してトークもゲームも上手くない私を、それでも推してくれているのはどうしてなのか。私には自分の魅力がイマイチ分かってない。
「そりゃあお前が………………いや、なんでもねぇ」
何かを言いかけた田村は、それを誤摩化してしまう。
「なんだよ?」
「うるせぇよ……エマにでも聞いてみな」
田村からはどうにも煮えきらない言葉が返ってくるのであった。




