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その配信に命を懸けろ~【悲報】TS転生したワイ、借金のカタに売られた極道の元で美少女VTuberをすることになってしまう~  作者: 真嶋 青
第二章

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第24話 足りないもの

 私がVTuberデビューを果たしてから今日でちょうど半年経つ。

 あれから、何という事もなく時は過ぎて行った。

 

 日々の配信はそれなりの盛況をみせ、今では目標のチャンネル登録者50万人を超えて、極東ミネネチャンネルの登録者数は55万人。

 さらに、三ヶ月前に立ち上げたファンクラブの会員数は既に2500人を超えている。

 月額500円プランが2000人、1000円プランが500人。

 これだけで売り上げで言えば月々150万円だ。もちろん諸経費を引いて利益で見れば額は落ちるが、収益は他にもある。

 動画の広告再生で得る利益に、最近になって来るようになった案件の利益額を合わせれば先月は楽に250万以上稼いだだろう。

 どちらか一方の中間目標をクリアできればいいところ、私は両取りできたわけだ。


 もちろん、これは極東ミネネだけの利益。

 これに極東ヒカゲの利益を合わせれば、矢崎たちもニッコリの金額だろう。


 何も申し分のない結果。

 如何に矢崎と言えども、文句のつけようもないはずだ。

 私は提示された仕事以上の成果を叩き出した。


 だけど――――。


「何かが足りない気がするんだよな……」


 私は今の日々になにか大切なものが欠けているような気がしている。けれど、その正体が分からない。

 

 

「……あと100回」


 ブスくれた顔で私に話しかけてくるエマ。


「ゴメン、そっちの話じゃない。トレーニングは充分だから……」

「…………」


 エマから無言の圧が掛かる。

 

『喋る余裕があるならトレーニングを続けろ』


 きっとそんなことを思っているに違いない。

 

 今でも『極東ミネネアイドル化計画』は継続されている。

 週に一度の顔出しレッスン配信に加えて、毎日の虐待。もとい、エマ教官による指導。

 日々の教育の成果は確かで、私はそれなりに歌が上手くなっている実感があった。

 

 何よりも、歌配信中に流れるコメントの内容が一目瞭然に変化している。

 嘗ては下手な私を応援するコメントや、面白がっているコメントが大半だった。

 けれど、最近では私の成長を称賛するコメントが目立つ。

 初配信のヤケクソ歌企画を知る古参勢は腕組みして頷いていることだろう。


 それでも、まだまだエマの隣で歌声を披露する気にはなれないが……。

 

 エマの方は凄い。なんと音楽レーベルから声が掛かっている。

 素人の私でも、エマのレベルの高さは理解できる。

 聞く人が聞けば、もっと伝わるものがあるのだろう。

 企業から、曲を提供するから歌って欲しいと言われているんだとか。

 ヒットすれば、そのうちエマの歌声がテレビに流れるかもしれない。


 私も、エマも、それぞれが成果を出して良い波に乗れている。

 危なげがなく、快適な波だ。


 正に、順風満帆な日々。

 

 だけど、何か空虚な気持ちにさせられる。


 何かが足りない。

 

 ここ数日間で、そんな考えが脳裏をよぎるようになった。

 今の自分に物足りなさを感じてしまう。

 でも、足りない『何か』の正体が分からない。

 

 初心を忘れて必死さを失ったのではないか、そんなことを考えたりもした。

 でも今だって毎日全力でトレーニングはしているし、毎夜視聴者を楽しませるために頭を捻り苦心している。

 たぶん、デビュー当初と比較しても、努力を怠っているというわけじゃない……と思う。

 数値化できないものを天秤に掛けても結果はでない。


 でも、初配信で感じた自分自身の熱が、今の私にはもうないことは確か。

 

 そうだ、熱が無い。

 刺激、夢中さ、熱。


「う~ん……なんでだぁ?」


 悩みすぎて思わず唸り声が出てしまう。

 そんな私へ苦言を呈するのは葛西だった。


「ハズレ、聞いてんのか?」


 今は矢崎に呼び出されていつもの如く事務所の一室に居る。

 相変わらず無駄に高そうな革製のソファーは座り心地が良い。

 

「おっと、 1ミリも聞いてなかったっすわ」


 誤魔化す意味もないから素直に答える。


「テメェなぁ!」


 葛西は私の回答にご立腹。

 矢崎はいつものニヤケ面だ。

 

「ハッハッハッハ! オイオイ、ハズレェ随分と考え込んでるじゃねぇの」

「いや~、すんませんね。なんか大事なこと言ってました?」

「なぁに、お前が中間目標を達成してくれたんで、そのことを褒めちぎっていただけだ。もう一回褒めて欲しいか?」

「いらね」

「ダッハッハッハ!」


 本日も楽しそうで何よりだ。


 そんなことを思った端に、いつもと違う真面目な顔で私を見つめてくる矢崎。


「でぇ? 何に悩んでんだ?」


 初めて見るかもしれない真面目くさった矢崎の顔に面食らってしまう。

 

「なんですか? 相談にでも乗ってくれるんで?」

「オウ、偶には年の功ってもんを見せてやろうと思ってな」


 マジかよ。槍でも降るのか?

 それとも相談料でも取る気か?

 

「お幾らで?」

「1時間で10万ってとこだな」

「くたばれ爺」


 こちとら本気で悩んでいるというのに、ふざけたことを吐かしやがって!


「ダッハッハッハ! ……ま、今のは冗談だ。金なんか取らねぇよ。これからお前に大事な話があるんだ。……それなのに、そんな腑抜けられてちゃ話にならねぇ」

 

 今度はどうやら本気らしい。

 とはいえ、相談するにもなんと言えば良いやら。


 いや、ここは素直に直球で行くか。


「……なんか、熱がなくなっちゃったんですよね」

「なるほどな」

「えっ? 今のだけで分かるんですか?」


 たった一言で何かを理解したらしい。

 表情からしてふざけているわけじゃない。

 矢崎は一度頷いてから私の言葉に答える。


「目標がなくなったんだろ」

「中間目標を達成したから気が抜けてるって?」


 それは私も考えた。でも、何か違う気がする。

 そもそも、中間目標を達成したところで満足感などなかった。生憎と燃え尽き症候群になるようなメンタリティは持ち合わせてない。


 しかし、矢崎から続く言葉は予想外の物だった。

 

「ちげーよ。中間目標はそもそもお前の目標ではない」

「はい?? いやいや、アンタから私に課した目標でしょうよ」

「そうだ、あれは俺がお前に与えた課題だ。俺のためにな。……だから、根本は俺の目標なんだよ。さっき言ったのは、お前自身の目標のことだ」

「あ…………」


 悔しい。たぶん合っている。

 

 なるほど、自分の目標を持たないまま今の状況に流されているから虚無ってるわけか。


 思えば私が半年間VTuberをする中で一番やりがいを感じたのは、初配信だったかもしれない。

 矢崎から提示されたチャンネル登録者数1万の目標。それを突っぱねて自らぶち上げたハードルを越えたあの瞬間。

 あの時は、誰かの目標じゃなくて()の目標になっていた。


「ああ、なるほど」


 ようやく自己分析することができた。

 思わず独り言が漏れる。


「私自身の目標がないからつまらないのか」

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