第23話 ファンクラブ
「待てハズレ」
配信を終えてエマと部屋へ戻る途中、疲れ切った私を引き留めるのは矢崎。
こちとら全身の痛みで何にもできない状態だ。
目の前のバカが突然エマを乱入させた件についての文句を言う気力すらない。
「なんすか? 今日はもう何もできないっすよ」
「オウオウ、随分と疲れ切ってるなぁ」
管制室からエマにしごかれる私を見て爆笑していたくせに、何を言ってんだクソ爺!
いちいち人の神経を逆撫でする奴だ。
身体を鍛えたらケツを蹴り飛ばしてやるからなテメェ……。
「で? さっさと用件言ってくださいよ」
「オウ、そーだな。ハズレ、お前のファンクラブを作る。当然エマもだ」
「はい?」
「ファンクラブだよ。ほら、ファンから月一で金を取り立てるアレだ」
借金の回収みたいな言い方するんじゃねぇよ……。
つまりアレか、限定サービスを提供する代わりに定期的な支援金を受け取る的な。
「良いんじゃないっすか?」
最近は登録者の伸びが良いから忘れていたけど、中期目標は何もチャンネル登録者50万人だけが達成目標じゃない。
月間収益250万円。そっちのルートからクリアしてもいいんだ。
それを考えれば毎月金が必ず入るファンクラブを育てる戦略は理に適ってる。
初めて矢崎からまともな策が出てきたかもしれない。
「うむ、では近々ウチのカメラマンを用意して撮影会を実施するから、そのつもりで居ろ」
「ん? 待て待て、なんで写真?」
「オメェらのコスプレ写真を撮るからに決まってんだろぉが。毎月ファン特典でお前のコスプレ写真を投稿するんだよ。そのくらい分かれよなハズレェ」
分かる訳がねぇだろボケがっ!
やっぱこの爺からまともな案なんて出てくるわけねぇわ。
なんで私がコスプレしなきゃならん!
普通は限定配信とかそういうのだろ!
「いやいや、普通は限定配信とかでしょ。誰がVTuberの中の人がコスプレしてる写真で喜ぶんだよ」
「俺もネタでとったアンケートだったんだがなぁ……結構喜ぶファンが居るみたいだぞ、ほれ」
いつだかを思い出す状況。
矢崎は私に自分の携帯画面を徐に見せてくる。
そこにはSNSのアンケート結果が――――。
『極ライブのファンクラブ開設につき、皆様が希望するファン特典のアンケート調査をさせてください。アンケート結果を考慮して今後の活動に取り入れさせていただきます』
1. 支援者限定のお礼配信 35パーセント
2. 支援者から抽選10名への直筆お礼レターお届け 15パーセント
3. 支援者限定、中の人のコスプレ写真投稿 45パーセント
4. その他(リプライ欄に詳細を記載してください) 5パーセント
「いつの間に……」
「今の配信中にコメントで流しておいた。お前は筋トレに夢中で気づかなかったみたいだなぁ。ダッハッハッハ!」
そんなわけで、私たちは知らぬ間にコスプレイヤーへの一歩を踏み出すことになってしまった。
なっちゃったらしい……。
◆
斯して、撮影会当日まで時は進む。
「あら~! 二人ともようやくいい感じになったじゃない! 最高よ~! その絶望を含んだ笑顔!」
そりゃあ、本当に絶望してるからなぁ……。
変態コスプレおじさん――神田さんによって、私とエマは最近流行りのアニメキャラと同じ服を着させられている。
エマがエルフの魔法使いで、私はその弟子らしい。
ファンクラブ初特典の写真撮影だ。
「つーか、こんな服よく持ってましたね……」
「バカねぇ! 今日の為にアタシが作ったに決まってるでしょ!」
無駄に高い技術力を見せつけられた。
これ作ったのお前かよ!
「そ、そーなんすね、流石っす。マジ尊敬です」
どう反応すれば良いのか分からなくて意味不明な誉め言葉だけ呟く私。
誰でもいいから早く解放してくれ。
「それじゃ、二人で手を繋いでジャンプしてみましょうか! に~っこり笑ってね!」
「うっす」
「…………」
ダメだ、エマは完全に感情を失っている。
早急に終わらせなければ……。
「エマ、 1回で終わらせるぞ」
「…………」
カクカクと出来の悪い人形のような頷きを返すエマ。
その動き止めろよ……そのうち首が取れそうで怖い。
「それじゃ、行くわよ~。3……2……1! オラッ飛べ!」
神田の合図でジャンプする。
――パシャッ!
「あら、いいじゃない! 今日はこの辺でいいかしらね」
満足げに頷く神田を見て私はその場に腰を下ろす。
「終わった~」
「……ん…………」
エマが私の片腕に巻き付いて体重を預けてくる。
相当にお疲れのようだ。
かれこれ2時間近くポーズを取らされていたから仕方あるまい。
「お疲れエマ……頑張ったな」
「…………」
エマは黙って私に頭を撫でられている。
エマと出会って実はまだ二ヶ月程度。
もう長い事一緒にいるような気がする。
会ったばかりの頃なら頭を撫でたりすれば蹴りが飛んできていただろう。
「ふっ……」
初めて蹴られたときのことを思い出して一人で笑ってしまった。
エマは、それに反応することもなく怠そうに私にへばりついている。
考えてもみれば、エマと出会って二ヶ月という事は、VTuberを始めてからもその程度しか経っていないということだ。
私たちは、いつの間にやらチャンネル登録者を30万人近くにまで伸ばしている。
「なんか、凄いことになったな」
「……ん?」
私のぼやきにエマが疑問を示す。
『急に何言ってんだコイツ?』
エマの顔からはそんな考えがありありと伝わってくる。
相変わらずな妹分だ。
でも、今はそんないつも通りなエマの調子が心地よい。
「エマ、これからもよろしく」
「…………ん」
良く分かっていなそうな返事だったけれど、私は満足できた。
「ちょっと~! 二人ともいつまでへたれてるの~? 帰る準備をしてちょうだい! スタジオを借りるのもタダじゃないのよ!」
「うぃーっす!」
神田の催促で私は立ち上がり、エマの手を引く。
「帰るぞ、エマ」
「……ん」
こうして、今日も一日が過ぎる。




